インドネシア イスラーム大国の変貌―躍進がもたらす新たな危機―
小川忠(著)
/新潮選書
この作品のレビュー
平均 4.5 (5件のレビュー)
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このレビューはネタバレを含みます
【216冊目】現代のインドネシアを知る上で極めて有用な書であったように思う。難点は、筆者が国際交流基金職員という立場で現地を観ていることから、学校教育や文化交流の網にかからない、いわゆる「下層部」に属するインドネシア社会や市民までフォロー出来ていないのではないかということ。インドネシアの国土は広大で、人口も2億人以上いることから垣間見ただけで全てを知ることができたとするのは早計である。
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それでも、この書は有用である。パブリック・ディプロマシーの担い手である筆者は、その主張の通り、一部のエリート層よりも広い層と交流してきたのだろうし、文章も他の学問的研究や一次資料からの引用がなされていて、アカデミックな地域研究としても通用すると思う。
本書の要諦は、帯に書いてあるとおり、
・なぜ経済成長でイスラーム化が進む?
→ そもそも経済成長とイスラーム化は、相互背反的な現象ではない。現代インドネシア社会のイスラーム化は、グローバル化や情報化といった急速な社会の変化にさらされた同社会が自分たちのアイデンティティを模索した際、体系化されていない土着の文化やようやく安定し始めたばかりのネイションとしての統合よりも、イスラームに外来思想や文化への対抗軸とアイデンティティの拠り所を求めた結果である。
・アジアへと迫るテロといかに対峙するか?
→ インドネシアには、戦後の独立運動の流れを汲み、イスラームによる国家統合を目指す集団が長くテロ組織として君臨しており、個人名をあげた解説も本書に詳しい。しかし、近年見られる現象としてやはりIS(=Islamic State)が紹介されている。インドネシアは、国民の9割がムスリムである一方、民主政や経済成長が比較的安定して推移してきた国であり、この国から学ぶべきことはたくさんある。脱過激化プログラムなども、完全に成功しているとは言い難い面もあるが、deradicaliseした人間の肉声に学ぶことも有用だ。本書も明快な結論は出し切れていないが、「テロは既に現代社会の一部である」という正しい認識を筆者は持っている。
・日本はイスラームとどう向き合うか?
→ イスラームというよりは、インドネシアと、と書いた方が本書の内容を正確に表している。親日国として知られるインドネシアではあるが、1974年に田中角栄が訪問した際、ジャカルタでは「マラリ事件」と呼ばれる大規模な暴動が起きて11名もの死者を出している。であるから、油断してはならない、と筆者は警告する。歴史的には、インドネシア人の間でとても有名な前田精海軍武官(戦後、インドネシアの独立運動を手助けしたと言われている)がいて、現代においても、日本のポップカルチャーが浸透しつつあるが(matsuriという単語が普通に通じる)、日本人は日尼関係を従来の「教える」「教えられる」という垂直的関係ととらえるのをやめ、より対等な「助け合う」という関係としてとらえてほしいと筆者は願う。投稿日:2017.11.15
経済発展著しいインドネシアにおいて、なぜイスラム化が進んでいるのかを教えてくれる本。インドネシアを理解する上で有用
投稿日:2020.03.03
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