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言語はこうして生まれる―「即興する脳」とジェスチャーゲーム―
言語はこうして生まれる―「即興する脳」とジェスチャーゲーム―
モーテン・H・クリスチャンセン、ニック・チェイター、塩原通緒/新潮社
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総合評価

14件)
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    チョムスキー帝国を瓦解に導く強力な一撃。キーワードは、ジェスチャーゲーム、即興、ボトルネック、チャンキング。なにも難しい概念ではない。これらをもとに、人間の言語に関してまったく新しい視点が提供される。 人間どうしの意思疎通の基本は身振りや音声を用いた即興的なジェスチャーゲーム。クリスチャンセンとチェイターはそう主張する。そのゲームが何度も繰り返されて様式化し(簡素なものへと変化し)、多数の人々の間で共有されれば、それが言語になる。世界に何千という言語があるのも、それぞれの人間集団が即興的なやりとりのなかでそれぞれの言語を生み出し、受け継いできたからだ。 読みどころは4章と5章。チョムスキーのいう普遍文法も、言語の生物学的説明も、再帰性こそ言語の特徴だという彼の主張も、ことごとく粉砕される。読み進むにつれて、チョムスキー説についていままでぼんやり疑問に思っていたことが解消されてゆく。 言語は文化だ。なるほど、言われてみればその通り。その主張や説明の8割は納得できる。ただ、あとの2割は(もう少し考えてみる必要があるので)保留かな。それに言語習得の臨界期にも言及してほしかった。 (7章、デンマーク語が母語話者にとってもひじょうに難しいという話はおもしろい。デンマーク語は著者クリスチャンセンの母語だ。)

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    投稿日: 2025.05.07
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    言語がなぜ単純化されるのか?複雑性を回避する言語の動態にすごく納得。残る謎(いや残る謎だらけではあるんだけど)としてオノマトペが存在する言語、存在しない言語の、言語の習得過程について知りたい。

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    投稿日: 2024.09.02
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     タイトルから少し重たい本かな?と思い、ついつい積読をしていたのだが、読み始めると止まらず一気に読んでしまった。言語という文化への視野が増えたように思える。  単語の意味を覚えたり理解するのではなく、如何にチャンク(かたまり)で前後と共に覚え、互いの背景、フィールドを理解してコミュニケーションをするのか。単語の意味に囚われていた私にとって、考え方を180度変えてくれた。  AIの大規模言語モデルも、AIに一つ一つの単語の意味を教え込むのではなく、その文脈の確率を覚えさせているのだと言う。例えば「空」という単語の前に付く形容詞は「青い」が多く、「黄色い」が少ないように。そうやって、文脈の単語間の組み合わせの確率を覚えていき、あたかも意思があるような自然な文章を生成する。この不安定さが言語であるのだ。

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    投稿日: 2024.07.26
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    書き言葉ではなく話し言葉に注目し、ジェスチャーゲームから言葉が生まれたと考える。もちろん言葉の起源に立ち合うことはできないので、その説はなかなかに検証することは難しいのだが、ある程度の説得力はあり、今後それなりの影響力を持つ説となるだろうことは簡単に想像できる、それほどの内容であった。特に会話における脳の情報処理能力の限界に注目したのは慧眼であると思う。

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    投稿日: 2024.05.05
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    このレビューはネタバレを含みます。

    言語をジェスチャーゲーム、つまりその場その場の約束事の積み重ねとして捉える視点は大層面白く、説得力も十分あった。「正しい言葉」を求めてやまなかった人々の話も身につまされる。 また3.0のころではあるが、ChatGPTが引き合いに出され、AIが言語の背景をまるで理解していないことが示されるくだりはなるほどを膝を打った。

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    投稿日: 2023.12.18
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    人間の言語はどうやって生まれたのか、それはジェスチャーゲームのようにその場にいる相手に情報を伝えようとする動きが言語につながったのではないかというのが、この本の内容である。 少し前まではチョムスキーの言語本能が有力な説とされていたが、言語は本能的なものでなく文化的なものであると著者たちは言っている。 子供が言葉を覚えるのに必要なのは、言語体験の繰り返しであってただテレビを見ていれば覚えられる訳ではない。 人間の会話は文脈やその会話の背景から判断をしていることが非常に多く、通常の会話は正しい文法に則って話せている訳ではなく、最後まで話さないまま話者が交代したり、繰り返したりすることがほとんどである。 チャンク(フレーズ)を覚えて使い回す中で間違いを修正したり、適切な言い方を発展させることで言語を使えるようになってゆく

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    投稿日: 2023.11.24
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    このレビューはネタバレを含みます。

    コミュニケーションについて興味、関心があれば読むべき本。認知科学者二人による。事例による例示が多い。 私自身の興味分野でもあり、かつ、かなりの分量、結論→説明の順でない、などの体裁により読むのには一苦労。1日かかってしまった。 ヴィトゲンシュタインな哲学論考、言語ゲーム。コミュニケーションの基本となるジェスチャーゲーム。ノーム・チョムスキーの生成構文。などが本書のキーワード。 本書における筆者の主張。そのひとつが言語に正解はないということ。また、法則があるようで実は例外もたくさんあるということ。生活や文化的な背景によりその言語の利用が制限されてしまうということ。 言語に対する絶対視。正解を求めがち。これは教育の負の側面のあらわれだろう。コミュニケーションが苦手な理系の科学者。即興劇、インプロビゼーションをやらせたところ、改善したという事例がある。なるほどだ。 これらの状態をゲームと呼んだヴィトゲンシュタイン。そしてジェスチャーゲームから着想を得た本書。 言語やコミュニケーションの思い込みをアンラーニングするのに役立つ。

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    投稿日: 2023.08.26
  • 無数の即興のやりとりと文化的な蓄積の産物

    会話はジェスチャーゲームだ。 音声だけでなく、仕草や身振り・手振りなど、両者の創造性の工夫に支えられている。 互いの共同作業のもとに、即興に即興を重ねて共通の理解を構築していく。 「コミュニケーションは、会話の参加者全員の創造性を協調させながら、全員が共有している知識と直観と過去のゲームの記憶を総動員することで成り立つ」 ベースにあるのは共感で、相手の視点でものを見なければならない。 同調するためには、相手の考えを読み合い、理解の程度を知らねばならない。 瓶詰めされたメッセージの伝達ではないし、単なるメッセージの送受信でもない。 意味は、単語と不可分で自明なのではなく、お互いに注視され解釈されて初めて固まる。 メッセージ・イン・ア・ボトルのように、途中で横取りされたとしたら、文字どおり伝わらなくなってしまうものなのだ。 言語の体系的なパターンも、無数の即興のやりとりの産物で、集合的に、まったくの偶然によって出来上がる。 なんで言語を有しているのは人間だけなのか? 何らかの特殊な神経機構を進化させない限り、言語能力なんて持てるはずがない。 きっと進化の過程で人間は、言語に特化した生物学的な適応を得たのだ、遺伝的な言語能力が進化したんだ、と。 これまではこのような考えが定説だった。 例えば、人間の脳が言語に適応して普遍文法をもたらしたとする、チョムスキーの普遍文法説。 世界中で7000もある言語も差異は些末で、元は1つの言語パターン、普遍文法から生じていて、その知識は遺伝子に組み込まれている、と。 それに対して著者は、言語に特化した遺伝子や脳領域はなかったし、言語にルビコン川はない、つまり決定的な変化の一線などなかったと反論する。 あるいは、単一集団によって局所的に生物学的な適応として始まったという、ピンカーらの言語適応説も以下のように否定する。 それならなぜ言語はこれほど多種多様なのか、同じ言語をしゃべっていてもおかしくないはずじゃないか、と。 そもそも言語が変化するペースの方が、生物学的な適応のペースよりずっと速いため、遺伝子レベルでは到底追いつけないのだ。 発想の転換が必要だ。 人間はどうやって言語を獲得したのかではなく、言語はどうやって人間に適応したのかを問うべきだ。 問題の主体を人間から言語に変え、言語それ自体を進化する体系だと捉える。 言ってみれば、人間の進化ではなく、言語がどうやって進化したかに問題を掏り替えている。 つまり、生物学的な進化がなくても、言語の進化はありうるのだと主張する。 言語をジェスチャーゲームと捉えると、最初から完成形でポンと生まれるのではなく、自然発生的に相互絡み合いながら自生し秩序だっていくものなのだ。 言語能力は、必要に迫られて、すでに進化していた既存の脳のメカニズム、学習や記憶や社会的コミュニケーションのための機序に便乗して進化した。 言語も生物と同じもの、宿主である人間と共生的な関係を築いている。 人間と腸内にいる微生物との関係のように、言語とも相利共生関係にあるのだ。 なぜ子供は、複雑で入り組んだ言語パターンを、たった数年でゼロから身につけることができるのか? しかも、周りの大人たちが口にしているのは、不明瞭で不完全で、総じてまとまりのない話ばかりだというのに。 耳学だけで、乱雑きわまりない日常語から、整然とした文法規則がどうやって頭の中に入っていくのか? 同時に歩き方を覚え、数え方を覚え、箸の使い方まで覚えなくちゃならないのに。 チョムスキーなら、子供は普遍文法を持って生まれてくるから習得が早いのだと説明していたが、すでにその説は否定している。 鍵は言語のパッチワークにある。 その前に、言語のボトルネックを説明せねばならない。 そもそも注意力や記憶力の限界から、言語の澱みない流れは停滞しやすい。 とんでもなく狭いボトルネックに言語を通そうと思ったら、その場その場で処理していかないと忘れてしまう。 数個以上の単語の猛襲や、マシンガントークに対して、なぜ人間はついていけてるのか、そっちの方がよっぽど不思議なのだ。 耳に届いた音も、5つ以上の順位付けとなると、短期記憶の限界を超えてしまう。 それでよく長い文章を把握できるよなと思ってしまうが、子供の言葉の覚え方を見ていくと、なるほどと感心させられる。 ママやパパに意図したメッセージを効果的に伝えるために、子供は手元にある言語資源を総動員する。 正確さなど関係ない。要は伝われば十分。 特定の単語をパッチワークのように組み合わせて構文をつくり、それを徹底的に使いまわす。

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    投稿日: 2023.06.09
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    レビューはブログにて https://ameblo.jp/w92-3/entry-12802994367.html

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    投稿日: 2023.05.14
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    普遍文法への真っ向勝負。  言語は文化的な産物なのだという主張は、近年の言語生得説に対する見方とは違う観点を学ばせてもらいました。 最後のAIへの知見は、シンギュラリティ到達に戦々恐々としている私としては安心材料の補強になりました。ChatGPTが世間を賑わせていますが、無数のデータの蓄積を統計的に紡ぎ合わせているだけで人間的な相互関係を加味したやり取りにはまだ至っていないのだという。でも、ニューラルネットワークの底力はムンムン感じますよね。 後は、「3000万語の格差」についての言及で、子どもに単に単語数を稼いで浴びせまくるのではなく、家族との会話に引き入れて相互作用を組み入れることが肝要だという。これは、元々聞き及んでた内容のアップデートでしたね。 世界7000語の多様性を前にしたら、全言語に当てはまる普遍文法の探求なんて可能なのかしらと訝しんでしまう素人ですが、ここいらに関連した書籍を読み進めてみようと興味が高まりましたね。

    3
    投稿日: 2023.02.09
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    図書館でそのうち借りて読もうかと思いつつ、けっきょく買ってしまった。積まずにすぐ(春休みのうちに)読もう。 …といいつつ、けっきょく読み始められないまま新学期に入ってしまって積読の山にうもれかけたが、web考える人の今井むつみ✕高野秀行の対談に登場してて、これはやっぱり早く読んだほうがいいと掘り出してきた。(5月末)

    1
    投稿日: 2023.02.08
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    実に大胆な本だ。常識的に考えれば私たちは外在する/外にあらかじめある言語体系を学び、それを自家薬籠中の物としてそれからコミュニケーションを開始する、となるだろう。しかし著者たちは私たちの言葉が「即興」と「ジェスチャーゲーム」で成り立っていると喝破する。そして、その偶然性に支えられたコミュニケーションが進化することが人間の進化とシンクロしたのだ、と。私は言語学に関してはまったくもって門外漢なので真偽の判定はできないが、リアリティを感じる理論だと思う。コミュニケーションの偶然性と奇跡。そこから哲学を見出せるか

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    投稿日: 2023.01.08
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    このレビューはネタバレを含みます。

    言語を「ジェスチャーゲーム」に例えて考察した本。 論文チックでやや表現は難解だが、コミュニケーションの示唆に富む。 得られた気づきを一言で表すと、「言語は共同作業→相手の背景・反応を意識できる者が会話上手」ということ。 他者と会話する時は、その人が使っている言葉の意味を正しく理解するように努めるようにしたいと思った。 以下は、勉強になった部分のまとめ。 ・コミュニケーションは一方通行ではなく、言語の意味は対話の当事者による共同作業で作られる ・言語は固定の符号でメッセージを送るものではなく、言語に受け手の背景知識や価値観を加えて解釈がなされる ・子供の言語能力を向上させるには、言語の練習機会を増やす   ・ただ音を聴かせるだけでなく、双方向の会話(順番交代)が重要 ・その分野を理解しようとすれば、「専門用語」を覚えなくてはならない ・人間は短期記憶が弱い、特に順番認識は苦手   ・それにも関わらず会話に困らないのは、塊を作って記憶(チャンキング)をしているから

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    投稿日: 2023.01.03
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    ジェスチャーゲームというシンプルかつ驚きの内容で言語が生まれた理由、子どもが言葉を覚える方法を説明しており直感的に納得できる。言語間や動物との対比も面白く一気に読めた。

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    投稿日: 2022.12.07