
ワトソンとフライデーの不思議な関係(屍者の帝国)
ワトソンとフライデーの不思議な関係
この本は伊藤計劃の作品ではあるが、伊藤計劃のプロットとプロローグ(試し書き)を元に円城塔が書いたもので殆どは円城塔の文章です。
私は最初、伊藤計劃でないのなら読む必要はないかと逡巡しました。
しかし読んでみれば、これは確かに伊藤計劃の本でした。
見事に伊藤計劃の世界観が現されてしますが、書いたのはやはり円城塔で、もし伊藤計劃が生きていたのなら違う物語になっていたかも知れないのですが、その「もし」という世界がない以上、やはりこれは伊藤計劃の物語で間違いないでしょう。
屍者の帝国はフランケンシュタイン博士が生み出した、死体に新たな生命を吹き込んで「屍者」として動かす技術が日常の労働から戦場にまで普及した世界を描いています。
後にシャーロック・ホームズの盟友となる男、ジョン・H・ワトソンが主人公で、医学生だった彼は有能さを買われて政府の諜報機関のエージェントとなり、とある極秘指令が下されます。
フランケンシュタイン博士というのはイギリスの小説家メアリー・シェリーのゴシック小説に出てくる登場人物の名で、映画で描かれた彼の造った化け物の額に縫い傷のある特徴的な四角い顔の大男のビジュアルは、現在はそちらが「フランケンシュタイン」と認識されるほどに有名で、知らない人はいないでしょう。
しかし、フランケンシュタインの造った化け物には感情があり言葉を話しますが、「屍者」はただの動く死体でしかなく感情はありません。
ワトソンはフランケンシュタインの造った一番最初の「屍者」であるザ・ワンと出会うことにより「屍者」の秘密を知ることになります。

フランケンシュタイン
著者: 千葉 淳生/Shelley Mary Wollstonecraft/吉上 恭太/メアリー・シェリー
出版社:集英社
発行年月日:1996.07.01
この物語はアメリカのマサチューセッツ州の医師、ダンカン・マクドゥーガルの「魂は物質的実在である」という仮説を取り入れてより現実的に描かれています。
ダンカン・マクドゥーガルは6人の末期患者を計測し、そのうち1名が人間は死んだ時に生前より21グラム軽くなったことを発表しました。それはもちろん受け入れられることもなく批判されましたが、その後数十人の死の瞬間を撮影し、人間の頭部には「星間エーテル(光の媒体として仮定された粒子で存在しません)」にも似た光が取り巻いており、この光が肉体から離れていく21グラムなのだと発表しました。この件でダンカン・マクドゥーガルはすっかりオカルトの世界の人間という扱いになってしまいます。

魂の重さは何グラム? 科学を揺るがした7つの実験
著者: 林 一/Fisher Len
出版社:新潮社
発行年月日:2009.04.01
「屍者」は死体から抜け出た21グラムの隙間に疑似の魂を加えることで生まれます。
馬車を引くだけだったり、軍隊として戦場で戦ったりと用途によってインストールできるのです。
日本は明治維新の頃で新政府軍の「屍者」の兵隊の活躍により西南戦争で薩摩軍を打ち破っています。
主人公のワトソンはフライデーと言う名の「屍者」と旅をします。
フライデーは通訳とワトソンの言葉を記憶し筆記する二つのソフトがインストールされています。
機関から貸与されたフライデーはワトソンにより様々な言語資料を記憶し、それを書き出すことができるばかりか、ワトソンのジョークまで真面目に記録します。
そんなワトソンとフライデーの関係はどこか伊藤計劃と円城塔を彷彿とします。
映画では原作と違い、この二人(一人と一体)は親友として描かれていますが、そう改変されたのもワトソンの言葉をフライデーが淡々と記し続けたように、映画でワトソンが「屍者」ではなく「生者」としてフライデーを蘇らせようとしたように、どちらがどちらというわけではなく、「生命(魂)」を介した二人の関係がまるで伊藤計劃と円城塔のように感じてしまうからなのかも知れません。(千鶴)


