rossoさんのレビュー
参考にされた数
284
このユーザーのレビュー
-
So What? 1巻
わかつきめぐみ / LaLa
どう説明してよいか分からないが、「なんか良い」
4
今回の白泉社旧作大量配信でどうレビューして良いか一番困ったのがわかつきめぐみの一連の作品。
代表作である本作は比較的長いストーリー漫画ではあるので簡単にあらすじを書くと、、、
高校生の阿梨は唯一の肉…親である秋津島教授危篤の報を受け、秋津島家へ帰省する。そこにいたのはタイムマシン実験の失敗で異世界からきたライムと幽霊になってしまった秋津島教授だった。そこに秋津島の弟子の海堂、元同級生の桃太郎が同居してライムを元の世界に戻そうとするが、、、
、、、あれ?全然説明になってない。梅3匹もたけちゃんも所長も出てこないし、梅もどきも出てこない。笑いキノコも出てこなければ、巨大猫も出てこない。だいたいそもそもこんな深刻なストーリーじゃないぞ。
わかつきめぐみの作品世界はストーリーでは説明しようがないのだ。ストーリーは単なる流れであって、それに付随する「どーでもいいこと」こそがメインなのである。
だから「『SO WHAT?』ってどんな作品?」と問われても答えようが無いのである。
でも「その、どーでもいいこと」がなんか良い。ライムの料理教室も良いし、笑いキノコが「ふっふっふ」と笑うのも良い。梅3匹がばたばた走ってるのも良いし、別の作品だが家を包むぐらいに生えてくる貧乏蔓やもののけ君、ササニシキ、コシヒカリ、コシジワセ(なんてマニアックな名前の付け方)も良い。
読んでみて「なんか良い」と思える人はこの世界には入れる、そういう漫画家である。 続きを読む投稿日:2014.11.03
-
とりかえ風花伝 1巻
柳原望 / LaLa
「お伽もよう綾にしき」と対比すると面白い
4
「高杉さんちのおべんとう」で人気の柳原望が角川移籍前に書いていた作品。
戦国初期を扱った少女漫画は珍しいのではないだろうか?
あらすじを書くと、、、
戦国初期、尾張乾山城主の娘・風花は隣の宇留摩と…の戦に出た父を助けるべく、「戦に味方したものは必ず勝つ」と言われる白鬼丸を探しに出る。噂では「耳まで裂けた口で」などと伝えられていた白鬼丸は白髪赤眼ではあったが若く美しい若者であった。白鬼丸は助けを求めた風花の申し出を断るが、もみ合う拍子に崖から転落すると風花と白鬼丸の体が入れ替わってしまい、、、
と言う話。
時代背景は「お伽もよう綾にしき」に細川政元の名前が出ていることから考えてほぼ同じと考えて良いと思う。
違いは「お伽もよう」が国も人物も戦国初期という以外ほぼ架空で、メインとなっているのも修験道・法力を中心としたファンタジー・アクションであるのに対し、「とりかえ」が史実5割フィクション5割になっている点。2つを対比して読むと面白いと思う。
好き嫌いはあるであろうが、作品の作り方にはやはり「お伽もよう」に一日の長があるように思える。大きく異なる点はおおざっぱに戦国という史実を入れているほかはほぼ自由な設定の「お伽もよう」に対し、史実に引っ張られてやや身動きが取れなくなった部分がある、やや消化し切れていない「とりかえ」という感じがする。
そのせいなのか、本作はLaLaDX連載中に打ち切り(多分)となっている。もっとも作品の出来は「お伽もよう」と比べて「若干落ちるかな、少し読みにくいかな」と思わせるものの、十分楽しめる出来なので買って損は無い。
点数は「お伽もよう」に★5をつけるとやむを得ず、で★4とした(もしあれば4.5としたい)。
本作はLaLaDXで打ち切りの後、同人誌で完結編が書かれている。完結編もReaderで配信されているのでそちらも合せて読むとよい。 続きを読む投稿日:2014.11.03
-
ONE OUTS 1
甲斐谷忍 / ビジネスジャンプ
LIAR GAMEの原型
3
「ソムリエ」でメジャーデビューした甲斐谷忍が初めて一人で書いた作品。
この作品から「騙し」を主体とした作風になっている。体力では無く知力を使って以下に野球に勝つかで心理的な駆け引きが非常に面白く出来て…いる。作者曰く「『野球版』アカギ」とのことだが、アカギよりも面白いと思う。 続きを読む投稿日:2013.09.26
-
OZ 完全収録版 1巻
樹なつみ / LaLa
一面の麦畑
3
「マルチェロ物語」「朱鷺色三角」「八雲立つ」などの樹なつみが描いた近未来SF。
簡単なあらすじは、、、
偶発的に起こった核戦争の30年後。世界は小国家に分裂し、互いに紛争を繰り返していた。叔父を訪ね…てきた天才少女フェリシアの護衛を依頼された傭兵ムトーは既に死んでいたフェリシアの叔父の手紙とそこに残されていたサイバノイド1019の存在から伝説とされていた科学実験施設OZの実在を知る。覚醒した1019はフェリシアの兄リオンからOZへ招待するメッセージを伝え、ムトーはそれに巻き込まれてOZまで護衛することになったが、、、
作品を最後まで繋ぐキーワードは「一面の麦畑」である。ネタバレになるので詳細は避けるが、最後まで読んだ人はその意味が分かると思う。
本作は言うまでも無いが「オズの魔法使い」を題材に取っている。フェリシアがドロシー、臆病なライオンがムトー、心のないブリキの木こりが1019と役どころが振り分けられるが、脳みそのない案山子のパートがいない。
著者の後書きには番外編に出てくるイリョーシュカにその役を振るはずだったが、ストーリー構成の都合でついに本編には登場していない、、、が、むしろこの役はOZへの道をともにする傭兵ネイト、またはバイオノイドの1024に与えられるべきでは無いかと思う。
特にラストに絡む部分なので詳細は避けるがまだ脳を得ていないかかしが1024とするとすっきり繋がるような気がする。
全体を通してストーリーががっちりしており、骨太のSF作品。著者の作品では「八雲立つ」とならんで是非お薦めしたい漫画である。 続きを読む投稿日:2014.11.04
-
チェーザレ(1) 破壊の創造者
惣領冬実, 原基晶 / モーニング
完結するかどうかが唯一の不安
3
モーニング連載中のルネサンス期の僭主チェーザレ・ボルジアを架空の登場人物アンジェド・ダ・カノッサの視点で描いた物語。惣領冬実の圧倒的な画力と緻密な構成で描かれている。これだけの内容と書き込みなのでやむ…を得ないとは思うが、連載が全く不定期なので完結するかどうかが唯一の不安である。 続きを読む
投稿日:2013.09.25
-
ライジング!(1)
藤田和子, 氷室冴子 / Sho-Comi
演劇漫画の名作
3
宝塚をモデルとした「宮苑音楽学校~歌劇団」を舞台に主人公「仁科祐紀」が本物の舞台女優へと成長していく話。
「エースを狙え」などの鬼コーチ+教え子のテンプレートに従った古典的なスポ根少女漫画(スポー…ツではないが)の系譜に位置づけて良いと思う。圧巻なのは祐紀が宮苑を離れて自分の力で役を掴んだ「メリィ・ティナ」の稽古シーン。役を降ろされそうになってからの祐紀の巻き返しが説得力のある展開で語られる。
原作の氷室冴子は当時「クララ白書」でようやく売れ始めたばかりの時期だったが、本作のために宝塚に移住し、小説家であることを隠して宝塚のファンクラブに入り準幹部にまでなったとか、本作の劇中劇のためにすべて脚本を作ったなど逸話も多い作品である。
絵柄も話もやや古さを感じるものでは有るが、一読の価値あり。 続きを読む投稿日:2014.06.24