父・こんなこと(新潮文庫)
幸田文(著)
/新潮文庫
作品情報
父・露伴の死にゆく姿と、続く葬儀の模様を綴り、刻々の死を真正面から見つめた者の心の記録とした『父―その死―』。掃除のあとで、念を入れるために唱えなければならない呪文「あとみよそわか」のことなど、露伴父子の日常の機微を伝えるエピソード七話からなる『こんなこと』。誠実に生き、誠実に父を愛し、誠実に反抗した娘が、偉大な父をしのんで書き上げた、清々しいまでの記録文学。
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商品情報
- シリーズ
- 父・こんなこと(新潮文庫)
- 著者
- 幸田文
- 出版社
- 新潮社
- 掲載誌・レーベル
- 新潮文庫
- 書籍発売日
- 1955.12.27
- Reader Store発売日
- 2022.03.04
- ファイルサイズ
- 1.8MB
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この作品のレビュー
平均 3.9 (39件のレビュー)
-
幸田文さんの父、幸田露伴氏は戦中の大空襲以来、寝たきりになってしまわれた。寝たきりでもそれ以前の規則正しい生活は変わらず、毎朝同じ時間に目覚められて、すぐに文さんと娘の玉子さんが、洗面の用意をし、煙…草、ほうじ茶、朝食、搾りたての牛乳、新聞を決まった順番に用意するなど、厳しいお父上の看護はなかなか大変だった。
いよいよ重篤になられたのは、戦後二年目の昭和22年の夏だった。ある朝血を吐かれ、それを見て文さんは、いよいよお父様に死が迫ってきたと確信した。
急いで親しい人や、医者に知らせなければとあたふたとする。今のように携帯どころか、固定電話もないので、電車に乗って呼びに行く。猛暑の夏でただでさえ蚊が多いのに、蚊帳が切れていること、蚊取り線香がないことに気づき、そのことでも慌てる。氷をたべることを軽蔑していた父親が口のなかが気持ち悪く、氷を食べたいと言うので、猛暑の中、氷を求めて、あっちの氷屋、こっちの氷屋とうろうろする。やっと買い求めた氷を溶けないように持ち帰るのも大変。お父様が食べ物をこぼされた時に、着物や袷やお布団を洗うのも大変。お父様はそんなにきれいにしなくて良いというが、国宝のような父親なので、お見舞いに訪れる人の手前、粗末な格好はさせられない。
そして亡くなる二日くらい前に、お父様が誕生日であることを思い出し、赤飯や尾頭付きを用意していなかったことに愕然とする。何とか、用意出来た赤ご飯と小さな鯛の載った、それまでで一番粗末な祝い膳を見せると、父親は食べられなかったがニッコリした。文さんは子供の中ではお父様に可愛がられなかった子供であったらしいが(可愛がられた姉と弟は早くに他界した)、その時のお父様のニッコリで、今まで積もってきた気持ちが和らいだそうである。
こんなお父様の介護は大変だなあと思ったが、文さんは優しいなあとも思った。
今なら、スマホも冷凍庫もあるし、(私の住んでる所は)病院だってドラッグストアだってあちこちにあるし、交通もかなり便利なのに、私は要介護の母にも、もう亡くなった父にもこんなに優しくしていない。文さんの時代と違って、女性が外で働くことを本人以上に理解してくれ、元気な時は孫をよく預かってくれたのに。
以上はこの本の前半の「父」の感想。お父様の幸田露伴氏の介護から他界、お葬式までを書いたもの。感動しながらも、露伴氏は古い時代の固い、厳しい、わがままな男性で、女性に自分の世話をさせすぎだ。「男尊女卑」の時代の人だと思った。
ところが、後半の「こんなこと」を読んで、誤解していたことが分かった。
文さんに、掃除、料理、障子の張替えなど、ありとあらゆる家事を仕込んだのは、お父様の露伴氏だったのだ。露伴氏はその母親に徹底的に仕込まれたということで、掃除ならまず、ハタキの作り方、障子の張替えなら、ハサミなどの道具を研いだり、糊を煮る所から(少し凝り性だったらしいが)徹底的に丁寧に教えた。文さんは反抗心を持ったが、露伴氏がやってみせる見本はあまりにも手際がよく、無駄がなく、美しかったので、歯が立たなかったそうである。
文さんはいわゆるお嬢様なのに、普通のお嬢様に習わせるようなお茶やお華のお稽古ではなく、家事の一つ一つを修行のように奥深く教え込まれた。
「家事に追われるというのは何と惨めなことで、家事はこちらが先手になって追いまくるべきもの。自分を豊かにして楽しくするために女はもっと勉強しなくてはならない。能力と労力をあげて、本気で家事に集中すれば、勉強の時間は恐らく、必ず得られる。」というのが、幸田家の流儀だったそうだ。
難しいなあと思うが、今のように家電製品もなかった時代の大先輩の言葉に励まされる。
解説に文さんの文章は誠実さが魅力だと書いてあったが、私もそう思った。飾り気はないが、細々とした記憶、国宝のようなお父様の死に直面したときの迷い、幼いときからずっと父親に気に入られたいと思っていた心情など、具体的な事実も自分の心のうちも誠実に書かれていることで美しいものが美しいと分かり、共感出来る。
露伴氏の本は読んだことがないが、文さんによって残された幸田家の記録は私にとっては、文化財のような一冊である。
続きを読む投稿日:2021.02.17
偉大な作家の娘が、父の事を書くという意味では現代の阿川佐和子と重なるけれど、またこれが本質的には随分と似ていることよ…片や出戻り、片や高齢結婚という事も何となく被る。
作家であるからして、家にいて書…き物をしているという事は、サラリーマンの父よりもよっぽど多くの時間を一緒に過ごしているし、作家という職業柄、知識豊富で、多少なりとも頭でっかちな所があり、一番言いやすい家族には色々な要求をしてくるという共通点が要因とも思える…
それにしても、阿川家も幸田家もなんだかんだ言いながらも、父親を中心とした家庭における楽しい日常がしのばれる。
さて、振り返って自分は子供達に楽しかった、タメになった思い出を残せてやれただろうかと思うと、甚だ心許ない…特に一緒に過ごせた時間が圧倒的に少なかったと反省するが、後悔先に立たずである…
読後、当然のことながら、幸田露伴の作品を読んでみたくなってしまう。こんな感じで死ぬまでの読みたい本のリストが益々大きくなってしまう。欲のかたまりであっても、こればかりは今から達成不可能な目標と諦めざるを得ないな〜…
続きを読む投稿日:2023.04.28
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