哲学者の密室
笠井潔(著)
/東京創元社
作品情報
三つの事件を経て、矢吹駆に対する自分の感情を持て余していたナディア。そこに起こった新たな事件は、頭部を殴打され、背中に刺傷を負った死体が、誰も入ることのできぬはずの三重密室の中で発見される、という衝撃的なものであった。さらに、その謎を追う彼女の前に、第二次大戦中、コフカ収容所で起こった密室殺人事件が浮かび上がってくる。二つの事件の思想的背景には、二十世紀最大の哲学者のある謎が存在した。ナディアに請われ、得意の本質直観による推理で事件に立ち向かう矢吹駆の前には宿敵イリイチの影が・・・・・・!? 現代本格探偵小説を生み出した大量死の謎をも解き明かす、シリーズ最高傑作の呼び声高い第4作。/解説=田中博
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商品情報
- シリーズ
- 矢吹駆シリーズ
- 著者
- 笠井潔
- ジャンル
- 小説 - ミステリー・サスペンス・ハードボイルド
- 出版社
- 東京創元社
- 書籍発売日
- 2002.04.12
- Reader Store発売日
- 2017.09.21
- ファイルサイズ
- 4.5MB
- ページ数
- 1182ページ
- シリーズ情報
- 既刊6巻
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この作品のレビュー
平均 4.4 (18件のレビュー)
-
よくできたフィギュアをおまけにした本やら菓子やらが大人を対象にして売れているという記事を最近新聞で目にした。「付加価値」というやつだろう。ただの本や菓子には食傷気味の消費者であっても目先を変えることで…、もう一度購買意欲を喚起することができる。笠井潔の「矢吹駆」シリーズには、おまけ付き菓子を思い出させるところがあると言ったら作者は気を悪くするだろうか。
新作『オイディプス症候群』が出たのに合わせたのかどうか、十年前に出た旧作の『哲学者の密室』が文庫版で再版された。まず新作を、その後旧作を読んだのだが、読後の印象としては、旧作『哲学者の密室』の方が印象が深い。おまけについているのは、新作の方が、ミッシェル・フーコー、旧作の方がマルティン・ハイデッガーである。どちらにしても思想家としては魅力的な対象であることはまちがいない。
笠井潔は中学生の頃からドストエフスキイの『悪霊』のような小説を書きたいと思っていたという。バフチンの指摘を待つまでもなく、ドストエフスキイの魅力は、登場人物間のポリフォニックな観念的な対話にある。矢吹駆連作で、笠井がやろうとしているのは、探偵小説という意匠を纏うことで可能になる現存する思想家たちとの仮想的な対話を通して、自分の抱いている観念を明らかにしようとする目論見でもあろうか。
かといって、探偵小説の方がおざなりになっている訳ではない。本格探偵小説の枠組みに則った上で、矢吹駆の言う「現象学的本質の直観」による謎の解決が図られるという点では、ミステリの常道を行くものである。本作では現代のパリに起きた密室殺人事件と三十年前、ナチス収容所内に起こった密室殺人事件の謎を解くという離れ業をやってのける矢吹駆はまちがいなく現代の名探偵の一人といえるだろう。
であるにせよ、笠井を読む魅力は、彼の原点とも言える連合赤軍に代表される左翼活動家であったことへのこだわりに発する問題意識が現代を代表する思想家達の思想との対決の中で、どのような論理を展開するのかというところにあると言ってもいいだろう。ニューアカデミズムと呼ばれる一群の若手言説家達の戯れるような軽さとは対称的に、愚直なまでに自己の問題にこだわりづける笠井の〈あり方〉には、ある種の共感を覚えずにはいられない。
作中でハイデッガーに擬せられた哲学者ハルバッハの「死の哲学」とは、日常性に埋没し、本来的な生を見失った結果頽落的な毎日を生きる「ひと」を批判し、「死」の側から現在の生をとらえ直すことで本来的な生き方を可能にさせるという考え方である。矢吹は、その考えを疑う。「死」を瞬間ととらえるのははたして真かどうか。死が、始めも終わりもない曖昧な過程だとしたら。無名の大量死の死者や収容所の生を受け容れざるを得なかった人々の生を彼は思う。
生きるということにどんな意味があるのか。若い頃なら誰もが一度は考える。しかし、日々の生活に紛れる裡に誰もがそんなことを考えたことさえ忘れてしまう。ひとは大震災のような大量死をもたらす災害や9.11のようなテロに遭遇したとき、はじめて本来的な生の相貌を垣間見るのだ。頽落的な日常に苛立つ人々がいる。有事法制もまた「死」の側から今の生を見直せと迫る「死の哲学」との類縁性を持っている。しかし、本当は駆の言葉通り「頽落した日常的な生のなかに死は、濃密に浸透している」のではないだろうか。我々は日々死につつある。そのことに目を瞑るのでなく、頽落的な日常の底に澱のように沈む死に目を向けることを忘れてはなるまい。続きを読む投稿日:2013.03.11
本の厚さに流石に怯みましたが、読み始めると止まらない。哲学談義も密室トリックの謎も展開される推理も面白く、あれこれ考えているうちにいきなり場面は第二次大戦末期の…。そして第2の密室殺人。ドイツ第3帝国…や強制収容所についてどれほど無知だったか思い知らされるうちに少しずつ本のタイトルの理由がわかり始めます。これは単なる推理小説では無いのでは?密室殺人とは、死の意味とは。最終章まで本当に目が離せない小説でした。その後読んだ他の推理小説がもの足りなくて困りました。読書大好きさんにはお勧めの本です!続きを読む
投稿日:2023.08.02
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