- 最新巻
アンの娘リラ―赤毛のアン・シリーズ10―
モンゴメリ(著)
,村岡花子(訳)
/新潮社
作品情報
みごとに成長した六人の子供たちに囲まれて、アンは幸せな日を送っていたが、第一次大戦の影響は静かな炉辺荘(イングルサイド)にも及んできた。女たちは、出征してゆく息子や恋人を見送ったあと、寂しさをこらえて、精一杯元気に振舞った。養母マリラの名をもらったアンの末娘リラも、偶然引き取った戦争孤児の世話と、赤十字少女団の運営とで忙しい。リラの日記で綴るアン・シリーズ第十巻。
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この作品のレビュー
平均 4.6 (25件のレビュー)
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いよいよアンシリーズの最後。アンを取り巻く人たちのお話でまだ読んでいないものはあるようだけれど、私の中ではいったん、最後と位置付けたので、ついに、という感じで読み進めた。
アンとギルバートの末っ子、…リラの視点で物語は進む。アンシリーズではこれまでになかった戦争(第一次世界大戦)が物語に大きく影を落とす。
アンの息子も3人とも戦地に赴くことになり、辛く苦しい時期が続く。そんな中でも、戦場と化していない場所では生活は続くのだと改めて認識した。女性は女性なりにできることをし、戦況に一喜一憂しながら、日々は続いていく。本作の一番の見どころは、リラの成長だと思う。本来なら若く楽しく美しいばかりのはずの10代を、こんなはずではなかったと思いながらも戦争という時代とともに生き、素晴らしいひとりの女性へと成長していく。特に戦争孤児のジムスの存在は大きかったのだろうと思う。
物語の序盤では、さらっと、すでにマリラが亡くなっていることが描かれていて、当然だけど、もうアンもいい歳なんだなーと感慨深かった。
リラのお相手、ケンが帰還し、「リラ・マイ・リラ」と呼びかけるエンディングは、アンの想像力に負けず劣らずロマンチックだったような気がする。続きを読む投稿日:2022.04.21
“赤毛のアン”の名前を知らない人はいないと思います。
男の人でも。
でも、一冊目は読んでる人でも、アンのシリーズの後半まで読んでいる人はそういないと思います。
(私が一番好きなのは最終巻で、アンが出て…こない「アンの友だち」なんだけど、読んだ、という人に会ったことがない。大好きな短編がいくつもあるのに)
もしくは大昔読んだことある人も、いま読み返すと、おそらく、ええ?こんな話だったっけ?と愕然とするのではないかと思うのです。
なぜかというと、これは銃後の話だからです。
この話のヒロイン、アンの娘リラは、このとき10代の美人……。
この年頃はたいていそうですが、熱血で元気で、あまりまだよくものがわかっていない。
大陸で戦争が始まり、中立国のカナダは参戦するかどうかためらっているところからお話は始まります。
でね、若くてきれいな女の子に、義を見てせざるは、な〜んて演説されちゃったら、その気になる男の子は出てきちゃうわけですよ。
で、友だちに、人の彼氏に何言ってくれてんのよ!?
とブチ切れられたりする。
もちろん戦争に行ったら無事に帰ってこられる保証なんかないわけですから、それがわかってる女たちは、当然息子や恋人に行ってほしくないわけですよね。
そうして、いままで凄く仲良くしてて、ちゃんとした人だとわかってたドイツ人のおじさんが、いきなり村八分になったりもする。
アンの家の女中さんも、普通の人だったのに、ドイツ野郎なんて信用できませんよ、みたいなことを、したり顔で鼻高々といいだしたりしてしまう。
モンゴメリーはもともと田舎の人たちの口さがなさや詮索好きな嫌らしさを持った、生身の人々、を書いてきた作家です。
ですから本当に単なる家庭小説の一環として、戦争の世界を女たちの視点から、ありのままに平凡に綴っていく……。
そういうのって、子どものときに読んだときにはわからなかった。
筋は追えても。
でもこの本を読んだときになんかよくわからないけど、もやもやする、違和感を感じる、これはなんだろう、と思ったんです。
それがようやく、今回もう一度読んでみてわかった気がした。
モンゴメリは、反戦思想じゃないんです。
もちろん、この時代、反戦思想は、まだほとんど存在していなかった。
今でもアメリカやイギリスでは主流の思想ではありません。
リラが一番愛している穏やかな兄のウォルターだけが、戦うこと自体を嫌がります。
人の体を銃剣で刺すなんて、考えただけでも耐えられない、といって。
でもそのウォルターですら、出かけていかざるを得なくなる。
そのすべてをモンゴメリーは反戦思想ではなく、ありのままに描くのです。
日本の戦後の児童文学は、そのほとんどが反戦思想の立場から描かれています。
第二次世界大戦後は、アメリカやイギリスでも反戦思想を底にして描かれる本が増えました。
ある意味、反戦思想ではない、物語、というのを子どもの私は初めて読んだのです。
そしてそれは衝撃でした。
モンゴメリはカナダやアメリカではそう評価されてない作家です。
カナダに行ったときに、B級作家扱いをされていてとても驚いたものですが、彼女は日本でだけ!
有名なのです。
それはこの思想性の浅さ、にあるのかもしれません。
モンゴメリは、人は生まれは関係ない、といいながら、あの人はパイ家の者だからね、と、つい書いてしまいます(実際に人々はそう振る舞うのだろうし)。
女性が自立するのはいいことだ、といいながら、結婚していない女は一人前ではない、という“感情”から抜け出せませんでした。
仕事をして功成り遂げたとしても……。
同じ頃のジーン・ポーターの「リンバロストの乙女」などと比べると、同じ生身の口さがない人々を描きながらも、その違いは明らかです。
ポーターの描く女の人は自立しているのです。
この物語は浅はかだったリラ、が苦しみを経て成長していく姿を描いているのですが、最後の五行は衝撃でした。
正直、どう考えたらいいのかわからない。
子どもだったときは意味がわかっていませんでした(だから、覚えていませんでした)。
というわけで、これは大人の皆さんに読んでみて、いただきたい1冊なのです。
2024/02/29 更新続きを読む投稿日:2024.02.25
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