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漂流するソニーのDNA プレイステーションで世界と戦った男たち
西田宗千佳 / 講談社
ゲーム市場を席巻したPS2と,優位に立てなかったPS3
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大量生産によりゲーム機1台当たりのコストを下げるとともに一気に普及させる.
すると良質なゲームソフトが数多く生み出されることとなり,さらにゲーム機の販売増につながる.
これがゲーム市場における勝利の方…程式.
PS2ではこの勝利の方程式を使ってみごとに市場を席巻したソニーは,同じことをPS3で繰り返し,
一転こちらは苦戦することになる.
要因はいくつもあるのだろうが,そのうちいくつかを挙げるなら,高性能半導体セルの開発に莫大な投資をしたためゲーム機の価格が高くなり普及にはずみがつかなかったこと,
作れば作るほど赤字が膨らむ状態が3年以上も続いたこと,
そして任天堂のWii,MicrosoftのXBOX360といったゲーム機だけでなくiPhoneという強力なライバルが出現したこと.
大成功のPS2と苦戦するPS3.
高性能であることに徹底的にこだわったプレイステーションの生みの親である久夛良木さんと,消費者に受け入れられることが大事だと考えた平井さん(現ソニーCEO).
周辺機器キネクトが大ブレイクしたXBOX360とそれほど振るわないPS3.
読み終えてみるとそれらの対比がとても印象に残ります.
今年の冬にはソニーからPS4が,MicrosoftからXBOX Oneが発売されます.
これらの新しいゲーム機は,この先にどんなストーリーを描いてくれるのだろうと,今から楽しみです.
続きを読む投稿日:2013.09.27
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史上最高の経営者 盛田昭夫 SONY決死の決断 ウォークマン開発秘話
浜本哲治 / ゴマブックス
期待外れ
3
読後感としては,「開発秘話」というタイトルにこれ以上ないほどの違和感を覚えると同時に,
脱力感に襲われました.
内容は,私の記憶にある限り「ソニー自叙伝」「小説盛田昭夫学校」と矛盾はしません.
が…,「開発秘話」と題するのなら,上記2冊に比べて圧倒的に内容が薄いです.
私の期待した内容と大幅にズレているせいもあると思いますが,私が感じた印象は,
「盛田さんはこんなことをしましたよ,あんなことを仰いましたよ,どうぞあなたも盛田さんを見習って
頑張って下さい」という調子の文体が延々続いている.
というものです.
ウォークマンの開発秘話を知りたければ,前述の「ソニー自叙伝」「小説盛田昭夫学校(下)」など
別の書籍がオススメです. 続きを読む投稿日:2014.03.28
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小説 盛田昭夫学校(上)
江波戸哲夫 / 講談社文庫
ソニーの物語.読んで元気をもらえました.
3
ソニーと,ソニー創業者の盛田さんの物語です.
「ソニー自叙伝」と重複する内容もありますが,こちらの方が相当に面白い.
ソニー自叙伝がともすれば技術的なちょっと難しい内容になりがちなのに比べて,
こちら…は盛田さんとその周囲にいる人たちのエピソードが中心となっていて読みやすいです.
本書冒頭で盛田さんの葬儀の様子が描かれた後は,ソニーの創業からソニーが成長していく過程が
時系列で描かれています.
社名「ソニー」誕生の話,可能性を「カノウシェイ」と発音する盛田さん,開発中の製品をみて
小躍りする井深さん,外国人に自分の名前を「イビューカ」と発音されることにご不満の井深さん...
ちょっと「プロジェクトX」的な感動あり,盛田さんをはじめ周りの人たちの人となりが伝わってくる
エピソードありで,読んで元気をもらえました.
続きを読む投稿日:2013.10.03
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ソニーの革命児たち
麻倉怜士 / ワック
エンジニアの好奇心をくすぐる1冊
3
PS1,PS2 とそれを生み出した久夛良木さんの物語です.
当時任天堂の独壇場だったゲーム市場に斬り込んでみごとにその牙城を崩していますが,
その背後に緻密な計算と戦略があり,任天堂の牙城は崩れるべく…して崩れたということを
感じます.
開発者の興味をそそる技術と開発しやすい環境を用意してゲーム開発者を味方につけ,
在庫リスク,欠品リスク(販売機会損失リスク)と隣り合わせだったカセット式のゲームソフトを
CDに置き換えることで在庫リスクを極限まで低減させて流通業者を味方につけ,
当時としては破格のマージンを提供して小売業者を味方につけ,
そして絶え間ない製品原価のコストカットを製品自体の値下げの原資に振り替えて消費者を味方につける.
その実現の背後にはPlayStationの心臓部ともいうべき半導体の技術進歩に関する的確な見通しがある.
PlayStationが製品として秀逸なのは誰もが認めるところだと思いますが,
それを世に出すための周到な準備,戦略,それを実行する力もまた卓越していると感じました.
製品としてのPlayStationについても,それを生み出し,世に送り出す過程についても
詳しく説明された良書です.
ただ,それゆえに少し難解なところもあります.
「ライブラリ」「ポリゴン」「テクスチャマッピング」「レンダリング」などのカタカナが頻繁に登場したり,
PlayStation がどのように映像を生成しているかの説明では座標計算,光源計算,行列演算など,
画像処理について多少の知識がないと何をしているのかちんぷんかんぷんな説明が出てきます.
逆にそのあたりの前提知識を持っていると非常に面白く,興味深く読めます.
そしてこれほどの機能を1990年代半ばに実現していた(1990年代半ばというと,Windows95が出たか出ないかという頃ですよ)ことに
驚嘆を覚えました.
最後に,技術的にはとても興味深いということでもないですが,「へえ,そうなんだ」と思ったことを1つ書きます.
PlayStationは画像生成エンジンなので,テレビ画面に出す映像すべてをゲームソフト(CD-ROM)に入れておく必要がありません.
画像を生成するのに必要なデータだけ入れておき,映像自体はPlayStationが演算によって作成します.
ということで,ゲームによっては500MBを超える容量を持つCDの大半が「空き」状態になります.
このためPlayStationがゲームデータをロードした後は,ゲームCD-ROMを音楽CDと入れ替えて,好きな音楽を聴きながらゲームを楽しむ,なんてことができるのだそうです.
続きを読む投稿日:2013.09.26
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政治改革の熱狂と崩壊
藤井裕久, 菊池正史 / 角川oneテーマ21
発端は「時事放談」
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著者の藤井さんがTBSの番組「時事放談」(日曜朝6時~)に出演しているのをたまたま見かけ、
その時の説明がものすごくわかりやすかったので読んでみたのがこの本。
期待を裏切らず、ものすごくわかりやすく、…且つ内容の濃い本でした。
著者の大蔵官僚+政治家としての歩みを辿る形で話が進みますので、田中角栄元首相以降の日本の政治の流れが把握できます。
特に前半は近現代政治史の流れを辿る色彩が強いです。
読み進めるにつれ、政策上の主張(「消費増税は必要である」など)やそう考える理由といった内容も増えてきますが、わりとすんなり納得できます。
もちろん、説明がわかりやすいから、というのもあると思います。
ですが、それ以上に、言葉の端々に信念(私利私欲とは無縁で、且つブレない軸)を感じました。
本書から読み取った、政治家藤井裕久氏の信念は、「弱い者、恵まれない者に目を向けるのが政治である」です。
だからこそ、増税などの嬉しくない主張も含めて、すとんと胸に落ちたのだろうと思います。
ちなみに本稿冒頭の、「時事放談」でのすごくわかりやすかった説明、というのは、
「集団的自衛権とは、(アメリカ合衆国と)対等の軍事同盟を結ぶことである」
です。
安保関連法について総理の説明とか何度聞いても残念ながらよく理解できずモヤモヤしていましたが、この一言でスッキリしました。
ということで、安倍総理の言っていることが理解できなかった時は、藤井先生の意見を検索してみるつもりです。 続きを読む投稿日:2015.10.24
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週刊東洋経済 (2016年1/30号)
東洋経済新報社 / 東洋経済新報社
メインのソニー特集の内容には一部不満があるものの、シャープの行方や電機業界再編シナリオなどの特集もある、電機業界に興味のある人には垂涎ものの1冊
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メインのソニーの他、シャープの行方やルネサスエレクトロニクスの記事もあり、電機業界に興味のある人には嬉しい内容です。
ただ、ソニー特集の内容については全部ではないですが事実と違っていたり、ちょっと恣意…的過ぎる気がしたりする内容がありました。
例えば、2014年9月にスマホ事業で1800億円の減損損失を計上し且つ無配にするとソニーが発表した時のことについて、「(この後)投資家はソニー株を買いに走った」という記述があります。
長期的に見ればそういう傾向があるのは事実ですが、発表の翌日には株価は大きく値下がりし、もとの水準に回復するのは1か月以上経過した中間決算発表後なので、「買いに走った」という表現が妥当とは思えません。
また、来年6月に社長交代するのでは?という趣旨の記事もありますが、その根拠が平井社長が年末年始に家族とゆっくり過ごしたから。
やるべきことをきちんとやっていれば(少なくとも今ソニーの業績は回復しています)休むべき時にきちんと休んで有事に備えるのはCEOとして当然の責務であると私は思います。わざわざセンセーショナルな内容にするために強引にそういう結論に結び付けている印象が拭えません。
この他、内容自体ではないですが「書き方」に疑問を感じるものもありました。
「ストリンガーは退任ではなくクビだった」という記事について、あたかもスクープのような書き方をしていますが、当時すでにそういった内容は雑誌に掲載されていました(東洋経済ではなかったかもしれませんが)。私にとっての新しい情報は、この時に創業家親族も動いていたという1点のみで、とてもスクープとは受け止められませんでした。
もちろん、「イノベーションを再び起こせるか」のような、満足できる内容の記事もありました(この記事の執筆者は西田宗千佳氏)。
が、上記のとおりちょっと行き過ぎに感じられる記事があったのも事実。
雑誌とはそういうものだと言われればそれまでですが、「週刊東洋経済」という看板をつけた雑誌にしては、今回はちょっと…と思いました。
これを減点要因として、星4つとしました。 続きを読む投稿日:2016.01.26