岩盤規制―誰が成長を阻むのか―(新潮新書)
原英史(著)
/新潮新書
作品情報
数十年の長きにわたって、この国をがんじがらめにしてきた岩盤規制。一九八〇年代の土光臨調以来、昨今の獣医学部新設問題まで、それを打ち砕く試みは繰り返されてきたが、道はまだ半ばだ。なぜ岩盤規制は生まれ、どのように維持され、今後の日本経済の浮沈にどうかかわるのか。そして、官僚とマスコミはこの旧弊をどう支えたのか。現場の暗闘を知るトップブレーンが、改革の現状と未来をわかりやすく指し示す。
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商品情報
- 著者
- 原英史
- ジャンル
- 教養 - ノンフィクション・ドキュメンタリー
- 出版社
- 新潮社
- 掲載誌・レーベル
- 新潮新書
- 書籍発売日
- 2019.03.15
- Reader Store発売日
- 2019.03.22
- ファイルサイズ
- 4.4MB
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この作品のレビュー
平均 4.0 (5件のレビュー)
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このレビューはネタバレを含みます
岩盤規制について。
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著者は元官僚で様々な規制改革に関わってきた、いわゆる中の人だ。著者の話を総合すると政治家は今まで風穴を開けようとしてはきたが、官僚や規制緩和を快しとしない政治家達に阻まれ、せっかく法案が通ったとしても骨抜きにされ、実質的に機能しなくなったりするというところか。
規制緩和が遅れ、OECD諸国の中でも色々と出遅れたことを、将来的なリープフロッグの可能性についても言及しているが、残念ながらそれはポジティブすぎる気がする。変化が早く、大きい世の中にとって、とにかく変わりたく無い人が多い人が多いことと、そういった人々を基盤とする政治家が一定数以上いると、変わることができず、結局沈むんじゃ無いか・・・そんな気がしてならない。その辺り、コロナでも随分証明された気がする。
加計学園問題というのも、確かに騒がれていたような問題があったとはいえ、そもそもは岩盤規制に風穴を開けようとしたものであったことというのも、メディアを巻き込んだ一大騒動に発展したおかげで見えにくくなったというのも興味深い。
P.9
医薬品のインターネット販売は長く禁止されてきた。2014年に一部解禁されたが、今も多くの品目や処方薬では禁止されたままだ。(中略)なぜ禁止するのか?規制を所管する厚生労働省に問うと、答えのキーワードは「対面」と「顔色」だ。(中略)顔色を一瞬みただけで副作用の危険性などを即座に察知できるスーパー薬剤師さんがどれだけ存在するのだろうか。(中略)ちょっと考えれば、厚生労働省の説明が屁理屈に過ぎないことは明らかだ。なぜそんな屁理屈をいっているかというと、昔からある薬局にとって、インターネット販売の出現は不都合だからだ。そして、薬局を支持基盤とする政治家はその利益を守る必要がある。厚生労働省は関係業界と関係議員に配慮することで、最大限権力を発揮できる。業界・議員・官僚の結託した利権構造が、こんな屁理屈を産んでいるのだ。
P.47
運輸、通信、金融などの分野では、90年代から2000年代はじめにかけて、「事前規制型から事後チェック型へ」の大方針に基づき、大きな改革が進められた。(中略)その一方で、転換から取り残され、昔ながらの行政のままになっている分野も存在する。(中略)「何がどのように供給されるかを、事前にすべて行政が適切に決定する」ことを前提とした規制だ。こうした事例はほかにも大量に存在し、だから、規制改革推進会議の答申では、数え方にもよるが毎年100以上の項目が取り上げられ続けている。(中略)ひとつひとつをみれば、金融や航空の産業規模とは桁がいくつも違うものが大半だ。しかし、こうした小さな積み残しの蓄積が、日本経済の足かせとなってきた。
P.75
「日本では、総理大臣より、役所の課長のほうが力があったから」(中略)
「事前規制型」は、官僚機構にとって好ましいだけでない。業界団体や族議員にとっても都合がよく、「鉄のトライアングル」で協力に支えられている。
だから総理大臣が「規制改革」(=「事前規制型から事後チェック型へ」)を唱えても、各論になれば、あちこちから異論・反発が噴出する。本来なら反対派を説得・調整するはずの「根回しの主力部隊」が実際には反対陣営にいるのだから、調整がうまくいくわけがない。
総理大臣が「規制改革」を唱えてもなかなか進まずにきたのは、こういう基本構造ゆえだ。
もちろん、省庁の幹部たちがみな、改革に反対する抵抗勢力なわけではない。また、総理大臣が大方方針を示している場合、一般には、表立って反対・抵抗することは稀だ。ただ、
・根回しがなかなか進まず(つまり「サボタージュ」)、実現に至らない、
・いちおう実現したが、政策の細部でいつの間にか「骨抜き」がなされる、
・いったんは実現したが、あとから「揺り戻し」が生じる、
などといったことが起こりがちだ。
これが官僚機構の「面従腹背」の正体だ。
P.79「ルールはできる限り不明瞭に」
「面従腹背」と密接に関連して、官僚機構では伝統的に「ルールはできる限り不明瞭に定める」との不文律がある。「事前規制型」行政では標準的だ。
なぜそうなるかというと、ルールが不明瞭なことが、「鉄のトライアングル」の三者(官僚機構、業界団体、族議員)それぞれにとって都合がよいからだ。
官僚機構にとっては、ルールが不明瞭であるほど、個別事案に応じた裁量、つまり匙加減の幅が大きくなり、自らの権力の源泉となる。
業界団体を構築する有力企業にとっては、その権力の恩恵にあずかり、自らは匙加減で有利に扱ってもらい、アウトサイダーは排除してもらうことができる。
族議員にとっては、恩恵を受ける業界団体から政治献金や選挙でのサポートを受けられる。さらに、ルール上の裁量の余地が大きいほど、行政に対する口利きの余地も広がるから、業界に貸しを作る機会も増える。(中略)もともとルールが不明瞭に定められているので、規制改革を求められる鏡面でも、細部で「骨抜き」、あとから「揺り戻し」など、「面従腹背」の細工が自在にできるのわけだ。
P.82(遠隔診療について)
・もともと平成9年(1997年)通知で、「たとえば、離島、へき地」など「直接の対面診療を行うことが困難である場合」には、「遠隔診療によっても差し支えない」と書いてあって、
・平成27年(2015年)通知で、「離島、へき地」は「例示」に過ぎないと定め、これで「都市部も認める」と示した、という意味なのだ。
これでは、一般の人はもちろん、規制の運用実務を担う自治体の担当者でさえ、意味合いがさっぱりわからない。現実には、2015年以降も、都市部の自治体で「遠隔診療は不可」との運用が続いた。
「大事なルールほど通達などの下位規範で定める」との不文律もある。(中略)法令の体系では、最上位の「憲法」のもと、国会で決められる「法律」、その下に閣議決定で定める「政令」、個々の大臣が決定できる「省令」「告示」がある。さらにその下で、各省庁の局長や課長などが示す文書が「通達」だ。遠隔診療に関して引用した通知は、この「通達」にあたる。
本当に大事なルールは、たいていは、下のほうの「通達」「告示」「省令」あたりで定められている。(中略)さらにおかしいのは、下位規範で上位規範を平気で書き換えてしまうことだ。(中略)こんなことをされたら、法律を制定する立場の国会議員は、与野党にかかわりなく、怒ってもよさそうなものだが、そう考えて、国会の参考人質疑での発言でもこの点を強調したのだが、残念ながら、儀仗であまり反応はなかった。日本の法令体系では、こうしたことが常態化しているからだろう。
P.102(天下り規制に関して)
法令に精通しているはずの官僚がなぜ法令違反をするのか、と不思議がられることもある。
私からみれば、何も不思議ではない。伝統的に、官僚は遵法意識が低い。
なぜなら、先にお話しした「大事なルールほど通達などの下位規範で」不文律でも明らかなように、官僚にとって、ルールは与えられるものではなく、自分たちが作るものだからだ。「事前規制型」に慣れ親しんだ官僚たちは、法律を通達・告示で書き換えることぐらい平気でやってきた。自分たちが納得のいかない「天下り規制」は、独自の解釈で勝手になかったことにしていたのだろう。投稿日:2023.02.26
新しい動きを認めない我が国の岩盤規制.事前規制型行政と縦割り業法の実態を糾弾する内容だが、著者は行政側の人間だ.従って、新聞論調とはやや異なった行政ベースの意見が多いが、このような考え方も考慮すること…は必要だと感じた.この状態を何とか改革しようと、第三者機関が作られて活動してきてはいるが、成果が上がっていない.その間に日本以外のOECD諸国などでは、新しいビジネスを立ち上げてきている.勿論、失敗例もあるがとにかく進めてきている.日本ではそれができない.ただ、後追いの利点を活用して、飛躍できることは可能だと筆者は強調している.事前規制型から事後チェック型への転換だ.続きを読む
投稿日:2019.09.29
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