出雲神話論
三浦佑之(著)
/講談社
作品情報
【担当編集ノート】三浦佑之さんといえば、大ベストセラー『口語訳 古事記』の著者にして現代古事記研究を牽引する人です。お嬢さんの三浦しをんさん曰く「コジオタ(古事記オタク)」。その三浦さんの主張の核心こそ「『記紀』の呪縛からの解放」です。簡単にいえば「多くの人は『古事記』と『日本書紀』を似たようなものと考えがちだが、それは大きなまちがい。ふたつの書物はまったく別の意図をもって編纂されたと考えるべきで、その証拠が出雲神話とよばれるものである」ということ。古事記は、上・中・下の3巻から成り、神々のことは上巻において大河小説のように語られます。そのなかで、出雲神話と呼ばれる部分はおおむね以下の部分です。1)アマテラスの弟スサノヲが高天の原を追放され、出雲の国の肥の河の上流にやってきて、コシノヤマタノヲロチを退治し、生贄になって喰われるはずのクシナダヒメ(櫛名田比売)を助けて結婚し、子孫が繁栄する話。2)スサノヲから数えると7代目にあたる子孫オホナムヂが傷ついたウサギを助けたり、命を狙う兄たちから逃れて根の堅州国に行くなどの試練と成長を語る冒険物語。3)オホナムヂがなぜかスサノヲの娘スセリビメと結ばれ、スサノヲからのさまざまな試練を克服し、最後には、スサノヲのもつ呪宝を奪いスセリビメを連れて地上にもどる話。4)逃げるオホナムヂに向かってスサノヲが「大国主」となって地上を支配しろと祝福し、オホナムヂは地上にもどって兄たちを追い払う。スサノヲのことば通りにオホクニヌシとなって地上の主として君臨する話。5)地上の王となったオホクニヌシと女たちをめぐる物語、および国作りを助ける神の話。オホクニヌシとその子孫たちの栄華。じつはこのほとんどが『古事記』のみにある記述であり、『日本書紀』の正伝(書紀の編者が、正統な伝えとして採用した本文)には存在しないのです。なぜ『古事記』にだけ出雲神話があるのか、またそれに続く、俗に「国譲り神話」と称される出雲の滅びの物語にはなにが隠されているのか? ここに徹底的に焦点を絞りながら『古事記』神話、ひいては古代における日本列島の姿を考えてみたいというのが、三浦さんのもくろみです。本書は三浦さんの古事記研究生活50年余の総決算ともいうべき一書です。広く江湖の諸子に問うしだいです。
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この作品のレビュー
平均 3.0 (3件のレビュー)
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長年にわたって『古事記』を中心とする日本古代文学の研究をおこなってきた著者の、出雲神話についての見解がまとめられている本です。
出雲神話をめぐる従来の解釈を批判し、考古学上の研究成果も参照しながら、…ヤマト王権に敗北した出雲の側の「語り」を、『古事記』や『風土記』のうちに読みとろうとする試みがなされています。著者は、高天原からタケミカヅチが使者として遣わされ、タケミナカタとの力くらべを経て「国譲り」がおこなわれたという解釈は、ヤマト王権による出雲の「制圧」として理解されなければならないと主張しています。また、カミムスヒについても、出雲とかかわりの深い神であったという考えが提出され、『古事記』や『日本書紀』においてタカミムスヒと並列する神として位置づけられることで、そうした実態が見うしわれていったことを主張するとともに、そのような考えを著者に先だって提出していた先行研究の発掘をおこなっています。
著者は、古老の語りという形式をとった『古事記』の現代語訳を刊行し、『古事記』の入門書も多く執筆していますが、本書はそれらの解説でも語られていた、出雲神話についての著者の考察の集大成となっています。600ページを越えるヴォリュームの本で、重厚な内容を予想していたのですが、たしかに既存の学説についての紹介などはやや難解に感じられるところはあったものの、おおむね読みやすい説明となっており、また著者の主張そのものが展開されていく叙述の流れもたいへん興味深いので、読みはじめると一気に読むことができました。続きを読む投稿日:2023.06.07
「口語訳古事記」がベストセラーとなった著者の古事記研究
の集大成とも言える大著。「記紀神話」として日本書紀と
まとめて語られることに異議を唱え、考古学の成果も取り
入れつつ、出雲神話をまとめていく。独…断的な仮定や前後の
参照の頻出なども少なくはないが、この手の本にありがちな
固有名詞の表記で困惑することはほぼ無く、そのボリューム
では考えられないくらい読み易かったし、私は著者の主張に
ついてその正誤を語る資格を持ち合わせてはいないのだが、
読んでいて実に楽しかった。もっともそれは、松江で生まれ
育った人間にとってなじみのある地名や神社が次々に出て
きたせいなのかもしれないが。松江にあった古志原(こし
ばら)という地名は新潟(越(こし))とつながりがある
のだろうか。続きを読む投稿日:2020.09.13
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