
作家インタビュー:夢枕獏

「キマイラ」シリーズ第1作となる『幻獣少年キマイラ』が登場したのは、1982年。
以降、33年に渡って書き続けられている長編シリーズ「キマイラ」。
今なお進化しつづける「キマイラ」シリーズについて、著者・夢枕獏先生を直撃インタビューしました。
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夢枕獏インタビュー
―「キマイラ」シリーズは、先生にとって“生涯小説”とも言われていますね。30年以上、ひとつのシリーズを書き続けるというのはどんな感じなのでしょうか?

もうね、大変ですよ(笑)。僕がこのシリーズを書き始めたのは、30歳のとき。ちょうど小説作家になって書き始めたばかりのころだから、それまでネタとして自分の中で溜めておいたものがたくさんあったんです。だから、資料を読み込んだりする必要もなくて、ただただ「とにかく面白いものを!」という一心で、書きたいように書けたんです。
でも、人間いやでも歳をとる。いろんなことが変化するからね。肉体的にも精神的にも、時代的にも。新たな設定のために、歴史的事実や現代との接点を見つけるために膨大な資料を読み込まなきゃいけないし、当然、若いころのような速度では書けない。そのかわり、小説技術はあがっているわけだからそこでカバーもできるんです。
ただひとつ言えるのは、いったんこのシリーズを書き始めると、「めちゃくちゃ面白いものを書いてやる!」と意気込んでいたあのころの僕に戻れるっていうこと。書き続けることや、さまざまな変化に折り合いをつけることはものすごくしんどいことだけれど、だからこそ「キマイラ」シリーズは僕にとって特別な存在なんだと思います。
ちなみに、30年間書いていて、物語の中の時間はまだ1年も経ってないからね(笑)。渋谷や新宿の街並みは驚くほど変わったのに…。携帯も当時はなかったけど、今は当然みんな持ってるし。いやあ、これは本当に大変です。
―キマイラシリーズに出てくる主な登場人物たちは高校生。主人公の大鳳吼と久鬼麗一は“キマイラ化”と呼ばれる、身体変形の能力をもつ少年です。ある事件をきっかけに「強くなりたい」と願う大鳳が、挙法「円空挙」の使い手・真壁雲斎に弟子入りし、鍛錬に励むうち、自分の中に潜む凶暴な“何か”に気づき始める…。そこから物語は始まっていきます。

いろいろなことが変化しても、変わらないものがあります。それは、いつの時代も男の子が憧れる、“強さ”とか“冒険”とか、そういったもの。それがこのシリーズの根底に流れる大きなテーマです。結局、男はいくつになっても変わらないんですよ。強さへの憧れ、執着がある。「俺はあいつに勝ちたい」ってね。男同士なら、会った瞬間「こいつと俺とどっちが強いかな」「勝てるかな」って無意識に推し量るように(笑)。
でもね、強さっていろいろあるってことが、成長とともにわかってくるんです。最初は自分よりも強い相手を倒したい、強さを証明したいってところから始まるかもしれない。自分を鍛えるためかもしれない。でも、他人や自分との戦いを通して、強くなっていくにつれて“本当の強さとは何か”悩むようになる。守りたいもの、守るべきものに出会ったとき、おおいに悩むんです。強くありたい、でも、“どう強くあるのか”。どんな手を使っても勝つことが強いことなのか、ときには美しく身をひくことが強いのか。
30年も書いてきて、僕自身まだ答えは出ていません。けれど、戦って相手を倒してまたさらに強いヤツが現れてそいつを倒して…と、どんどん戦いがエスカレートしていく中で、単なる殺し合いの物語にはしたくないんです。というか、殺し合いではないものを書くために、僕は数十年悩みました。今もまださまよっているけれど、たどり着いたのが「道(どう)」。剣道や柔道、空手道の「道」です。ただ人を倒すだけではなくて、人の道も追求する「道」。そこに救いがあると思っています。
それともうひとつ。「キマイラ」シリーズはどうしてもファイトシーンが多い。グロテスクなシーンも多いんです。そこを、美しく描きたいと思っています。主人公たちがキマイラ化したときなんて、もう化け物ですからね。でもそんな悲惨な場面も、いかに美しく書くか。そこはわりと気を使って書いています。
―「キマイラ」シリーズには、主人公のほか、師匠やさまざまな刺客たち…。美しく戦う男性がたくさんでてきます。ご自身と一番近いと思うキャラクターは誰ですか?

よく聞かれるんだけど、全員です。全員、僕の分身であり、僕の一部をちりばめています。強くなりたいと願う大鳳はもちろん、強くて心優しい九十九三蔵は、当時の僕の等身大の部分。彼らの師匠・真壁雲斎は僕の理想の老境です。強くて教養があって酒好きでいいかげんだけど、人のことを自分のことのように考える懐の深い人。まあ、当初は62歳の設定が、今や僕は64歳。年齢を超えちゃいましたけど(笑)。
それから、負の部分の分身は、菊地良二。彼は完全な“やられ役”で、最初は単なる脇役でした。負けて悔しくて、その執念だけをモチベーションに強くなっていくんです。誰もが倒せないと思っている久鬼に対して「俺はお前なんか怖くない」と菊地が言った瞬間、彼のキャラが立ち上がってしまった。きっと誰もが心の奥底に抱える、どす黒い“獣”のような部分を菊地は背負っています。菊地が登場したせいで、彼を書くのが面白くなってしまって、物語がどんどん長くなっていますが(笑)。
ただね、登場する女性は…もちろん分身じゃないですよ(笑)。僕、女心がわからないから…。だから女性を書くのが苦手でね、ドラマや映画、漫画でみた女性の中から引っ張ってきて書いています。女性のことはいまだによくわかりません。
―そうですか? 九十九三蔵が織部深雪に「お前は俺が守る」というセリフがありますが、女子はみんなキュンキュンしてますよ(笑)。

それね、実はうちのかみさんに聞いたセリフなんです(笑)。九十九三蔵のそのシーンを書くとき、「なんて言われたら女性は嬉しいんだ?」って聞いたら、「“あなたのことは私が守る”って言われるのが一番嬉しい」って言われて。それで書きました。
あのセリフから、というわけではありませんが、九十九は女性に人気ですね。誠実で、強くて優しくて直球勝負で。「結婚するなら一生守ってくれそうな九十九さんがいい」という女性もいました(笑)。その九十九と人気を二分するのが、龍王院弘。彼はとにかく美貌の持ち主でね、超男前なのにものすごく強いってのが女性に人気のようで。登場した当時はバレンタインデーに「龍王院様」あてのチョコがたくさん届きました。
―男性なら「こいつは俺に似ているな」、女性なら「あのシーンのあのセリフ、言われたい♡」など盛り上がりそうです。
そういった楽しみ方もうれしいですね。ぜひ、女性にも読んでいただきたいです。とにかく、30年も書き続けていますからね、大長編小説なんです。そんな中、こうして電子化をされて配信というのは本当にありがたいことです。僕自身、一気に再読したいくらい(笑)。結局、僕自身が読みたいものを書いているわけですからね、ここらでひとつ、一気読みしてみようかな。
さて、今後の「キマイラ」シリーズですが、人間の中に潜む“獣”部分を背負った菊地の存在は見どころですし、何より“キマイラはなぜこの世に存在するのか”という大きなテーマを書き切らなければいけません。構想はずっとあるものの、時代は刻々と動いています。物語の中の世界を超えるような凶悪な犯罪が現実として起きる中、小説としての世界やロマンとの折り合いをどうつけるか。それが僕の戦いでもあります。「さて、キマイラをどうしようか」と、頭を抱えながら書き続ける。そこがなんとも面白い。もはや僕のライフワークともいうべきこの作品を、これからも大切にしていきたいと思います。
取材・文/田中美保(スタッフ・オン)
夢枕獏(ゆめまくら ばく) プロフィール

作家、1951年1月1日、神奈川県生まれ。
東海大学文学部日本文学科卒。
1977年に作家デビュー。
以後、『キマイラ』『サイコダイバー』『闇狩り師』『餓狼伝』『大帝の剣』『陰陽師』などのシリーズ作品を発表。
1989年『上弦の月を喰べる獅子』で日本SF大賞、1998年『神々の山嶺』で柴田錬三郎賞を受賞。2011年『大江戸釣客伝』で泉鏡花文学賞と舟橋聖一文学賞を受賞。同作で2012年に吉川英治文学賞を受賞。
漫画化された作品では、『陰陽師』(漫画 岡野玲子)が第5回手塚治虫文化賞、『神々の山嶺』(漫画 谷口ジロー)が2001年文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞をそれぞれ受賞。
映画化された作品に『陰陽師』『陰陽師2』(東宝)、『大帝の剣』(東映)などがある。






















