ヒロシマを生きのびて
肥田舜太郎(著)
,林京子(著)
/あけび書房
作品情報
「核兵器廃絶!」「戦争反対!」「被爆者救援!」「住民のための医療を!」「働くものの未来を!」・・・・・・。ヒロシマで被爆し、戦後、反核・平和、民主医療運動に奔走する熱血医師の自分史。反核運動、民主医療運動の生き生きとした歴史とドラマが満載の書。気概とエネルギー満載の書。芥川賞作家の林京子寄稿。莇昭三、安斎育郎、池田真規、石田忠、小川里津子、沢田昭二、山口仙二ほか推薦。
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次のWeで掲載する肥田さんのお話をまとめた原稿を補足する参考にとこの本も借りてきて読んでみた。ヒロシマを生きのびて、肥田さんは山口の国立病院で労働組合の仕事をすることになり、下山事件、三鷹事件、松川事…件と続いた1949年の秋に、レッドパージにあう。
それから東京へ出て、民主診療所の設立にかかわり、臨床医として歩みはじめた肥田さんは、あるとき、患者の「おまえんとこのやぶ医者のお陰で、大事な娘、台なしにするところだった」という声を看護婦から聞かされる。その患者に謝る機会をあたえられたのも、看護婦によってだった。
看護婦たちに鍛えられ、患者に育てられて、肥田さんは患者と医療との関係を考える。親しい藤間医師と、こんな話をしている場面がある。
▼「患者は、黙ってからだをみせれば医者は病気を治してくれると思いこまされてきました。そうしつけたのは医者です。以前、なんでも正直に言ってくれなきゃ困ると言うと、正直に話したら『患者のくせに生意気だ』『黙って医者にまかせればいいんだ』と叱られたと言われました」(p.106)
医者だって、高名な先生に診てもらって「あれで具合が悪くなった」とは滅多に言えない、まして素人の患者は、恐れ多くて医者には言えないのが普通だろうという肥田さんに、藤間医師は、いつからそんな風に考えるようになったのかと問う。
▼「原爆からかもしれません。何百、何千という放射能患者を診て医学医療の無力さを体験して、命を守るのは病人自身の心とからだ、医師は医学と医術で手伝うだけ。その医学、医術も不完全で分からないことばかりです。謙虚に患者に学ぶことが一番と思うようになりました」(p.106)
肥田さんは、埼玉での民主診療所設立のために移住する。それからはずっと埼玉で医療にたずさわるとともに、市議会議員としても二期つとめる。この本の多くは、民医連の運動記であり、海外で被爆の実相を語ってきた記録だった。
海外行の話の中では、1985年に旧ソ連へ行ったときの、「働く者が主人公の民主主義社会と縁遠い、上意下達の官僚統制社会そのもの」「大衆が自由に物の言えない、暗く抑圧された雰囲気」という肥田さんの印象と、わずか5、6年後にソ連解体が起きるとは夢にも思わなかったというところ、ヨーロッパの討論会での「社会主義の"正義の核"」と「帝国主義の"侵略的な核"といった語られ方に、時代を感じた。また、これは今もあるが「核の抑止力」論は、やはりずっとあるんやなと思った。
肥田さんは「核兵器を持たない国も一度、持ちこまれれば核の加害国に変わり、核戦争の引き金を引く危険な役割を負うことになる」(pp.210-211)、「核戦争の後には何物も生き残れないことを忘れてはならない。人類の絶滅を防ぐには全面禁止以外にないことを被爆者は確信している」(p.221)等の訴えをしてきた。
広島の福島病院の話も印象的だった。『この世界の片隅で』でも書かれた福島町、そこに開設された診療所は、ABCCや厚生省の被爆行政に忠実な、つまりはアメリカの言うままに近い「人間不在の被爆者医療」(ABCCは医療とも言えない気がするが)に対して、被爆者の立場で医療をおこなっていたという。肥田さんが被爆者に対する医療を具体的に学んだのもこの福島病院だという。
(11/14了)続きを読む投稿日:2011.11.15
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