
山久瀬洋二 インタビュー

大手出版社の駐在員として渡米後独立し、16年間ニューヨークで暮らし、現在は異文化ビジネスコンサルタントとして活躍している山久瀬洋二さん。山久瀬さんはこれまで、100社近くのグローバル企業のコンサルティングを手がけ、日本人の言動が思わぬ“誤解”を生み、ビジネスがスムーズに進まないという、“もったいない”ケースを数多く目にしてきました。著書『日本人が誤解される100の言動-国際交流やビジネスで日本を再生するヒント』には、そのような誤解がなぜ、どのようなシーンで生まれたかが、ふんだんに紹介されています。日本人が陥りがちなコミュニケーションの“落とし穴”とは…?
“誤解”が多発!異文化コミュニケーションのワナ

日本人って、本当に英語の勉強が好きですよね。だれもが“英語が話せるようになりたい”と言い、就職試験や企業の査定でもしきりにTOEICのスコアを気にしているけれど、残念ながら、永遠にうまくならない人が多い(苦笑)。でも、欧米や日本をはじめとしたグローバル企業、96社4500人をコンサルティングしてきた私の経験から言うと、欧米の人を相手に交渉したり、プレゼンテーションをするとき、極端なことを言えば、英語はできなくてもいいんです。それよりもっと大事なことを見落としているために異文化摩擦が発生し、誤解を引き起こし、ビジネスがうまくいかないことが多いのです。
なぜそのような誤解が起きるのか、さまざまな“もったいない”事例を知ることが根本的な解決の一歩になるのでは、と考え、身近で具体的な例を『日本人が誤解される100の言動-国際交流やビジネスで日本を再生するヒント』という本にまとめました。
例えば、日本人が会議の席上で腕組みをして目をつぶっている姿を外国人が見れば、“眠ってるの?それとも何か気に障ることでもしたかな?”と思われる。
大きなトラブルがあったときに“ちょっと問題がありまして…”と表現をやわらげるつもりで“a little bit problem”と言ったら、“大問題でしょう!”と額面どおりに受け止めた外国人の逆鱗に触れた…etc.。つまり、何気ないジェスチャーや表情、論理展開の方法や価値観の違いなどが、思わぬ誤解を引き起こしているんです。
国レベルでも“誤解”は起きています。数年前、世界的な日本の自動車部品メーカーが、製品に不具合を出し、社長がアメリカ議会の公聴会に呼ばれたことがありました。彼が英語で“英語が苦手なので、緊張してすいません”と切り出したところ、アメリカ人は“??”という反応。“あなたの英語力なんてどうでもいい。大事なのは話の内容。こんなに自信のない人の話を聞く価値があるのか?”と思わせてしまいました。
先の震災で起きた原発事故では、外国メディアに向けて開かれた記者会見で、“すべての情報が収集できないと安易なコメントはできない”という報道官の慎重な姿勢が、“日本は何か隠しているのではないか。これは相当深刻だ”と受け止められ、在日外国人が続々と本国に帰国するという国際的な風評被害を招く事態に。欧米流に“知らないことは知らない、いつまでに調べます、以上。ハイ次!”と淡々と説明していけば、不用意に恐怖をあおることはなかったかもしれません。
また、ずいぶん昔の話ですが、故・宮澤喜一元首相がアメリカのテレビ番組で10分間のインタビューを受けたとき、“起承転結”で話を展開しようとしたところ、“結”を先に聞きたいインタビュアーが途中で何度も質問を差し挟み、“結”にたどり着くことがないまま、予定の10分が終わってしまったこともありました。
実力や日本人のよさが、伝わらない理由
このように、日本人がうまく立ち振る舞えない例を本でも書き連ねていると、“日本人って、なんだかダメですね”という感想が、少なからず寄せられるんです。とんでもない!私はどちらかというと、お米のほうが好きですし(笑)、日本人ならではの気づかいやサービス精神、価値観は素晴らしいと思っています。ただ問題なのは、欧米に対して、その日本人のよさや自分の実力を表現するのがヘタなこと。せっかくの資質をコミュニケーションスタイルで台無しにしているのが、もったいないんです。
先ほど挙げた“誤解”の例はどれも、長年培われた日本人独自のコミュニケーションスタイルを、無意識のうちに、欧米人とのコミュニケーションにも持ち込んでいることが原因です。欧米人には欧米人の、ロジックのつくり方や心の琴線に触れる方法がある。自分の意図をきちんとわかってもらうためには、相手のコミュニケーションスタイルとその文化的な背景を理解し、自分の行動や表現方法を工夫することが不可欠なのです。ましてや今は、国際的にも競争が厳しく、自分からグイグイ売り込んでいかなければ生き残れない時代。いきなり欧米式の身振り手振りを取り入れるのは難しい、気恥ずかしい、という人もいるかもしれませんが、そこは俳優が舞台に立つようなつもりで(笑)、“理解してもらうこと”を第一優先に、コミュニケーションのスタイルを相手に合わせて切り替えてください。
日本人の英語は、わからない相手のほうが悪い!?

これまでも日本人は、グローバルな人材になろうと努力をしてきたはず。でも、そのベクトルが“英語の勉強”ばかりに向かい、“コミュニケーションのスキルを使って、相手にわかるように伝えよう”という視点が抜け落ちていたと思うのです。
もちろん英語は、できるに越したことはありません。でも、例えばビジネスなどでの会話をスロー再生してみると、実際に使われている単語は、a や that など基本的な言葉を除いて実質1200~1500程度。高校前半くらいまでで習う単語がほとんどで、そこに自分の専門分野の単語を加えれば用は足せます。日本人は文法や発音を気にする傾向がありますが、母国語ではないのだからできなくて当たり前。これだけ長く海外と仕事をしている私だっていまだにLとRの発音が苦手で、先日も商談で笑われてしまいましたが、英語は道具だと思えば恥ずかしいことはありません。それに、欧米のコミュニケーションでは、会話で何かわからないことがあったら、それは聞き手が質問をして理解する責任があるとされています。下手な英語でも自信をもって堂々と喋り、“わからないあなたのほうが悪い”くらいに思っておけばいいんですよ(笑)。
日本人同士だって、ひょんなことで意図がうまく通じなかったり、気を悪くしたりすることがありますよね。そんなときは相手の目を見て反応を感じ取ったり、言葉の奥にある背景に思いをはせたりして、なんとか理解しようとする。外国人とのやりとりだって、それと同じです。要は、人と人とのコミュニケーションが大切だということを忘れないでくださいね。
ちなみにこの本は、日本語/英語の対訳方式。左ページに日本語で書いてあることが、右ページに英語で記してあり、訳すのが難しい日本人の価値観や思考回路なども英語でどのように説明すればよいかが、わかるスタイルにしました。さまざまな“誤解”の事例からコミュニケーションのスキルを学びつつ、英語の論理展開やレトリックも学べるので、お得だと思いますよ(笑)。
数多くの大手グローバル企業で、異文化摩擦を解決してきたカリスマビジネスコンサルタントが、“外国人から見て不可解な、日本人のコミュニケーションスタイル”100例を、具体的なシーンとともに解説。英語の対訳付きで、ビジネスパーソンの英語教材、また外国人が日本を理解する指南書としても活躍する一冊。英訳はカナダ・オンタリオ生まれ、東京在住のジェイク・ロナルドソン氏。
Profile

山久瀬 洋二 (やまくせ ようじ) 異文化ビジネスコンサルタント
1955年生まれ。大手出版社のニューヨーク駐在員を経て独立。ニューヨークでコンサルティング会社を設立し、日本や欧米、中国、インドなどの大手グローバル企業96社の人事管理、人材開発を中心としたコンサルティング活動を展開。他の著書に『完璧すぎる日本人』(ともに対訳ニッポン双書・IBCパブリッシング)など。

