
Serendipity ~偶発的な出会い~ vol.45 「通俗」から見えてくる日本社会

ケータイ小説を通して日本の郊外文化について考察する『ケータイ小説的。“再ヤンキー化”時代の少女たち』、ラーメン史から戦後の日本史を焙り出す『ラーメンと愛国』などの著作によって高い注目を集めているライター、速水健朗さん。いつも読み手を驚かせてくれる、その斬新かつユニークな着想はどこから生み出されるのか? 書き手としての姿勢や、意外な(?)読書歴などについてお話を伺いました。
ジャーナリストは社会正義を上から語る人ではない

僕の仕事は、世の中で起きている新しいことを調べて、本という形にすることです。それってジャーナリストの仕事だと思うんですけど、日本でジャーナリストというと、「元新聞記者で、政治の腐敗に切り込む社会正義の人」という暗黙の了解のようなものがある。ジャーナリストがビジネス寄りの本を書いて叩かれる例も見ます。でもアメリカでは、いろんなジャンルの人が、ビジネスパーソン向けの本を書いていて、おもしろい流れを生んでいる。たとえば僕が、近年で一番感銘を受けた『FREE〈無料〉からお金を生み出す新戦略』を書いたクリス・アンダーソンは『WIRED』の編集者。この本では、サービスが無料で提供される仕組みをその歴史からさかのぼり、経済学の視点から解明している。
僕自身は、ちょっとアプローチは違うんですけど、これまで『ケータイ小説的』『ラーメンと愛国』といった本を書いてきました。今起こっていることを、ごく身近なアイテムから紐解いていく。それが僕のやりたいことなんです。みんなラーメンのおいしい店の情報には興味があるけど、ラーメン店の変化に日本社会の変化が反映しているとは思いませんよね。でもちょっとした疑問、たとえば「いつからラーメン屋の店員は、作務衣を着るようになったんだろう?」ということを調べていくと、メディアが日本社会に与えた影響といったものが見えてきたりするんです。また、CMでヒットした最初の商品がチキンラーメンだった歴史をひもとくと、そこから日本のメディア史や戦後史も見えてくる。そんなふうに、新しく起きていることを材料にメディアと日本社会を見つめることが、僕のやりたいことなんです。
通俗すぎて誰も語らないような本を、ものすごく読んできました

本は昔からよく読んでいます。ただ、ノンフィクションを徹底的に読むようになったのは、ここ10年くらいかな。10代、20代は、読書家と呼ばれるような人たちがすぐに卒業していくような本ばかり読んでました。子どもの頃から江戸川乱歩や横溝正史、赤川次郎を片っ端から読んでいて、その延長で海外ミステリーを読み始めて。あとは大藪春彦、山田風太郎とか。一番好きな作家がアガサ・クリスティーで、いまだによく読み返します。赤川次郎は、やはり〈三毛猫ホームズ〉シリーズの第一作『三毛猫ホームズの推理』がもっとも好きな作品ですね。
新しい都会的なミステリーとして、はまりました。
1980年代前半頃の都会のイメージが、赤川次郎の作風ととてもマッチしていたように思います。クリスティーの『ナイルに死す』とかはトラベル・ミステリーなので、1930年代当時の文化や観光産業のこともよくわかる。大人になって読むと、「このときはこういう社会状況だったのか」と違う目線で楽しめて、すごくおもしろいんです。
僕は、本をたくさん持ち歩くんですよ。一泊旅行で、5冊くらい。近くの蕎麦屋に昼飯に行くときも、2冊持たなきゃ気が済まない。1冊がつまらなかったときのために、15分ぐらいかけてもう1冊を選んで、結局読まずにスマホを見て帰ってきたりするんですけど(笑)。でも、そういう人間にとって、電子書籍の登場はまさに福音ですよね。自分の読むような本がカバーされてないので、まだ使ってはいませんが、あとはタイミングかな。これからクリスティーを本で揃えようとしたら本棚ごと買わないといけないけど、それが端末ひとつで済むならこんな魅力はないですから。クリスティーの全巻入りの電子書籍が出たら、僕、10万円で買いますね(笑)。
誰も取り上げないものの中にこそ、社会を反映した何かがある

僕の物書きとしての強さは、人とネタがかぶらないことでしょうね。僕が見つけてきているのは、「みんなが知らなかったもの」ではなく、「みんなが知っているけど、語らないもの」なんですね。それを否定も肯定もせず受けとめ、大まじめにその背景を調べ、そこから何かを見つけ出してくるのが自分のスタイルだと思っていて。それが、通俗的であればあるほどいい。誰もまともに取り上げようとしないものの中にこそ、社会の先端を反映した何かが絶対あると僕は思っているんです。
最新刊『都市と消費とディズニーの夢 ショッピングモーライゼーションの時代』では、ショッピングモールを題材にしました。ショッピングモールって、漠然と「郊外」や「下流社会」といったイメージで語られがちだけど、はたしてそうなのか。その状況を把握するためにショッピングモールの歴史をたどり、今、都市で起こっていることについて語った本です。
僕が常に興味を持っている分野は、テクノロジーと経済と戦争です。直接それを語らなくとも、本を書く際は、それらがどう関わっているかは重要視しています。そういう意味では、『機関銃の社会史』という本は、常に下敷きにしている1冊です。これは機関銃の発明により武器が機械化されたことで、戦争の在り方や社会がどう変化したかを説明した本です。僕の場合は、もうちょっと庶民的なところに手を付けていく感じですけど、アプローチは常に変わらないつもりで仕事をしているんです。
今後手を付けてみたいと考えているテーマはお葬式です。今、急速に樹木葬など新しいタイプのお葬式が広がっていて、日本人の死生観も変化している。それはちょっと調べてみたいなと思っています。
Text/Tomoko Yabe
Profile
速水健朗 編集者・ライター

メディア論、都市論、ビジネス書書評などを中心に活動中。
近著に『都市と消費とディズニーの夢 ショッピングモーライゼーションの時代』『ラーメンと愛国』など。
NHK『NEWS WEB 24』、TBSラジオ『文化系トークラジオLife』出演中。









