流砂
ヘニング・マンケル(著)
,柳沢由実子(訳)
/東京創元社
作品情報
これが私の生きる条件を変えた十日間の真実である。流砂は地獄への穴だが、私はなんとかそれに嵌らなくて済んだ。――がんの告知を受けた北欧ミステリの帝王マンケルは何を思い、押し寄せる絶望といかに闘ったのか。遙かな昔に人類が生まれてから今日まで、我々は何を受け継ぎ、そして遠い未来の人々に何を残すのか。〈刑事ヴァランダー・シリーズ〉の著者の最後の作品。闘病記であり、遺言でもある、魂の一冊。
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商品情報
- シリーズ
- 流砂
- ジャンル
- 小説 - ミステリー・サスペンス・ハードボイルド
- 出版社
- 東京創元社
- 書籍発売日
- 2016.10.28
- Reader Store発売日
- 2016.10.31
- ファイルサイズ
- 14.4MB
- ページ数
- 360ページ
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この作品のレビュー
平均 4.5 (4件のレビュー)
-
2013年のクリスマス・イブの朝、首の後ろの痛みからガンと診断され困惑の底に落ちたマンケル。それを脱して約6か月たってエッセイを書き始めたようだ。そこには治療の様子、治療に対する心境、そして幼い日々か…ら青春の日々、アフリカなどでの劇場の仕事、そして父、出て行った母、愛した女性のことなどが綴られる。
「流砂」は4番目の章で、幼いころの死を書く。氷の湖に落ちた同じ村の少女、彼女が引き上げられた様を見ていた自分、それが冷たく凍っていたこと。また同時期に読んだ本の中で砂の穴~流砂に落ち飲み込まれてしまう男のことを思い出し、まさにガンにかかった自分はこの流砂に落ちていると思う心境が書かれている。
放射性廃棄物に関心があったようで、ノルウェーやスウェーデンの地下深くの核廃棄物処理場のこととその憂慮が幾度となくかかれている。
病気の中で生と死について幾度となく考える中、「生きる喜びと生きたいという欲求なしに人は存在しない」「小さな子供は海岸や庭や家の表に座り、言葉の無い歌を歌いながらいつも遊んでいる」「歌う幼子の存在しない人間社会あるいは文明はありえない」・・としながらも一時住んだアフリカでは捨て子された幼子が生きるために歌う事は無かったことも記されている。
「安堵は、生きていくうえで経験するもっとも忘れがたい感情の一つである」「思考の上では、あらゆることが可能なのだ」「私たち人間が考える能力を発達させてきたのは、もちろんいうまでもなくサバイバル、すなわち生き残ることを目指すからである」「極端に言えば、
私たちが望むのはサバイバルだけである。私たちは生きたい。死にたくない。」
中学を途中でやめ一人パリでスウェーデン出身のジャズミュジシャンを訪ね、クラリネットとサクソフォンの補修アシスタントの仕事を得て暮らす。1980年代の中ごろ、ユーゴスラビアに車で向かっていてドイツのハノーバーを過ぎると、少年たちの乗ったバスで身を乗り出した一人が高架橋にぶつかり、その首がもげなんと後続するマンケルのフロントガラスに落ちてきたことが記されている。そしてまた別な章では、直前その少年が後ろを向き笑ったことを思い出したとも記されている。
2014発表
2016.10.28初版 図書館続きを読む投稿日:2023.04.08
このレビューはネタバレを含みます
ヴァランダーシリーズやと思って予約してみたら、なんと作者ヘニング・マンケルのエッセイ…ではないな、遺書でもないし…
レビューの続きを読む
マンケルががんを宣告されてから、何を考えてきたかを、自らの年齢と同じ67章の文章に…した闘病記…闘病記という括りもちょっとずれるか。「へニング・マンケルとは何者であるか」を書いた哲学思想のつづれ書きなのである。
俺だって誰だって余命は分からない。明日死ぬかもしれないし、死に至る確率は年齢とともに増えていくのは事実。死ぬのは怖いが、死なない訳にはいかない。
マンケルは、がん告知と余命宣告を受けてから、その現実をどのように受け止め、何を考えてきたのか?
そんなことをきちんと書きとめてくれているのが、いずれそうなる身の我々には、非常に心強いではないか。そして彼は自分の死の事よりも、後に残る人々について想いを馳せる。
10万年間地中深くに放置される核廃棄物、彼はこのことについて何度も想いを巡らせる。我々の負の遺産をこんなにも長く後世に引き継がせていいのか?と。
死に直面しているからこそ、この問いかけは深い。優しい男ヘニング・マンケル。残念ながら治療の甲斐なくこの作品を上梓後1年でこの世を去る。冥福を祈らずにいられない。続きを読む投稿日:2019.03.09
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