この作品のレビュー
平均 4.3 (624件のレビュー)
-
過去と現実を受け容れることで、前向きになれる
ブッカー賞受賞作にして同名映画の原作。アメリカ人大富豪に仕える老執事スティーブンスはかつての同僚、女中頭のミス・ケントン(現ミセス・ベン)からの手紙をきっかけに休暇を貰い、主人から借りた自動車で旅に出…ます。旅の途中、折に触れてミス・ケントンやかつての主人ダーリントン卿との過去に思いを馳せるのですが、その結果、物語は「現在」の1956年と「過去」である1923年(最終的には1936年も)を行ったり来たりするため、少々分かり難いかもしれません。
「日の名残り」という題名が暗示している様に作中の「現在」は、二回の世界大戦でイギリスは没落し、まさに斜陽の時代です。ダーリントン卿も既に亡く、ミス・ケントンはミセス・ベンになってしまっている。一方、過去である1923年は多少陰りは見せつつも、いまだ世界一の大国としての地位を保ち、主人は健在、ミス・ケントンも同僚と、スティーブンスにしてみれば出来ることなら戻りたいが、決して手が届くことはない失われた黄金時代といえます。「現在」のスティーブンスは折に触れ、偉大さとは何か、品格とは何かを自問し、既に失われてしまったか、あるいは失われつつある、それを守ってきた自分に職業的な誇りをを感じています。にも関わらず、彼はダーリントン卿に仕えていた過去を、自らの経歴・誇りと不可分であるその事実をしばしば隠そうとします。それは彼の弱さの表れであるとともに、現実(過去は取り返しが付かないこと、ダーリントン卿の被った不名誉、屋敷はアメリカ人の手に、etc)を正面から受入れずに、自分を誤魔化しつつ受け流していることの表れであると私には思えました。しかし、そんなスティーブンスも旅の終わりに、取り返しがつかない現実も正面から受け止め、受け容れます。そして現在の主人に前向きに仕えていくことを心に決めます。ミス・ケントンとどうなるわけでも、ダーリントン卿の名誉が回復するわけでもありませんが、それを受け容れることで非常に前向きになる、もしかすると、それがイギリスらしさ、あるいは作中の言葉を借りると「偉大さ」「品格」ということなのかもしれません。
イギリスの歴史(?)小説ということで、日本人には知らないと分かり難い点も少々あります。
時代背景として、戦間期イギリスの対独融和政策を踏まえておく必要があります。ドイツが第一次大戦で敗北し莫大な賠償金を課されたこと。フランスによる過酷な対独政策が反感を生み、ナチス躍進の素地を作ったこと。ドイツで政権を取ったヒトラーとナチスに対し、イギリスはラインラント進駐、再武装、オーストリア併合などに文句は付けつつも最終的には「これが最後」という言葉を信じて領土拡大を追認してしまったこと。このあたりでしょうか。
スティーブンスの葛藤も分かり難いかもしれませんが、身も蓋もない言い方をしてしまえば「父親の健康、職場の同僚との関係など面倒なことから仕事に逃げた男が、老境に差し掛かり、俺の人生、これでよかったのかな?と疑問に思いつつもその気持ちを認められずにいる」という状況です。
ところで映画を見た方ならお気づきでしょうが、原作と映画では現在の主人であるアメリカ人の設定が異なります。原作ではファラデー氏という特に因縁のない陽気な大富豪。映画では過去編にも登場した外交官のルーイス氏。見比べてみると面白いかもしれません。個人的な意見ですが、いくらなんでもスティーブンスが因縁のルーイス氏に仕えるとは思えないので、原作の設定に軍配を上げたい所です。続きを読む投稿日:2014.02.25
-
ノスタルジーや希望とは違う、スティーブンスの立つ舞台
読み初めの頃は、スティーブンスは面白い人だなあという感想が、
少し読み進めると、おいおい、大丈夫かいスティーブンス、になって、
最後のほうは、スティーブンスそれはまずい、大変まずい。というより…。…
読み進めると、スティーブンスを取り巻く人や社会情勢に合わせて、
スティーブンス自身の考え方の変化をしていくのですが、
最後はやはりスティーブンスらしい結末だな、と思ってしまいました。
著者の持ち味、なんと呼んだらいいかわかりませんが、皮肉というのでしょうか。
ここは皮肉ではなく素晴らしいと感じます。
文章の端々から、ミス・ケントンに何があったかなど推測すると、本当にもう、
こんな最悪な可能性が隠れているのに、フェミニストにすら叩かれないどころか、
賞を取るなんて、不快にさせない煙の巻き方が本当にすごいと思います。
自分で選んで罪を犯したことがある人や、
自分自身をかえりみて、勘違いや思い込みで自分を正当化しているかもしれない、
と思う人が、この本を読んだら、
もしかすると、人生の新しい楽しさに気付くのかもしれない、と思いました。続きを読む投稿日:2017.12.12
新刊自動購入は、今後配信となるシリーズの最新刊を毎号自動的にお届けするサービスです。
- ・発売と同時にすぐにお手元のデバイスに追加!
- ・買い逃すことがありません!
- ・いつでも解約ができるから安心!
※新刊自動購入の対象となるコンテンツは、次回配信分からとなります。現在発売中の最新号を含め、既刊の号は含まれません。ご契約はページ右の「新刊自動購入を始める」からお手続きください。
※ご契約をいただくと、このシリーズのコンテンツを配信する都度、毎回決済となります。配信されるコンテンツによって発売日・金額が異なる場合があります。ご契約中は自動的に販売を継続します。
不定期に刊行される「増刊号」「特別号」等も、自動購入の対象に含まれますのでご了承ください。(シリーズ名が異なるものは対象となりません)
※再開の見込みの立たない休刊、廃刊、出版社やReader Store側の事由で契約を終了させていただくことがあります。
※My Sony IDを削除すると新刊自動購入は解約となります。
お支払方法:クレジットカードのみ
解約方法:マイページの「予約・新刊自動購入設定」より、随時解約可能です
続巻自動購入は、今後配信となるシリーズの最新刊を毎号自動的にお届けするサービスです。
- ・発売と同時にすぐにお手元のデバイスに追加!
- ・買い逃すことがありません!
- ・いつでも解約ができるから安心!
- ・優待ポイントが2倍になるおトクなキャンペーン実施中!
※続巻自動購入の対象となるコンテンツは、次回配信分からとなります。現在発売中の最新巻を含め、既刊の巻は含まれません。ご契約はページ右の「続巻自動購入を始める」からお手続きください。
※ご契約をいただくと、このシリーズのコンテンツを配信する都度、毎回決済となります。配信されるコンテンツによって発売日・金額が異なる場合があります。ご契約中は自動的に販売を継続します。
不定期に刊行される特別号等も自動購入の対象に含まれる場合がありますのでご了承ください。(シリーズ名が異なるものは対象となりません)
※再開の見込みの立たない休刊、廃刊、出版社やReader Store側の事由で契約を終了させていただくことがあります。
※My Sony IDを削除すると続巻自動購入は解約となります。
お支払方法:クレジットカードのみ
解約方法:マイページの「予約自動購入設定」より、随時解約可能です