忘れ物が届きます
大崎梢(著)
/光文社文庫
作品情報
不動産会社の営業で訪れた家の主人が、小学生の頃の自分を知っているという。驚いた自分にその元教師が語ったのは、なぜか20年前に起きた拉致事件の真相を巡る推理だった。当時の記憶が鮮やかに蘇る・・・・・・(「沙羅の実」)。長い日々を経て分かる、あの出来事の意味。記憶を遡れば、過去の罪と後悔と、感動が訪れる。謎が仕組まれた極上の「記憶」を5つ届けます。
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商品情報
- シリーズ
- 忘れ物が届きます
- 著者
- 大崎梢
- ジャンル
- 小説 - ミステリー・サスペンス・ハードボイルド
- 出版社
- 光文社
- 掲載誌・レーベル
- 光文社文庫
- 書籍発売日
- 2016.08.20
- Reader Store発売日
- 2016.09.23
- ファイルサイズ
- 0.2MB
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この作品のレビュー
平均 3.7 (26件のレビュー)
-
『過去にかえりたい。そしてもう一度、やり直したい。今ならもっとうまくやれる。利口に対処できる。あの結末以外のものにたどり着くことがきっとできる』
…そんな風に思ったことはありませんか?…と偉そうに言…う私など、もう毎日がこの思いに満たされています。どうしてあの時、あんな風に考えてあんな風に行動してしまったんだろう、そう考えて落ち込むことが日常なくらいに、後悔の歴史を日々作り続けている私…って威張れることではありませんね。ただ、人はそうやってはっきりと意識していることの他にも無意識の内に過去になってしまっているような出来事とも出会いながら日々を生きています。その時、その瞬間に大騒ぎした事ごと。しかし、忙しい日常の中でそれらは急速に過去になってしまいます。届いたメールをフォルダの中に移すように、それらは過去というフォルダの中で時を止めてしまいます。しかし、それらは本当に過去の中に閉じ込めてしまって良いものだったのでしょうか?その時その瞬間にリアルにその事ごとに対峙したあなたは、それらの全てを明らかにした上で過去というフォルダの中へしまったと言えるでしょうか?
この作品は、そんな過去のフォルダに入っていた出来事にまさかの真実が隠されていたことに気づく物語。『二十年前、君は、大きな荷物を抱え込んでしまったのではないか』と言われて、過去の出来事へと目を向ける主人公の物語。その真実によって過去のフォルダの中から、その出来事をリアルな今に移し替えることになる主人公たちの様を見る物語です。
『二十年前に開発された分譲地の一画』にある家へと二度目の訪問をするのは『不動産仲介会社』に勤める小日向弘司。『どうぞ、どうぞ、お待ちしていました』と長女の招き入れで部屋へと上がった弘司。『挙式を三カ月後にひかえ、新居として手頃な物件を探していた』長女にリビングに通されると、母親が『笑顔で待ち構えてい』ました。二人と話をしていると『数年前に定年退職した』という父親が帰ってきました。『お邪魔してます』と言う弘司に『君、横山町の出身といってたね。だったら小学校は、横山小学校か』と話しかけてきた父親は自身が同校で教員をしていたと明かします。そして『こう言うと驚かれてしまうかもしれないが、実は、君のことを覚えているんだよ』と言う父親。『となりのクラスの担任』だったと言う父親は『少し、昔話をしてもいいかな』と訊きます。『なんていうかこう、二十年前のあの事件については未だに腑に落ちないことがある』と続ける父親に『腑に落ちないとは、どういうことですか』と訊き返す弘司。『事件ってなんのこと?何かあったの?』と割り込む長女に『小日向くんはとある事件に巻き込まれ、一歩まちがえれば大ごとになるところだった。まったくの被害者だ』と語ります。『残念ながら犯人はみつかっていません。あれきりですよ』と言う弘司。三人の前で父親は『二十年前の出来事を話し始め』ます。『今と同じ秋だった』という季節に『六年生は恒例の、森林公園に出かけての飯盒炊爨』をし、それが終わった夜に『いきなり事件は起き』ました。『六年一組の生徒が夜になっても帰ってこない』。『手分けをして捜したがみつから』ず、『警察に届け出』たというその夜。結局『一夜明けた早朝』、『河川敷の広場に設けられた物置小屋』で保護された生徒。『君は、不審な手紙におびき出されたんだったね』と、父親は唐突に弘司に訊きます。『六時に河原のゲートボール場に来て。見せたいものがある』という内容を語る弘司は、一方で『なぜこの場で、過去の話をしなくてはならないのか』と思います。経緯を聞かれ『何者かに襲われた』、『いきなりうしろから口をふさがれ、静かにしろと言われ』…とその時の記憶を元に語る弘司。そんな時『あの日はもうひとつ、事件が起きていただろう?』と父親が話を切り出しました。『あっという間に胸の鼓動が速くなった』という弘司は『ひょっとして自分は罠にはめられたのではないか』と焦ります。そして、長女に急かされ『拉致事件があった夜にね、亡くなった人がいるんだよ』と同じ横山町にある古いビルで転落死があったことを語る父親は、『生徒の親御さんだったんだよ』と素性を明かします。『当時ぼくがいちばん仲よくしていた友だち、佐々木のお父さんでした』と語る弘司。『まったくちがう事件が同じ町内で、同じ夜に起きたことは、警察もずいぶん不審に思った』という当時。しかし『犯人逮捕に至らぬまま捜査打ち切りとな』ったという結末。『先生はこの結果に不満をお持ちですか』と訊く弘司に『まあ、そういうことだ』と返した父親。『たった一言に、地球の重力を倍にするほどの力があ』ると感じた弘司は『あの事件について、何かご存じなんですか』と思わず訊き返します…そして、そこには二十年前に起きた事件のまさかの真実が隠されていたのでした…という最初の短編〈沙羅の実〉。まさかの二十年前の真実が明かされるその展開と結末、込み入った設定の上に展開される物語は、読者の読解力が問われる難編でした。
「忘れ物が届きます」という印象的な書名のこの作品。関連性のない五つの短編から構成される短編集です。短編間に登場人物などの繋がりは一切ありませんが、五つの短編が取り上げるのはいずれも主人公たちが意識的に、もしくは無意識のうちに記憶の彼方へと追いやった過去の出来事が偶然に、もしくは必然として現在の主人公の元に再び関わりを持ち始めるという点です。では、上記した一編目〈沙羅の実〉以外の四つの短編について以下に簡単にまとめ、その後、短編の構成を見ていきたいと思います。
・〈君の歌〉: 『相談したいことがあるから放課後、美術準備室に来て』と書かれたメモを持って教室を訪れた女子中学生が襲われた過去に起こった事件。『犯人は未だにわからずじまい』となったその事件が、主人公の卒業式の場、まさかの”あの歌”が鍵を握る中に解き明かされていく物語。
・〈雪の糸〉: 『特捜刑事木佐貫大介』というテレビ番組をリアルタイムで見たと思っていた男性が、一時間遅れのビデオで見ていたことを知ったことで、過去に聞いた『電話を待ちながら大きな桜を見上げていたら、白い物が落ちてきて、花びらとばかり思ったら雪だった』というとても印象的な情景描写が事件の鍵を握ることに気づく物語。
・〈おとなりの〉: 『十年前、分譲地内で起きた殺人事件。同じ日に息子は熱を出して学校を休んだ』という過去のある日の出来事について、『あの日、店の近くの交差点で准を見かけた』と家で寝ていたはずの息子を見かけたという人物が今になって現れ、それをきっかけに『十年前の五月二十日』に起こった出来事のまさかの真実が明らかになる物語。
・〈野バラの庭へ〉: 『それが、統子さんを見た最後だった』と、兄と統子の結婚が近づく中、昭和三十年の夏に催されたパーティで、2階のベランダに立つ姿を見たのを最後に行方をくらました統子。『まるで神隠しみたい』といなくなってしまった統子に隠されたまさかの真実。そんな『思いもよらないあの日の裏側を、ついに知ることになったのよ』と『なんでも代行業』の社員が関わりを持つことになったことで明かされていく真実の物語。
…というように、それぞれの物語は、
①過去に、ある事件・出来事が起こる
※これは事件としては未解決でも一応は過去のものとなっている。
②”①”に関わりのある、もしくは関わりのない人物が意図せず、もしくは意図的に”①”の矛盾もしくは穴を開けるきっかけを主人公に話す
※全くの偶然の場合と、主人公を”①”に巻き込ませるための故意の両方の場合あり
③”②”によって、突き動かされた主人公が”①”の真相解明に乗り出す
※主人公の自発的な衝動の場合と、誘導されてという両方の場合あり
④”③”によって、”①”に隠されていた真実が明らかになる
…といったほぼ共通の構成を取ります。なので、読み慣れていくと頭の整理が追いついていくのですが、冒頭の〈沙羅の実〉が曲者です。まだその作品世界に慣れない読者の前に展開されるのは、かなり複雑な関係性を持った人々の物語であり、結末に描かれる作品世界に理解が追いつきません。実際、ブクログをはじめ色んなサイトで、”よく分からない”、”理解できない”という感想が頻出しています。…という私も読み終わって???となってしまい、答えを求めて色んなサイトを探し回った…という結果論。それでも分からず思い切っての読み直し。そして、ゆっくりと慎重に読んでいくと、ようやくそこに朧げながらに浮かび上がったのは、なんとも切ない過去と今が繋がったその先にある物語でした。この作品を読まれる方は、一編目はとにかくじっくりと、時間をかけて、登場人物の関係性を一つひとつ整理しながら読んでいくことをお勧めします。
さて、そんな物語が取り上げる作品世界はとても面白いと思います。私たちは忙しい毎日を過ごす中で、その時代、その瞬間に向き合わなければならない出来事があまりに多すぎます。そんな中では、過去へと過ぎ去った出来事にまでいつまでも思いを囚われている時間はありません。ニュース報道にしても、そのそれぞれがテレビの画面を賑わすのはほんのいっ時です。あっという間に報道されなくなり、その時どんなに気になっていたことも全て過去の時間の中へと追いやられてしまいます。人が過去という時間を見る時、それはもう二度と変わることのない記録として見るように思います。この世には未解決事件、”容疑者不詳”として終わってしまった事件がたくさんあります。しかし、そうであってもそれらは”容疑者不詳”という塊となって過去の時間の中に閉じ込められています。普通にはそれらが再び動き出すというようなことはありません。しかし、そんな過去の出来事の中に、明らかにされていなかった事実、隠されていた事実が何かの拍子に浮かび上がったとしたらどうでしょうか?その瞬間に過去の出来事に再び光が当てられ、動き出すということがあるのだと思います。リアルな世の中でもそういった形で再審理の場へと上げられる過去の事件も決して珍しくはありません。この作品はその点に注目した作品です。それを『忘れ物』という言葉で言い表す大崎さん。一般的に意図せず置き忘れてしまったものが見つかった時、それは大きな喜びを持ち主にもたらします。しかし、この作品で取り上げる『忘れ物』とは、それが何年、何十年の時を経て姿を表すことが必ずしも過去にその出来事に関係した人々にとって喜びとなるわけではありません。その『忘れ物』が現れたことによって、過去が精算されて晴れやかになる人がいる一方で、順調だった人生がまさかの暗転を始めることだってありえます。「忘れ物が届きます」というなんとも他人事のような言葉の中に描かれるこの作品。思いがけず『忘れ物』が過去から今に『届く』という点に光を当てるこの作品。読後、その絶妙な書名の付け方にすっかり感心してしまいました。
この世にタイムマシンは存在しません。でも、過去の出来事の痕跡というのはそこかしこに残っているものです。特に過去の出来事に人生を変えられた、歪められたと感じる人の心の中には、それはいつまでも消えない、消せない事がらとして残り続けるものです。
『望むところだ。過去への扉とやらがあるのなら、力いっぱい押し開けてみよう』。
過去は触れてはいけないものではありません。封印されてしまったものでもありません。そこにまだ解き明かされていない真実があるのであれば、それを解き明かしたい!と思うのは当然のことです。しかし、そんな過去への扉を押し開けたその先には、思いもよらなかった結果が待ち受けている場合もあります。それは現在のあなたの、そして未来のあなたの人生にまでも予期しなかった影響を与えていく場合もあります。
そう、この作品はそんな過去への扉を開けた結果が現在の主人公にもたらす様を見る物語。それは、そんな過去の扉の向こうにあったまさかの真実を見る物語。大崎さんの目の付け所の面白さに、まさかの驚きと、少しのモヤモヤが残った、そんな作品でした。続きを読む投稿日:2021.06.30
何となく、うやむやになってしまった過去。
当時はどうにもならなくて、今は忘れてしまいたい過去。
人にはいろいろな過去がある。
そんな過去が一定期間の時を経て、「忘れ物」として自分の元に届いたら・・・
…というテーマの短編集。
本関係以外の作品を読むのは、多分初。
他人の自分の心にしまっておきたいと過去をほじくり出すような感じで描かれた1作目の「沙羅の実」があまり好きではなく、他の作品も何となく嫌なフィルタがかかったまま、読んでしまった感じ。
短編の分、状況の描写が分かりにくく、ずっと違和感を持ちながら作品を読み進めると言うのも、今作では多く感じられた。
最後まで読めば、なるほど・・・となるのだけど、過程の引付が弱いのか?個人的な好みなのか?続きを読む投稿日:2022.11.29
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