この作品のレビュー
平均 4.5 (3件のレビュー)
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▼書名を見ただけだと、「はいはい、またまた小津本ですか」という印象だったんです。実は個人的に、20代の若いころに「小津本」を絨毯爆撃をするように読み漁った時期があり、全般食傷、もうあまり新刊が出ても読…まないのです。正直、ほぼ知ってる話の焼き直しばかりですし。
▼ところが筆者名を見て「?」と興味が。「平山周吉」。これは、終盤の小津作品で頻繁に出てくる役名なんです。「・・・これは、かなりの小津マニアが書いてるんだな」と、購入。
▼結果、面白かったんです。大変に。DVD世代というか、ねっとり何度でも映画を見直せる強みを活かして、そしてとにかく「小津日記」をはじめとして同年代の新聞雑誌などのインタビューほかを丹念に丹念に読み解いて、書いてはります。そしてなにより、大胆な仮説を軸にして書いておられる。
▼仮説は、
・小津安二郎さんは、出征して戦地を踏んでいる。作家性の高い有名映画監督の中では、非常に例外的に、そうである。
・そして、盟友であり愛しい後輩の山中貞雄さんが中国戦地で病死しており、それは小津さんに強烈な喪失感とショックを与えた。
・そして山中貞雄さんは「河内山宗俊」で少女の頃の原節子さんを美しく撮った。原節子さんと山中貞雄さんは、その一点で分かちがたい記号になってしまっている。
・小津さんの、戦後の、いわゆる「原節子主演の紀子三部作(晩春・麦秋・東京物語)」を筆頭に、多くの映画が・・・・
・山中さんへの哀惜と、山中さんを通したいびつな形での原節子への憧憬・慕情が隠れた主題として、反復して描かれている。
・それは戦争の時代への鎮魂歌であり、戦争の時代を世間は忘れたかのように流れていくが、自らは(多くの人が)個人的に決して忘れ得ぬ中でどう生きていくか、という主題である。
というようなことだと思います。
▼それらを、小津の日記と、同時代での小津の発言と、周囲の人の証言と、何よりも小津映画の画面の細部を検証して語っていきます。ちょっとした探偵小説です。でも、かなりの状況証拠があります。映画を手段として持っただけで、問題は小津さんという生活人が、何を経験して、どういう情緒を持って、何を語りたかったか。黒澤さんはじめほとんどの映画作家が「戦場」を知らぬ。自分はそこで何年も浪費し、文字通り泥を啜った。ヒトを殺したかもしれない。それでも今、亡き人を思いながらも平和と向き合って日常を生きねばならぬ。そんな小津さんが浮かび上がってきます。正直に言って個人的には涙モノの感動だったりしちゃいました。
▼小津さんが原節子に惚れていた、愛していた、みたいな男女スキャンダルな物語にもっていこうとは、しないんですね。小津さんの私生活の研究は没後にそうとうすすんじゃったので、「小津=原節子、愛情説」は、面白いけれど、「小津さんには別途、長い間の恋人っていうか愛人さんっていうか、そういう女性がいた」みたいなこととかがもう暴かれちゃっている。そういうのは当然、踏まえて描かれています。
▼「今更なあ」と思って読んだんですが、大大大満足してしまいました。平山周吉さん、というのは無論、小津マニアであるゆえのペンネームなんですが、他のネタを書かれても結構、好きかもなあ、と思いました。同時代にこういう姿勢と価値観のライターさんが居るのは、ちょっと嬉しいな、と。続きを読む投稿日:2024.03.24
https://www.shinchosha.co.jp/book/352472/
https://www.cinemaclassics.jp/ozu/profile/
生誕120年・没後60年 小…津安二郎は生きている
https://www.nhk.jp/p/etv21c/ts/M2ZWLQ6RQP/episode/te/N7Y6J3WM4L/
新潮 連載
第1回 新潮 117(8) 2020-08
https://ndlsearch.ndl.go.jp/search?cs=bib&display=panel&from=0&size=50&sort=published:asc&q-author=%E5%B9%B3%E5%B1%B1%E5%91%A8%E5%90%89&q-publisher=%E6%96%B0%E6%BD%AE%E7%A4%BE&q-title=%E6%96%B0%E6%BD%AE&r-year=2020,&f-ht=ndl&f-ht=library&f-mt=magazine続きを読む投稿日:2023.12.04
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