【感想】シャーロック・ホームズの復活【深町眞理子訳】

アーサー・コナン・ドイル, 深町眞理子 / 東京創元社
(9件のレビュー)

総合評価:

平均 4.4
3
5
0
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  • 名探偵の全盛期!冴え渡る第三短編集

    ファンの熱烈な期待に応え、名探偵とその相棒がベーカー街に帰ってきた!
    まだ一度もホームズ譚を読まれたことのない方に、シリーズから一冊だけお薦めするとしたら、私はこの作品集を選びます。シリーズのアイコンともいうべき暗号ミステリの古典「踊る人形」をはじめ、多くの傑作が収録されています。

    (1)ホームズの魅力が満載
    初期の作品では、大都市ロンドンに蠢く社会の闇と、それに挑戦する名探偵という構図が印象的でした。
    しかし、シリーズが確立した今作では、作者はもっと自由に、ホームズと相棒のワトソン、レストレード警部といったキャラクターを使って遊んでいます。セルフパロディや名台詞、ついには行き詰まって泥棒となるホームズなどサービスも満載。ホームズの魅力が最大限に楽しめる作品集です。

    (2)遊び心溢れる「建築業者」
    私のイチオシは、第2篇「ノーウッドの建築業者」です。
    そもそも英国紳士というものは、慇懃で禁欲的な振る舞いを誇りとするくせに、ときにとんでもないイタズラを繰り出してはニヤニヤ笑うという二面性があります。ホームズもこの悪癖を有しており、特に悪ふざけが過ぎるのが、本篇のラウンジ・シーン(関係者を集めて種明かしをする場面)です。
    ここでの依頼人は事務弁護士(solicitor)のマクファーレン氏。『吸血鬼ドラキュラ』のジョナサン・ハーカーよろしく、彼も奇妙な依頼人の館における文書作成業務により、絶体絶命の窮地に陥ります。ドラキュラと異なるのは、恐るべき完全犯罪が、最後は名探偵の茶目っ気により、ずっこけ喜劇で終わること。「すでに完成している作品に、さらに一筆、描き加えようとした」とは、この作品集にも向けられた作者の皮肉かもしれません。
    事件の発端が、振られた恨みというのも良いですね。おっと、残りは読んでのお楽しみです。

    (3)階級社会と探偵コンビ
    ホームズは公務員ではなく、私的に依頼を受けて行動する民間諮問探偵です。階級社会の英国でこの職業が成り立つのは、相棒のワトソン共々、紳士階級に属しているからだそうです。警察官のレストレードやホプキンス、一般巡査などでは、「プライアリー・スクール」に登場する公爵のような貴人とは、まともに話すことは許されず、秘密を聞き出すことなどできないとか。紳士であるホームズやワトソンだからこそ、遠慮なく踏み込んで捜査ができる(ついでに高額の小切手もいただく)わけです。このあたりの事情も意識して読むと、単なる謎解きを越えて、より深く楽しむことができます。
    女性という観点からは「ひとりきりの自転車乗り」と「第二の血痕」をお薦めします。自立した職業婦人の受難と、亭主の仕事と愛を天秤にかけたばかりに、欧州を戦争の危機に陥れる貴婦人のうっかりぶりを読み比べてみてください。なんだか現代の日本にも響き合うところがありそうです。

    (4)事件の解決が報酬です
    ホームズの粋なはからいで、事件が真相の暴露や真犯人の逮捕とは異なる解決を迎えることもあります。本作ではたとえば「アビー荘園」。単に真実を見つけるだけでなく、人情をふまえた優れた解決策まで提示できる。変わり者であっても、決して、専門バカではないのです。これこそが、ホームズが名探偵の中の名探偵となれた秘訣ではないでしょうか。
    読むたびに発見のある名作、ぜひ手にとってみてください。
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    投稿日:2017.06.09

ブクログレビュー

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  • 辺土名小次郎

    辺土名小次郎

    名探偵ホームズが宿敵モリアーティー教授とともに〈ライヘンバッハの滝〉に消えた「最後の事件」から3年。
    ロンドンで発生した青年貴族の奇怪な殺害事件をひとりわびしく推理していたワトスンに、奇跡のような出来事が・・・。
    名探偵の鮮烈な復活に世界が驚喜した「空屋の冒険」を始めとして、ポオの「黄金虫」と並ぶ暗号ミステリの至宝「踊る人形」、奇妙な押し込み強盗事件の謎が鮮やかに解かれる「六つのナポレオン像」など、珠玉の13編を収録する、シリーズ第3短編集。
    解題 戸川安宣
    解説 巽昌章
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    投稿日:2023.10.13

  • りゅうちゃん

    りゅうちゃん

    シャーロックホームズの第3短編集。前作の最後 滝に落ちて死んだと思われたホームズの生還から始まる「空屋の冒険」。ホームズとワトソンの掛け合いが微笑ましい。「踊る人形」が有名だが、僕的には「ひとりきりの自転車乗り」「アビー荘園」「第2の血痕」が読後感がいい。ホームズって人情味もある。
    ドイルのストーリーの面白さに感服する。
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    投稿日:2023.03.04

  • カイ

    カイ

    若干マンネリ化しつつもやはり面白い。

    空家の冒険
    ノーウッドの建築業者
    踊る人形
    ひとりきりの自転車乗り
    プライアリー・スクール
    ブラック・ピーター
    恐喝王ミルヴァ―トン
    六つのナポレオン像
    三人の学生
    金縁の鼻眼鏡
    スリークォーターの失踪
    アビー荘園
    第二の血痕

    個人的にナポレオンのが好き。
    褒められて照れるホームズが可愛い。
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    投稿日:2017.09.05

  • 銀星号

    銀星号

    ライヘンバッハの滝へと消えたホームズ。読者からの強い希望を受けて「バスカヴィル家の犬」で復活したホームズだったが、それは、ホームズが消える前の事件であった。
    が、本書では正真正銘ホームズが復活する!
    当時、駅の売店の本棚は、バーゲンセールの会場よりも凄まじいものだったという。それほどまでに渇望されていた短編を編んだ集成。
    ホームズが単独で事件の捜査を終えて戻ってくるときの様子をワトスンがみて、その捜査があまりはかどっていないようだ、という場面が初期短編集に比べて多いような気がする。
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    投稿日:2016.12.13

  • yumo

    yumo

    もう会えなくなっちゃうと思ってたホームズに再会できただけで大満足。
    名作は名作だなって改めて思わされた。

    投稿日:2014.10.01

  • りいこ

    りいこ

    創元の深町版新訳。
    安定の深町版という感じ。なんだかここ数ヶ月ずっとホームズ熱が微熱みたく続いていて新刊が出ていたことに気づいて買って早速読んだ。帰還で生還で復活。つまり、帰ったきたシャーロック・ホームズ。
    帰還、じゃなくて復活のなかで好きなのは六つのナポレオンかな。青い石榴石的で単純だけど昔から好き。あとプライアリースクールと三人の学生も。いや、第二の血痕もやっぱり好き。というかどれも嫌いじゃない。でも、踊る人形は名探偵のジレンマ的にちょっと苦手意識が昔からある。ポーの黄金虫が宝探しの冒険でひたひたと不気味な雰囲気を漂わせつつわくわくさせるのに対してこっちは一見親しみやすそうな人形の絵に隠されたおどろおどろしさが結局死人を出すし不吉で仕方ない。でもポーの素っ気ない上に解りにくい記号版よりこっちの踊る人形のほうが内容はともかく見栄えはいい。かな。あしながおじさんの挿し絵に似てるし。かなり違うけど…。
    なんにせよ、ホームズはやっぱり最高。どんな欠点があっても減点不可で☆五つ!
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    投稿日:2012.10.15

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