yakitoriさんのレビュー
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ビッグデータ・コネクト
藤井太洋 / 文春文庫
サイバー犯罪の今がわかる
9
新手の振り込め詐欺を追っていた京都府警の万田警部は琵琶湖湖畔で建設中の官民複合施設<コンポジタ>のシステム開発を指揮していた月岡の誘拐事件の捜査に駆り出される。犯人が送ったメールの送信元が、万田が追っ…ていたPC遠隔操作事件で不起訴処分となった武岱修のアドレスだったからだ。武岱は濡れ衣を晴らすために万田の捜査に協力するのだが・・・・。
今回の題材は個人情報。現在、リアル・バーチャルの両方で本人認証する為に我々は日々情報を渡しているが、本人の知らないところでその情報が売買され、更に付帯情報を紐付けして学歴や交友関係までもが暴かれているという実態を虚実取り混ぜながら話の中に盛り込むあたりは相変わらずうまい。またシステム開発案件の多重受け(5次、6次)や納品間際の仕様変更などIT業界に身に置くものにはあるあるネタも満載でさすが業界に詳しい作者の本領発揮といったところか。
誘拐事件の真相を追っていくと業界の闇や今の社会制度や施策の盲点が徐々に浮かび上がる構成になっており、時事ネタも沢山出てくるので読んでいて大変タメになる。ただ後半は謎解きも含めてシステム・IT用語のオンパレードなので覚悟して読んでください。 続きを読む投稿日:2015.04.17
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ゲームウォーズ(上)
アーネスト・クライン, 池田真紀子 / SB文庫
メチャクチャ楽しいロールプレイングゲームを一本クリアした満足感に浸れます
9
スピルバーク監督が本作映画化で日本人俳優を探しているだとか、作家山本弘氏がビブリオバトルで本作をチャンプ本にしたとか、本作の翻訳者があの池田真紀子さんだとか、いろいろと気になっていた作品だったのですが…今まで何故か機会がなく読み逃しておりました。読了した今はもっと早く読んでいればと猛烈に後悔しております。
化石燃料をほぼ採り尽くされた未来。世界の先が見えない不安と厳しい現実から逃れるため人々はOASISシステムという仮想世界につながっていた。そこでは学校から行政まで現実世界で出来ることはもちろん、何千という世界が存在しており、金さえ払えばどんな世界にでも行け、いろいろな体験ができる夢の世界。ところがOASISの創設者にして天才プログラマのハリデーが亡くなり遺言が公開された事からOASIS世界で彼の「イースター・エッグ」探しが始まる。何故なら遺言には「エッグ」を見つけた者に彼の全財産をすべて譲るとなっていたからだ。そして全世界が彼の「エッグ・ハント」に乗り出して五年が経過した現在から話はスタートする。主人公のウェイドは、母子家庭に育った一人っ子。たが母親が早くに亡くなり叔母のトレーラーハウスに身を寄せる高校生。彼は社会の底辺で生活しているのですが、ある日未だ誰一人として解くことができなかった「エッグ・ハント」の最初の謎を解いてしまい一躍有名人となってしまう・・・。
まずは見事に嵌まりました、メチャクチャ面白いです。読み始めるとやめ時がわからず久々に徹夜で上下巻を一気読みしました。とにかく日米の80年代サブカルチャーがテンコ盛りで音楽、映画、ゲーム、TVの話がこれでもかとうぐらい出てきます。特に最後のクライマックスシーンでの日本のオタク度が半端ない。とにかくオタク心をくすぐるストーリーでホントに最初から最後までニヤニヤしっぱなし。かなりマニアックな話ではありますが、どなたでもわかるように解説されているので困ることはありません。(知っていると数倍盛り上がれますが)仮想世界が舞台ではありますが現実世界もバランスよく描かれており、恋あり、冒険あり、謎解きあり、ゲームあり、映画あり、音楽ありとエンターテイメントがぎっちり詰まった作品ですので読み出したら寝不足になること間違いなしです。
私の中では映像化するならピクサーやデイズニーアニメ向きかなとは思っておりますが、実際には実写版のようですね・・・どちらにしろ原作に忠実に作るなら日米の版権問題をどうクリアするのかが非常に気になります。(笑) 続きを読む投稿日:2016.02.24
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ロックイン-統合捜査-
ジョン スコルジー, 内田 昌之 / 新☆ハヤカワ・SF・シリーズ
パンデミック後の近未来を描いた電脳SF
9
意識はあるが体を動かせない「ロックイン」状態を引き起こすヘイデン症候群が蔓延してから数十年。未だ完全なる治療法がないこの奇病は毎年「ヘイデン」と呼ばれる人々を何百万人も世界中に生み出していた。彼らをサ…ポートする為に発達したニューラルネットワーク技術のお陰で「スリープ」と呼ばれるロボットを操作したり、「アゴラ」と呼ばれるオンライン空間を利用してなんとか通常の生活を送っていた彼らの前に、アメリカで折しも毎年膨大な費用がかかる「ヘイデン」の助成金や支援を削減しようという法案が通った事から事態はキナ臭い方向へと動き出す…。
とにかく最初はこの社会情勢やヘイデンやスリープ、そして題名にもなっているロックインや統合者などの世界設定を理解するのにそれなりの時間がかかります。まあ話が進むに連れある程度迄はわかってくるようになるのですが、やはり理解して読んだ方が面白さは全然違うでしょう。主人公のシェインは幼いころに「ヘイデン」になった「スリープ」を操る新人FBI捜査官で配属の初日から先輩捜査官のヴァンとともに「ヘイデン」がかかわる事件の捜査にあたるのですが、この初っ端の捜査シーンから先ほどのキーワードのオンパレードになるにで結構?マークが飛び回るかと思います。このシーンを意識が飛ばされないよう読み切れば後は楽しい近未来世界が待ってます。
私的には攻殻機動隊の世界観が近いかなぁと感じました。「スリープ」はもろ「義体」だし、ニューラルネットワークも「電脳」っぽいしね。あの世界観が好きなら本作も楽しめること間違いなし。若干シェインがいい子ちゃん過ぎて主人公にしては薄味なのが気になりますが、大変作り込まれた世界観なので是非とも続編をお願いします。(短編は1編あるようですが。) 続きを読む投稿日:2016.02.28
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ノックス・マシン 3/4 電子オリジナル版
法月綸太郎 / 角川文庫
表題の3/4の謎
9
上海大学のユアンは国家科学技術局からの呼び出しを受ける。彼の論文の内容について確認したいというのだ。その論文のテーマとは、イギリスの作家ロナルド・ノックスが発表した探偵小説のルール「ノックスの十戒」だ…った。科学技術局に出頭したユアンは、想像を絶する任務を投げかけられる…。
ミステリ要素はありますがこれはSFです。しかもおバカSF。でも面白い。話は小説を人間が書かなくなった未来、数理文学解析が発達してコンピューターが小説を書く「オートポエティクス」が全盛の時代。ここである国家プロジェクトの実験にミステリ界では有名な「ノックスの十戒」が重要なキーとして登場します。小説が構文解析され数式に置き換えられるという設定であるからこそできる仕掛けになっており、だからこそその後のSF的展開がばかばかしくも面白い。かなりニヤニヤします。オチも予測できるのですが最後にきれいに収まる様はおみごと。ただミステリーファンには不評を買うかも。(笑)
※さて表題の3/4ですが、本来の紙媒体の「ノックス・マシン」には「バベルの牢獄」という話が収録されていて「ノックス・マシン」と「論理蒸発 - ノックス・マシン2」、「引き立て役倶楽部の陰謀」の合わせて4編の短編集となっています。ところが「バベルの牢獄」は物理的な本の構造や構成を理解していないとわからない内容になっている為、電子版には収録できないとの事、なので本来は4編のところ3編しか収録してませんという意味で3/4。
確かに読んでみる書物愛に溢れた物語(相変わらずのおバカSFですが)であり、そうか・・・確かに電子化には不向きかとは思うのですが・・・。ここでこんな事を言うのは不本意なのではありますが「バベルの牢獄」を読みたいのであれば今のところ紙媒体の本を購入するしかありません。 続きを読む投稿日:2015.12.01
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トネイロ会の非殺人事件
小川一水 / 光文社文庫
SF系ミステリー短編集
9
第一話は、作者のホームグランド。ナルホド、現在の日本でSF設定での閉鎖空間という事で月面基地での生活をシュミレートする閉鎖空間訓練中に起きる殺人事件ときましたか。第二話は私生児として育った女子高生があ…る日莫大な遺産を相続するという話で、とある地方でのみ伝わる「くばり神」の伝説を追って行く事になる。配るという「富の再配分」の話がでてくるのですが、少し前に読んだピケティの「21世紀の資本論」に被っていて笑った。そして最終話のみSF封印でのガチミステリー。と言っても全員が犯人の筈が一人だけ殺人を行っていない(非殺人)のは誰だを見つける話。表題作だけに面白いです。 続きを読む
投稿日:2015.11.28
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オービタル・クラウド 上
藤井 太洋 / ハヤカワ文庫JA
ギークでクールなオービタルSF
9
流れ星の発生を予測するWebサービス〈メテオ・ニュース〉を運営するフリーランスのWeb制作者・木村和海は、衛星軌道上の宇宙ゴミ(デブリ)の不審な動きを発見する。それは国際宇宙ステーション(ISS)を襲…うための軌道兵器だという噂が、ネットを中心に広まりりつつあった。同時にアメリカでも、北米航空宇宙防衛軍(NORAD)のダレル・フリーマン軍曹が、このデブリの調査を開始した。その頃、有名な起業家のロニー・スマークは、民間宇宙ツアーのプロモーションを行うために自ら娘と共に軌道ホテルに滞在しようとしていた。和海はある日、イランの科学者を名乗る男からデブリの謎に関する情報を受け取る。ITエンジニアの沼田明利の助けを得て男のデータを解析した和海は、JAXAに驚愕の事実を伝えた。それは、北米航空団とCIAを巻き込んだ、前代未聞のスペース・テロとの闘いの始まりだった──電子時代の俊英が近未来のテクノロジーをリアルに描く、渾身のテクノスリラー巨篇!
いやー文句なしに面白い。衛星軌道上、東京、テヘラン、シアトル、NORAD、ディスヌ島(離島)と当初は6視点で物語は展開されますが時系列に謎の提示とその解明がされていくので混乱する事なくどんどん読めます。むしろ時差や国のインフラ差を使ってのジレンマをうまくストーリーに織り込んでいるのでおいおい早くなんとかしろよ的な焦りにも似たドライブ感に後押しされながらかなりボリュームある本作もあっという間に読めてしまいます。前半の軌道上の謎とネットを使ってのミスデレクション、中盤から後半のエスピオナージ的展開と和海たちによるの謎解き、そしてオービタルクラウドの意味がわかってからの畳み掛けるような地球規模のオペレーションと二転三転する結末にとにかく最後まで目が離せません。
しかし作者は格段にうまくなっていますね。Gene Mapperの頃はかなり技術寄りな話に偏っていて小説としてのバランスがいまひとつに感じていたのですが、本作は技術偏重ではなく人やストーリーにも目配せが行き届いておりバランス良くそしてなによりも読ませる。もちろんいつものように技術設定もてんこ盛りなのですが、舞台が2020年なのでSF設定は低めで現在の地続きの技術で話は積み上げられていきます。とにかくIT用語やビジネス用語、宇宙航空用語などのオンパレードで少しあげただけでもデプロイ(展開)、ラウンドロビン(負荷分散)、ラズベリー、スリーピングガン(眠り砲台)、エグジット(出口)、レベニューシェア(利益配分)、コモディティビジネス、TLE、テレメトリ、ISS、SDI、ASAT(対衛星兵器)、デブリカタログなど盛りだくさん。
私的には今年度(2014年度)の日本SF作品の中では今のところ1か2位。作家には化ける作品があるのですが、本作がそうなるやもしれません。(再掲)
※CIA本部は今はラングレーじゃないんですね。マクレーンだって。
続きを読む投稿日:2017.03.29