きみはポラリス(新潮文庫)
三浦しをん(著)
/新潮文庫
作品情報
どうして恋に落ちたとき、人はそれを恋だと分かるのだろう。三角関係、同性愛、片想い、禁断の愛・・・・・・言葉でいくら定義しても、この地球上にどれひとつとして同じ関係性はない。けれど、人は生まれながらにして、恋を恋だと知っている――。誰かをとても大切に思うとき放たれる、ただひとつの特別な光。カタチに囚われずその光を見出し、感情の宇宙を限りなく広げる、最強の恋愛小説集。(解説・中村うさぎ)
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商品情報
- シリーズ
- きみはポラリス(新潮文庫)
- 著者
- 三浦しをん
- 出版社
- 新潮社
- 掲載誌・レーベル
- 新潮文庫
- 書籍発売日
- 2011.03.01
- Reader Store発売日
- 2022.07.29
- ファイルサイズ
- 1.1MB
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この作品のレビュー
平均 3.5 (961件のレビュー)
-
『いつも不思議に思うことがある。どうして恋に落ちたとき、ひとはそれを恋だとちゃんと把握できるのだろう』
『「恋愛をテーマにした短編」の依頼が多い』という三浦しをんさん。仕事を受ける場合、その仕事に…は当然発注元からこと細かな要望が付きます。小説家が仕事を受ける時に付くのが『テーマ』。あらかじめ提示されたテーマを『お題』として出来上がる小説は、その『お題』からはずれない限りは無限の可能性を持つことができます。『結婚して私は貧乏になった』、『ラブレター』、『あのころの宝もの』、『最後の恋』というような『お題』を聞いた時、あなたはそこにどのような物語を思い浮かべるでしょうか?『結婚して私は貧乏になった』=うんうん、そうだよ、あの旦那がこんなに金遣いが荒いとは思わなかった、とか、『あのころの宝もの』=あ、そうだ、小学校の時に大切にしていたあれ、どこにしまったっけ?といきなり押し入れをがさがさ探し出したり、とか。人によってピン!とくるものは違えど、人は人それぞれに今まで生きてきた中で今の自分を作ってきたドラマを持っています。普段、記憶の中に眠っているそんなドラマが『お題』というきっかけを与えられることによって、再び光を浴びる瞬間、そしてまた長い眠りについていくドラマたち。人の記憶とは面白いものだなと思います。そんな記憶の中でも恋愛は人にとってさらに特別な意味を持つものではないでしょうか。この作品は、依頼者から与えられた恋愛にまつわる『お題』を元に書き下ろされた三浦しをんさんの短編集です。
2005年から2007年頃に書かれたこの作品は11の短編から構成されています。面白いのは、三浦さん自身が、それぞれの短編について、依頼者から与えられた『お題』をはっきりと明示していることです。読者は、三浦さんがそれぞれの『お題』でどのように作品を描いたのか、また逆に、この作品はこんな『お題』を元に描かれていたのか、という、そんな側面からも楽しむことができるようになっています。
そんな11編の中で、私が最も三浦さんらしいと感じたのが〈裏切らないこと〉です。『お題』は『禁忌』です。『急いで帰らないと、勇人を風呂に入れるという楽しみを逃すことになる』とバス停からの道を小走りに急ぐ岡村健。そんな岡村は『恵理花が床に額ずくようにして、勇人の小さなペニスを口に含んでいた』という『とんでもないものを目撃』します。『赤ん坊のペニスをしゃぶるような妻を、はたして俺はこれからも変わらずに愛しつづけられるだろうか』と考えこむ岡村。『ざーんねん。勇人が待ちきれないって騒ぐから、もうお風呂に入れちゃったよ』といつも通りの恵理花。会社の同僚に相談しようと考えた岡村は、翌日、相談相手に十は年上で、子持ちの女性である柏崎さんを選びます。『舐めましたか?赤ちゃんのときのお子さんを』という問いに『岡村くん、舐めてないの?うちの旦那なんか、「かわいいなあ」ってベロベロ舐めまくって大変だったよ』と返す柏崎。そして『二人とも女の子』という柏崎に『俺が知りたいのは母親の、息子への接し方なのだ』と不満が晴れません。思い切って『実はですね。妻が息子の、その、あれを舐めてるというか…柏崎さんでもそうしてみますか息子さんがいたら』と覚悟を決めて核心を聞く岡村。『そうねえ、してみると思う』と答える柏崎。『岡村くんだって、きっとお母さんに舐められてたわよ』と笑われます。『かわいけりゃなんでも舐めていいのか、と胸の内で抗議しながら、俺は悄然と席を立った』という岡村は、『なぜ女たちは、血のつながった男には深い寛容と信頼を見せ、他人である男には素っ気ないとも言える警戒を見せるのか?』と考えます。『結婚して二年が経つが、恵理花は俺のことをどこか信じていないところがある』と『恵理花にとって俺はあくまで「他人」のままだ』とどんどん考えこむ岡村。一方で岡村は『ほとんど家に帰れない』という大きな仕事上のトラブルに巻き込まれていきます。そんな中で、ふと『自分にとって恵理花と勇人が、どんなに大切な存在であるかに』気づく岡村。そして…というこの短編。インパクトのある起点から、物語は大きく膨らみを見せながら『愛』というものの本質へとぐりぐり迫っていく過程に三浦さんらしさをとても感じた短編でした。
また、作品中、一番雰囲気感に溢れていたのは〈冬の一等星〉です。これは三浦さんが自分で『年齢差』という『お題』を設定された短編ですが、『私が誘拐されたのは、八歳の冬のことだった』という衝撃の設定の上に描かれるのは、『誘拐』という言葉から抱く緊迫感とは対極の優しさに溢れた雰囲気の中で描かれていく”誘拐犯”の文蔵と八歳の『私』が見上げる冬の星空でした。『好きな動物は?』と聞く文蔵に『うさぎ』と答える『私』。オリオン座の下に位置するうさぎ座を教える文蔵。『ペンギン座も、スフィンクス座も?』と聞く『私』に『なければ作ればいい』と答える文蔵。『誘拐』という設定の物語を、なんとも言えない奥深い余韻を残す作品としてまとめる三浦さん、う〜ん、上手いなぁと思いました。
「きみはポラリス」という書名のこの作品。ポラリスとは北極星のこと。でも、11編の中で星について触れられるのは10編目の〈冬の一等星〉と7編目の〈森を歩く〉の中に出てくるプレアデス星団だけで、それらも含めて北極星に触れられることは一切ありません。北半球で一年を通して真北を表す象徴のように輝く北極星。でもそれは全天で21個あるとされる一等星でもないごく普通の二等星に過ぎません。そんな北極星を持ち出して「きみはポラリス」という作品名とした三浦さん。そんな11の短編に登場する人物たちは、さまざまな愛の形を紡いでいく中で、北極星の如く、いつも同じ場所にいつも同じ明るさで、その存在を頼りに生きる人たちに向かってほのかな光を放っていました。人は生きていく中で、新たな道を探し、新たな道を造り、そして新たな道へと歩みを進めようとします。でも、そんな時に、そんな新たな道で、進む方向を迷った時に顔を上げる。そんな時に、いつもの場所にいつもと同じほのかに、静かに輝き続ける人がいる、心の拠り所とする人がいる。「きみはポラリス」、なんて印象深い書名なんだろう。読み終わってふっとため息が出ました。
恋愛には恋愛の数だけさまざまな形があり、普通の恋愛というものはありません。この作品に取り上げられている11の短編に描かれた恋愛もそれは同じことです。
『どうして恋に落ちたとき、ひとはそれを恋だとちゃんと把握できるのだろう』
そう、すべての人が必ず持つ特別な感情、それが『恋』です。
そして、その感情が発露するその瞬間に生まれる恋愛という感情。そんな感情が描かれた11の短編を通して、この世には人の数だけいろんな恋があり、いろんな愛の形があるんだ、そしてそんなすべての恋愛の上にそれぞれのポラリスが輝き続けているんだ、そんなことを考えた、三浦さんらしい作品でした。続きを読む投稿日:2020.08.29
恋愛にまつわる短編集。
憎しみや恨みなど墜ちた恋愛もあれば、
楽しいワクワクを秘めた恋愛。依存。同性愛。
十人十色の感覚を味わい尽くせる。
投稿日:2023.05.19
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