仁義なき日本沈没―東宝vs.東映の戦後サバイバル―
春日太一(著)
/新潮新書
作品情報
境界線は一九七三年。その年に公開された『仁義なき戦い』と『日本沈没』の大ヒットによって、日本映画の“戦後”は葬られ、新たな時代の幕が開いた。東宝・東映の両社は、いかにして斜陽期をサバイブしたのか。なぜ昔の日本映画にはギラギラとした活気がみちあふれていたのか――。エリートvs.梁山泊、偉大な才能の衝突、経営と現場の軋轢など、撮影所の人間模様を中心に描く、繁栄と衰亡に躍った映画人たちの熱きドラマ。
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平均 4.1 (20件のレビュー)
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タイトル買いです
映画は戦後、庶民の娯楽として時代劇人気とともに花開き1958年には入場者数が11億人を突破した。当時の平均入場料は64円、当時の都市労働者の実収入は3万4千円強だ。まだテレビは普及していなかった。この…本のテーマ「仁義なき戦い」と「日本沈没」が対決する1973年は粗製乱造された時代劇は飽きられ、平均入場料は500円、入場者数は1億8千5百万になっている。
宝塚歌劇団を創設した小林一三は東京有楽町を浅草に対抗する興行の中心地にしようと劇場と映画で進出する。東宝の名前が東京宝塚劇場から来てたとは知らなかった。戦後120館のうち93館は被害を受けたが砧のスタジオは無事で終戦翌年にはうち70館は復旧した。東宝は以後も都心の
東宝に限らず映画は配給会社と製作が対立する構造があった。戦後の労働運動がこれに加わり、東宝も組合が会社側と対立する。製作の自由を訴える撮影所が組合を介して共産党と結びつくあたりはなかなか理解できないところだが。GHQの公職追放を受け闘争は組合の勝利に終わるが、制作費が高騰し大赤字に陥る。会社は強硬策に出、協定が切れた隙に一斉解雇を行う。バリケードの中で黒澤明は映画に理解のない新経営陣に憤るが米軍までが出動する事態では手も足も出なかった。
一方の東映は東急の五島慶太が渋谷の復興に映画館を利用しようとしたことからスタートしたが問題は撮影所がない事だった。大映の太秦撮影所を借り、満州帰りの映画人が加わることで始めたが配給の大映に上前をはねられとにかく金がない。大映と対立した片岡千恵蔵と市川右太衛門を引き抜き、撮影所も買い取り出だしは好調だったがとにかく上映してくれる映画館が少なくこれがのちに地方しかも2番館3番館中心戦略へ結びつく。
時代劇ブームに乗り一躍トップに立った東映、「物語のベースは痛快・明朗・スピーディーや!」殺陣は主役が映える様に、リアルさよりも見た目重視のスターシステムだった。これはのちにテレビの時代劇に受け継がれたが、やがては水戸黄門の終焉とともに残されたのは太秦映画村だけになってしまう。
東宝の復活は公職追放にあった幹部の復旧がきっかけで、3本の超大作「ゴジラ」「宮本武蔵」「七人の侍」がヒットし東宝は大作主義へと突き進む。これは予算がかかるため当たればいいが外れると怖い賭けでもあった。「椿三十郎」では三船敏郎と仲代達也の一騎打ちを
直前まで台本にも書かず秘密で準備し一発撮りを決めた。血糊が予定外に吹き出し本当に切ってしまったかと驚いた役者のリアルな表情というおまけまでつけて。
東宝の大作の前に東映は吹っ飛ぶ、何せ似たような題名が乱立していてスタッフもわからなくなってるような状態では太刀打ちできない。東映は時代劇から博徒路線へそしてエロ路線へも手を出す。「清く正しく美しく」を社是とする東宝にはできない路線であり、都市ホワイトカラーが中心の東宝の顧客にも合わなかった。東映は若手を抜擢し東宝は巨匠を使い続けた。そして今度は東映が復活し東宝はこけ続けた。任侠映画も次第に飽きられ1972年ごろには東宝も東映も苦境に陥っていた。
復活に賭ける東映が選んだのは広島ヤクザの抗争のドキュメントをした時期にした「仁義なき戦い」、これまでの任侠道を否定し生々しくえげつないヤクザの抗争を描いたが、これは同時に終戦後ヤクザが生まれ、朝鮮戦争の好景気、安保闘争、そしてオリンピック招致と市民対ヤクザというアウトローの戦後史だった。
東宝はやはり大作で勝負した。小松左京の日本沈没は日本人のディアスポラが隠れたテーマだったが、満洲引き揚げ組の撮影班はセンチメンタリズムを排し人は危機に向き合った時にどう動くのかを満洲での実体験に基づきリアルさを追いかけた。例えばセットも実際の建物がどう壊れるかに拘った。
1973年を映画界の戦後の終わりとするには違和感がある。当時見た映画で覚えてるのは東映マンガ祭りとゴジラ対へドラだ。この本に出てくる映画もほとんど見ていない。金曜ロードショーなんかでも覚えてるのはポセイドンアドベンチャーやタワーリングインフェルノ、ジョーズに人喰いアメーバ、黒い絨毯とパニック映画ばかり。栄枯盛衰の物語は面白いのだが実際の映画を見てないのであ〜そうそうというのは無かった。残念。続きを読む投稿日:2014.01.13
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#872「仁義なき日本沈没」
年配の人がよく「昔の邦画は良かつた」と往年を懐かしむのですが、その昔と今の境界線はどこであらうかと著者は考へました。それは1973(昭和48)年であるとし、その年を象徴…する作品が、東映の「仁義なき戦い」であり、東宝の「日本沈没」であるといふ。本書のタイトルもその二作品から採られてゐます。そこで日本映画の「戦後」が終り、新たな時代に突入したと。
その流れを、日本を代表する映画会社である東映と東宝を比較する事で、明らかにした一冊でございます。戦前にPCL・JOスタジオ・東宝映画配給の三社と後に東京宝塚劇場が加はつて成立した東宝と、戦後に東横映画・東京映画配給・太泉映画の三社が合併してできた東映。基本的に東宝はプロモーター、東映はクリエイターといふ感じで、東宝は特に主力監督や俳優が「東宝争議」で分離した新東宝に移つてしまつた事もあり、配給網はあるものの肝心の作品が作れない時期があり、一方東映は作品を製作しても配給網に乏しく、ヒットさせる事が難しい状態でした。
その辺の歴史をコムパクトに述べたあと、二章の「時代劇戦争」で、一時期独り勝ちした東映に対し、黒澤明の登場により息を吹き返す東宝の状況を描きます。
そして続く第三章では、両社の舵取りを任された二人の大物について述べます。即ち岡田茂(東映)と藤本真澄(東宝)で、かなり長い章になつてゐます。大衆の欲望に忠実だつた前者と、飽くまでも家族全員で鑑賞出来る健康的な映画を目指す後者の対照を示します。ただ東宝は喜劇・文藝の藤本よりもアクション・特撮の田中友幸の方が会社のカラーをはつきり示したのではないかと存じます。
そして第四章で、漸く1973年の「仁義」「沈没」を取り上げます。この両作品により日本映画の戦後は終焉を迎へたと著者は述べます。私見では、後に与へた影響といふ点では、「仁義なき戦い」の方がイムパクトは強かつたと思ひました。
戦後邦画界の流れを、東映東宝の二社に絞り記述しましたが、勿論ほかに松竹大映日活があり、単純には述べられぬでせう。ただ、「昔」から「今」への変遷を示すには効果的な手法だつたかも知れません。この両社の戦後を俯瞰するには分かり易い一冊と申せませう。続きを読む投稿日:2022.01.08
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