
Serendipity ~偶発的な出会い~ vol.24 競争は苦手

今なお爆発的ヒットを飛ばしているアニメーション『The World of GOLDEN EGGS』。シュールな笑いと脱力系のキャラクターで老若男女問わず多くの人の心をガッチリとらえ、日産自動車のテレビCM“低燃費少女ハイジ”ほか、多くのヒットCMを手がける、人気アニメディレクター・文原聡さん。アニメ、CM界を大きく揺るがした、マルチな才人・文原さんが、このたび初の絵本を出版。その話題の絵本のSony Tabletでの配信を記念して、インタビューに成功!絵本制作にまつわるエピソードから、文原さんの人生哲学まで、ヴェールに包まれた素顔に迫りました。
桃から生まれた桃太郎ならぬ、○○から生まれたボビーが主役
アニメーション畑のボクが「初めて絵本を手がけた」ということで、まず聞かれるのは「桃太郎をリメイクしたのはなぜか?」という点です。その答えは、「絵本と言えば桃太郎しか知らない…」という実に消極的な理由(笑)。いや、マジメに話すと、桃太郎のお話って、誰もがストーリーを空で話せるくらい古典中の古典ですよね。初めて絵本をつくるわけですから、いきなり奇想奇天烈なものをつくってしまってコケたらちょっとダサいかも、だから最初は基本から行こう…と。あ、やっぱりちょっと消極的ですね(笑)。
もともとは、

1年ほど前に「乗用玩具のロディ(写真)を新たにデザインしてほしい」という依頼をいただいて、それなら今あるロディはそのままに、自身のオリジナルキャラクターとのコラボをと考えたんです。そこで生まれたのが9人のロディキッズ 別ウィンドウで開きます 彼らはカウボーイスクールに通う子供たちで、今は訓練用のロディにしか乗れないけれど、いつかは立派なカウボーイになることを夢みている、という設定です。そこから、「ロディキッズたちを使った絵本をやってみないか」というお話をいただいたんです。
そんなわけで、
「子供」というキャラクター設定がすでにある中で、どんなお話にしようか? と、担当の方々と打合せを重ねました。その結果、最初に進めていたテーマは「ロディキッズ、初めてのおつかい」。ロディキッズのうちのひとり、ボビーがロディにまたがって、ひとりで初めての冒険をするというお話です。ところが、最終原稿を渡すという段階になって、いつの間にか桃太郎になっていました。
絵本担当者より
「原稿を受け取ったときは面食らって動揺し、すぐにお電話しました。ええっ、内容が全然違ーうっ!と(笑)。ただ、その原稿があまりにも斬新で面白く、大笑いしてしまったので、よし、これで行こう!と確信したのも事実です」
…すみません。

大変ご迷惑をおかけしました…。実は、絵本用のお話を考えるにあたって、何度か本屋に行って平積みの絵本をリサーチしました。で、最近流行りのテイストを取り入れよう、などとちょっとした色気ももちつつ(笑)、「初めてのおつかい」をベースにした原稿を書き進めるうち、ボクの中にフツフツと疑問が湧いてきたんです。もっと原点に戻るべきなんじゃないか?昔ボクらが読んだ絵本のように、強いストーリー性やメッセージ性があってもいいんじゃないか?と。それで、近くの図書館に飛び込んで、誰もが知っている桃太郎の絵本を手に取ったんです。
実際、
あらためて桃太郎を読んでみると、とてもわかりやすいお話でした。やっぱりもっとシンプルに行くべきだ、と。それで、ごっそり原稿を書き変えたんです。ただし、桃太郎のストーリーをベースに、ボクらしい味つけはしました。たとえば、桃太郎では、川で洗濯をしていたあばあさんが、「どんぶらこっこ~」と流れてくる大きな桃を持ち帰りますよね?でもこの絵本では、川から流れてくるのは巨大なビーフジャーキーです(笑)。つまり、桃から生まれた桃太郎ではなく、ビーフジャーキーから生まれたボビーという設定。やっぱり、カウボーイと言えばテキサスだし、みんなガツガツお肉を食べてるイメージがあるじゃないですか?そして、ボビーはロディにまたがって、桃太郎でいう鬼的存在(この絵本では地主・笑)を退治しに出かける、というお話です。
この絵本で

一番言いたかったことですか?…うーん。難しい質問ですね。しいて言うなら「第一印象で人を判断しちゃダメだよ」ということでしょうか(笑)。とにかく、読んだ人が「中身はあんまりないけど、なんか笑えるよね」「もう一度桃太郎読み返してみようかな」「考えすぎず楽しく生きよう」と、気楽な気持ちで手に取ってもらえたらうれしいです。
初めて絵本を
手がけてみて、一番難しかったのは“空間の制限”でした。たとえばアニメーションだと、家来になる動物たちが遠くからやってくる→奴らは一体何なんだ?→ボビーと出会う→みんなで会話する、と細かいカットにわけて、いろいろな視点から家来との出会いのシーンを表現できます。でも、絵本だとそのシーンを集約して1カットで見せないといけない。言いたいことはたくさんあるけれど、ページ数も絵も文字数も制限がある。その中で、もっとも読みやすく、わかりやすくなるよう、絵と文章で構成しなければいけない。詰め込み過ぎてもダメだし、そぎ落とし過ぎてもダメ。ボクは絵本が初体験だったから、そういった“バランス感覚”をつかむのが大変でした。同時に、面白いと思ったのは、本は読む人のタイミングで次へ進む、という点。アニメーションだと、作者のタイミングでお話は進みますが、絵本は読む人が自由に好きなタイミングでめくることができる。時には戻ったりもする。そのあたりの違いを体感できたのは、ものすごくいい経験でした。
実は、
「低燃費少女ハイジ」のアニメーションを手がけて以降、1年以上、アニメーションの制作から離れていました。いろいろなお話をいただく中で、自分の中の別の可能性があるなら試してみたい、いい経験になるのでは? と思って。でも、今回絵本を手がけたことでますますアニメーションって面白い、と実感しました。やっぱりボクはアニメーションが好きだ!と。だから、そろそろ戻ります。これからはまたアニメーションに本腰を入れるつもりです。
えーと。

アニメーションでも絵本でも、仕事をするうえでボクが唯一大切にしているのは、「自分にしかできないことをやる」ということです。こう言うとエラそうに聞こえるかもしれませんが、他の人ができることなら、競争になってしまうじゃないですか。単に、競争が苦手なんです(笑)。ちょうど第二次ベビーブームのボクらの世代は受験戦争が激しくて、ボクは大学受験で挫折した派なんですよ。だから、エリートには勝てない! という劣等感から、できれば競争したくないんです。なのでライバルの多そうなところにはいかない、と。たとえばアニメーションなら宮崎駿さんのようなザ・王道ではなく、ちょっとマイナーな路線を狙う、みたいな(笑)。
そう考えると、
小さいころから王道を選んでこなかったなぁ。コンポを買うならソニーではなくアイワ、ビデオならVHSじゃなくベータ、マンガならコロコロコミックじゃなくてコミックボンボン、雑誌ならファミ通ではなく、ファミマガとか…。そんな王道を歩みきれなかった(?!)“アイワ愛的精神”が今のボクをつくっているのかもしれませんね。
Text / Miho Tanaka(staffon)
『RODY Kids ボビーのぼうけん』/スタジオクロコダイル(作)/ゴマブックス

ある日、おばあさんがテキサスの荒野の川で洗濯をしていると、巨大なビーフジャーキーが流れてくる。家に持ち帰ると、その中からカウボーイの子が生まれてきてボビーと名乗り、自らロディにまたがると、おばあさんたちを苦しめる地主を退治しに出かけていく。そこでボビーを待ち構えていた運命とは…?今最も注目のアニメディレクター・文原聡率いる「スタジオクロコダイル」が手がける、破天荒で愉快な初の絵本。
RODY Kids × ゴマブックス
Profile
文原 聡 (ふみはら さとし) アニメディレクター

1975年、千葉県生まれ。大学時代に観たアニメ映画『ストリート・オブ・クロコダイル』に衝撃を受け、アニメーションの自主制作を開始。卒業後、CG制作会社へ入社し、フリーに。2005年、実験的につくったアニメ『The World of GOLDEN EGGS』が評価され、プラスヘッズに入社。2007年に独立し、スタジオクロコダイル設立。日産自動車NOTE、サントリーCCレモンなどのCMを手がけるほか、北斗の拳、ディズニーなどとのコラボレーション作品も多数。
趣味は映画・海外ドラマ観賞。80年代のアメリカのものが好きで、現在ハマっているのは『マイアミ・バイス』。好きな食べ物はビールとカレー(王道ですが…)。ついつい泣いてしまうのは甲子園中継。アイディアが生まれる場所は、黙々と歩いているとき。密かに、出身地である“館山ふるさと大使”も務める。
