〔少女庭国〕
矢部 嵩(著)
/ハヤカワ文庫JA
この作品のレビュー
平均 3.7 (23件のレビュー)
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このレビューはネタバレを含みます
卒業式会場に向かっていた中三の羊歯子は、気づくと暗い部屋で目覚めた。部屋は四角く石造りだった。部屋には2枚ドアがあり、内一方には張り紙がしてあった。
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"卒業生各位 下記の通り卒業試験を実施する。ドアの開けられた部屋の数をnとし、死んだ卒業生の人数をmとする時、n-m=1とせよ。時間は無制限とする"
無限に囚われた少女たちの話。以前ハヤカワ文庫さんが行っていた、「ハヤカワ文庫の百合SFフェア」の対象作品のうちの1冊で、先に言っておくとなかなかの奇書、あるいは実験小説の類に近いかと思います。
ちなみに、ここは個人的見解によると思いますが、私はあまり百合味は感じませんでした。
卒業式に向かっていた少女、気が付くとそこは暗い石造りの部屋の中。部屋には2枚のドアと、そのうち一方に貼られた張り紙しかなく、張り紙には「卒業試験」と称する脱出の条件が。ドアを開けても開けても、一部屋につき一人の少女しかおらず、中三の女子は無限に増えていくばかり。
これは、そんな無間地獄に囚われた少女たちの記録です。
即座に隣室の少女を殺害しようとする少女がいれば、ひたすらドアを開け続ける少女、開拓を目指す少女もいる。
表題作は『少女庭国』ですが、『少女庭国補遺』がその3倍くらいある。基本的には、ずっと説明したような謎の空間に閉じ込められた少女たちがどう生きたかを追っているだけです。
ストーリー紹介だけをさらっと見るとデスゲーム系小説っぽいのですが、そういう感じではなく、数倍速でみる建国史のような、予想外に壮大な話。
そんな中でも中三女子はやっぱり中三女子で、リアルな口語に近いセリフ(「~~じゃんでも」や「まじだとやだねっつってたのだから」など)が簡単に脳内再生できてしまって、こんな荒唐無稽な話なのに感情移入しやすいのが不気味で何となく嫌な感じ。
それと同時に、知覚できない上位存在に弄ばれる卑小な存在である人類、のような概念を感じ取ってしまい、虚無的な気分になれます。
ちょっと変わった小説を読みたい方にお勧めです。投稿日:2023.12.23
このレビューはネタバレを含みます
作者の凄さは、異常さは、狂気は、普通なら短編で終わらせるべきこのシチュエーションドラマを、〈補遺〉という形で長編にしてしまった点にある。
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〔少女庭国〕。そこは卒業式に参加するはずだった少女たちがひと…つの教室に一人ずつ眠った状態で取り残された異空間。”卒業条件”として書かれた紙には〈ドアの明けられた部屋の数をnとし死んだ卒業生の数をmとする時、n-m=1とせよ〉とある。
およそ210ページほどあるこの小説は最初の50ページほどで、このシチュエーションにおけるひとつの”結末”を提示するのだが、恐ろしいのはその先にある〈補遺〉の部分で、だいたい本の3/4を占めるこの箇所は、ここで起きた”あらゆる別の結末”を次々と提示していく。
あるときは隣の教室にいる少女を迷いなく殺したり、あるときは自殺することで卒業条件を達成したり、またあるときは話し合いで死ぬ者を選んだり……。やがて少女たちは1000人を超える規模に拡大し、帝国と言えるほどの体制を築き上げ……という思考実験SFのような地点にまで行きついてしまう。
これを何らかのメタファーとして受け止めることも可能だろうが、どちらかと言えば私がこの本を読んでいて感じたのは”禁忌”に対する反応の薄さであり、例えば「食人」であったり、「人体破壊」であったり、「奴隷制度」であったり、およそモラルを逸脱した展開を、それに対する忌避感をほぼ描くことなく、ただ淡々と進めていく点だった。
そのため本作は、これほど時間も場所も広がって行くにもかかわらず、シチュエーションと描き方によって、”誰かに感情移入する”という機会がゼロに近い。それでも果たしてこの先どうなってしまうのか気になって読んでしまうあたり、作者の筆力(変態性と言い換えてもいいだろうけど)は高く、シチュエーションドラマとして強度の高い出来となっている。
この「現象」にどんな理由があって、どんな解決方法があるのか。そういうことを期待しながら読むのはやめた方がいいだろう。最終的に”卒業条件”を達成したどの少女たちも、その後元の世界に還れたのかどうか、一切説明してはくれないし、作者としても書きたかったのは、伝えたかったのはそこには無いと思うから。
さて、ではそろそろこの小説の確信に迫ろう。
と言ってもこれは登場人物の会話や、小説の書き方から何となく感じたことなので、明確な答えではないのだけど。
以下、考察に移る。
この小説を読んでいてなんとなく思い出したのは『異常』という小説で、あの小説は「シミュレーション仮説」という世界の捉え方を物語内に組み込んでいた。例えば『〔少女庭国〕』の世界そのものも、シミュレーションされたのもだとしたらどうだろうか。上記したように登場する少女たちは、殺人や食人といったことを厭わず、通常の倫理観が著しく欠如している。それは、彼女たちの存在自体が一種のプログラムされたモデル――そもそもが現実ではない場所で起こっていることなのではないかと思う。そして、それでもなお、最初の50ページの短編〔少女庭国〕から悪趣味で不愉快で荒唐無稽な展開を読み進めているのは――それが〈補遺〉だと自覚しながら読んでいるのは、読者である我々であり、そのことに気づくと、悪趣味なのは――それでもまた別の”不愉快な死に様”を見ようとする「我々読者の方」ということになるのではないだろうか。この小説がやろうとしたのは、そういう”意趣返し”であり、だから少女たちが捕らわれた原因も解決法も、脱出できたかどうかも書かれることはないのだろう。
とりあえず、よくもまあこんなシチュエーションを考えたものだし、長々とその「果」まで書いたものだなと思う。世の中には色んなことを考える人がいるもんだなあ。続きを読む投稿日:2024.01.17
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