
Serendipity ~偶発的な出会い~ vol.4日本史をつくった女たち

時代に振り回された浅井三姉妹、淀(茶々)、初、江。彼女たちは、家の血を絶やさぬよう政略結婚とは知りつつも嫁いでいきました。江は、後に3代将軍家光の生母となり、大奥を仕切ることになります。日本史の表舞台は、いつも男の世界。でも、その男を産むのは女です。歴史を裏で作っていた光を当てるべき女性たち。
戦国の時代を借りて、私はいまを生きる人の力になるものを書きたい。
江を通じて、新しい信長像や家康像を炙り出す。
「篤姫」は宮尾登美子さんの原作があったんですが、「江」には原作となるものがありませんでした。そもそも彼女についての資料はとても少ない。ならば自分で書くしかないということで、今回は脚本だけでなく、原作小説から担当することになりました。こういう経験はほとんどなかったので、「なんでこんなことを始めてしまったんだろう」とも思いましたが(笑)、同時に面白味も感じていました。江は織田信長、豊臣秀吉、徳川家康という戦国時代の大物たちと深く関わった人物ですが、この三英傑は非常に人気があるだけに、それぞれの人物像はある程度出来上がっていると思うんです。でも江という、これまで脚光を浴びることのなかった女性の側から彼らを見つめることで、新しい信長像なり家康像なりが炙り出せる。そこはひとつの醍醐味です。
戦国の勝者は江である。

「武士の家計簿」を書かれた磯田道史さんは「戦国の勝者は信長でも秀吉でも家康でもなく、江である」とおっしゃってます。彼女は徳川という将軍家に嫁いで7人もの子を生み、天皇家や公家、たくさんの大名家に娘たちを嫁がせました。これほど多くの遺伝子を残した人はいないでしょう。つまり生物学的な勝者なんです。女って、泣きながらも次には笑っている変わり身の早さ……よい意味でもある種の図太さを持ってますよね。それがどの家にも入り、染まっていける女の強み、江の持つ強みでもあると思います。
それにしても、江のような逸材がこれまであまり取り上げられることもなかったのは不思議です。篤姫にしてもそうですが、埋もれていた女性たちを取り上げ、物語を創作し、広く知っていただくことも私の仕事なのかなと最近になって思いますね。
Profile
田渕久美子 脚本家

59年島根県生まれ。出版社勤務、塾講師、プログラマーなどを経てシナリオスクールへ通い、85年デビュー。主なテレビドラマ作品に『勝利の女神』『ニュースの女』『殴る女』『彼女たちの結婚』『定年ゴジラ』『女神の恋』など。NHK連続テレビ小説『さくら』では橋田壽賀子賞受賞。映画、舞台、ミュージカル、落語、狂言の脚本も手がけ、08年のNHK大河ドラマ『篤姫』は空前の大ヒット。篤姫的生き方指南『女の道は一本道』(小学館)も話題に。
現在放送中の、NHK大河ドラマ第50作目にあたる『江~姫たちの戦国~』の原作・脚本も手がける。
こんな本はいかがでしょう
時代に翻弄された浅井三姉妹の江。織田、豊臣、徳川と続く三家の覇権争いのなか、江は政治の道具として三度も結婚させられます。しかし彼女は、叔父信長の気配を感じさせる勝気さで、自分に正直に生きました。側室を持たなかった徳川秀忠の正室として、家光を生み、これからの徳川時代の基礎を作ったのです。
江と春日局の跡継ぎ争いから始まり、“篤姫”天璋院と和宮の確執を経ての終幕まで、大奥には数多くのドラマがありました。800人もの女性を囲い込む大奥には、欲望や期待、諦めや悲しみがうずまいていたのです。年間費用140億円もの贅を尽くし、江戸時代を裏で支えた女の舞台を解き明かします。
歴史の教科書に出てくる女性は、どうしても限られてしまいます。でも、そのところどころに登場する女性は、強く人を惹きつけます。紫式部や清少納言など仮名文字を生んだ平安時代の女流作家。歌舞伎の祖、出雲阿国。大奥で凌ぎを削った数百の女性たち。日本の女性何を守り、何を変革してきたのでしょうか。
幕末から明治にかけて、娼婦として海外へ連れだされる女性たちは、“からゆきさん”と呼ばれていました。情報などない田舎の子が、唆され出稼ぎとして拉致されたのです。そうした完全に埋もれた女性史に光を当てたのが本書。他にも、モンゴルの女子教育に尽力した女性など、まだまだ私たちは何も知らない。
紙で味わう一冊
「戦国三姉妹 茶々・初・江の数奇な生涯」 / 小和田哲男 (著)/ 角川学芸出版

執筆前に読んだ江についての唯一の本です。学術書ほど重いものではないので、非常に読みやすい。とは言え、予備知識なしに読むのは辛いと思いますが(笑)。そういう意味で、私の書いた小説やドラマを見たうえで手に取っていただければ、とても素晴らしい手引きになると思います。









