yakitoriさんのレビュー
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このユーザーのレビュー
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虐殺器官
伊藤計劃 / 早川書房
伊藤計劃、初の書き下ろし長編。
10
「 SFが読みたい2008年度」の第一位ということで手に取ってみた。作品そのものは、以前から知ってはいたのですが、なかなか初物というのは踏ん切りがつかないもので、、結局、この雑誌に後押しされて読んだ。…
面白い。9.11以降、世界で繰り返されるテロとそれを背景にした大国の正義とは?個人認証によってセキュリティを担保したと考えている世界とは?と現代社会が抱えている問題を取り上げており非常に考えさせられる事が多い小説。表題に関しては、言語・言葉を人間が獲得した「器官」として捉えるというテーマを中心に話は展開するのですが、この手の先駆者である神林長平の「言語兵器」という扱いとは別物でこの点もなかなか良かった。
また初長編とは思えないほど小説の完成度は高い。初っ端なからクールで乾いた文体で語られる虐殺された人々の死体のディテール。その後も主人公の一人称で淡々と凄惨な戦場シーンが語られるのですが、この熱からず寒からずの文体が主人公の性格とマッチしており、謎めいたストーリーと相俟って先へ先へと読んでしまう。不思議な魅力ある文体だった。
とりあえず、SF好きにはオススメ。ミリタリーSFですが、あまりアクションを期待すると駄目。(派手じゃないので)
続きを読む投稿日:2013.09.24
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日本沈没(上)
小松左京 / 小学館
言わずと知れた小松左京の大ベストセラー。
10
2006年に再映画化されこれを機に小学館文庫で復刊されたのだが、映画と違い昔のまま日本は沈没します。よかないけど良かった。そもそも作者は、日本という寄るべき国家を失ったとき、日本人はどうなるのかをシュ…ミュレーションしたかったらしく日本漂流として発表したのだそうだ。ただ日本列島を沈没させるまでで力を使い果たしそこで執筆が止まってしまった。そのため小説の最後に「第一部 完」と銘打たれている。第二部は、つい最近SF作家の谷甲州がライターとなり執筆された、これは小松自身が高齢のためプロジェクトを敷いて執筆された。
小松左京は、日本のSF界の重鎮でありトップクラスの作家である。本作もそうであるが「果てしなき流れの果てに」や「復活の日」、「さよならジュピター」は今読んでも内容は古く感じない。(時代背景については如何ともし難いが)私のSFの原体験はクラークの「2001年宇宙の旅」でしたが日本SFでは小松左京や田中光二、眉村卓、筒井康隆など当時出版されていた作品をむさぼるように読んだ。その中でも小松左京は短編から長編、内容もシリアスからギャグまで名作が数多く存在する。とにかくもっと再評価されても良い作家だと思う。
あとできれば表紙は旧角川文庫版と同じく生頼範義画伯でお願いしたい。
続きを読む投稿日:2013.11.16
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CRISIS 公安機動捜査隊特捜班
周木律, 金城一紀 / 角川文庫
新ドラマのノベライズ
10
今クール(2017年春)に始まるドラマの中ではかなり期待している作品のノベライズ。原作・金城一城で小栗旬が主演と来れば先ず間違い無く観るでしょう。
刑事ドラマですが前作「ボーダー」とは違い殺人事件を…追う話では無く、国家転覆を狙うテロ事案を追う公安内に組織された特別捜査チームの話でストーリー的にはドラマ「SP」の方が近いでしょうか。オリジナルエピソードなのでドラマ本編とどこまで絡むのかはわかりませんが発表されているキャストを思い浮かべながら読みました。
組織に馴染めないはみ出し者がそれぞれの秀でた能力を生かしテロ事件を解決するという何処かで見て来た設定ですが、個性的なキャラがなかなか良くてサクサク読めました。さてドラマ本編はどうなるのやら、今から楽しみです。 続きを読む投稿日:2017.04.02
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コロンビア・ゼロ──新・航空宇宙軍史
谷 甲州 / 早川書房
22年ぶりのシリーズ再開!
10
また航空宇宙軍シリーズを読める日が来るとは思いませんでした。
前シリーズ第一次外惑星動乱から四十年後の世界。前作では主力だった木星系(カリストやガニメデ)は敗戦の痛手からは立ち直っていませんが代わっ…て土星系(タイタン)が台頭している時代。話は、彼らが航空宇宙軍の監視下で武器に転用できる技術の試験運用やエンジン開発、インフラ(滑走路)の整備、昔活躍した巡洋艦のデータサルベージなど第二次外惑星動乱へ向けての下準備を着々と進める様が描かれており地味ではありますが燃える設定。史実的に結果はわかっていてもそこは弱い外惑星連合を応援してしまう訳で、それぞれの技術要素が結実し開戦へと繋がる最終話まで読むとかなり報われます。
いろいろな新技術(仮想人格や光学センサ)も登場してくるのでハードSFファンも納得の内容。前作とのリンクも多数あり、巡洋艦サラマンダー、タイタン航空隊などのキーワードにピンときた人は絶対買いでしょう。かなりマニアックな話なので万人向けとは言いがたい作品ですが日本のミリタリーハードSFの質の高さには脱帽!
続きを読む投稿日:2015.09.14
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ロックイン-統合捜査-
ジョン スコルジー, 内田 昌之 / 新☆ハヤカワ・SF・シリーズ
パンデミック後の近未来を描いた電脳SF
9
意識はあるが体を動かせない「ロックイン」状態を引き起こすヘイデン症候群が蔓延してから数十年。未だ完全なる治療法がないこの奇病は毎年「ヘイデン」と呼ばれる人々を何百万人も世界中に生み出していた。彼らをサ…ポートする為に発達したニューラルネットワーク技術のお陰で「スリープ」と呼ばれるロボットを操作したり、「アゴラ」と呼ばれるオンライン空間を利用してなんとか通常の生活を送っていた彼らの前に、アメリカで折しも毎年膨大な費用がかかる「ヘイデン」の助成金や支援を削減しようという法案が通った事から事態はキナ臭い方向へと動き出す…。
とにかく最初はこの社会情勢やヘイデンやスリープ、そして題名にもなっているロックインや統合者などの世界設定を理解するのにそれなりの時間がかかります。まあ話が進むに連れある程度迄はわかってくるようになるのですが、やはり理解して読んだ方が面白さは全然違うでしょう。主人公のシェインは幼いころに「ヘイデン」になった「スリープ」を操る新人FBI捜査官で配属の初日から先輩捜査官のヴァンとともに「ヘイデン」がかかわる事件の捜査にあたるのですが、この初っ端の捜査シーンから先ほどのキーワードのオンパレードになるにで結構?マークが飛び回るかと思います。このシーンを意識が飛ばされないよう読み切れば後は楽しい近未来世界が待ってます。
私的には攻殻機動隊の世界観が近いかなぁと感じました。「スリープ」はもろ「義体」だし、ニューラルネットワークも「電脳」っぽいしね。あの世界観が好きなら本作も楽しめること間違いなし。若干シェインがいい子ちゃん過ぎて主人公にしては薄味なのが気になりますが、大変作り込まれた世界観なので是非とも続編をお願いします。(短編は1編あるようですが。) 続きを読む投稿日:2016.02.28
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筺底のエルピス -絶滅前線-
オキシタケヒコ, toi8 / ガガガ文庫
ライトノベルなのにナニこの圧倒的な絶望感!
9
主人公の百刈圭は小学生の時に「鬼着き」に家族を殺された被害者。葬儀の席で鬼を狩る〈門部〉と呼ばれる組織に引き取られた圭は、其処で鬼を封印する討伐員へと成長する。その圭に付き従う新人討伐員は同じく家族を…鬼に殺され天涯孤独となった女子高生の乾叶。そして今、ツーマンセルでの叶の現場デビュー(赤鬼討伐)が始まろうとしていた・・・。
歴史の闇で跋扈する鬼を人知れず討伐する影の組織、討伐員は16歳の女子高生で武器は「蟬丸」という虚無の刀、敵は取り付かれると同族殺しをする鬼など如何にもなライトノベル設定ですが、ナカナカどうしてこの様々な仕掛けの裏には緻密なSF設定が用意されており読ませます。討伐員が待つ「天眼」と「停時フィールド」、異次元からの侵略や同族殺しプログラム、果ては異星人に人類滅亡と壮大なる世界が広がったガチSFモノ。
しかもライトノベルなのに何だこの圧倒的な絶望感は!二人の主人公が背負った重い過去以外にも物語が進むに連れみえて来る人類が置かれた状況と救われない未来。そして有史以来六体しか発見されなかった白鬼が叶の親友に憑依するという事態になり、その白鬼を巡っては人同士での争いに発展するという厄介な状況に。ただ話の展開はうまいので複雑な話ではありますがテンポ良くサクサク読めます。またバトルシーンも各人が発現した「停時フィールド」武器を使ってのアクションが独創的で面白い。後半は鬼だけではなくバチカンの悪魔祓いとの討伐員同士のバトルが用意されているのでかなり盛り上がります。
とにかく次巻以降の展開が気になって仕方がないのですぐ読みます。作者の別作品が面白かったので本作も読んでみたのですが、本シリーズもアタリかも。 続きを読む投稿日:2016.09.24