【感想】相剋の森

熊谷達也 / 集英社文庫
(38件のレビュー)

総合評価:

平均 3.9
9
15
11
0
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  • 相克しているのは、果たして何と何なのでしょうか?

     自然保護、環境保護という言葉が錦の御旗のように扱われて久しいわけでありますが、難しい問題ですね。自然との共生を謳って開催されたのが2005年の愛知万博。でもやはり結論が出るはずもありません。クマ狩りとクマの保護を通して、この問題を改めて考えさせられました。
     「山を半分殺すかわりに己も半分殺す、すなわち己の欲も半分殺す。」この言葉の意味は重いものがあります。マタギ達がクマを撃った後、やったーと大喜びなどせず、どこか切なげに見えたと描写されていますが、これがすべてを物語っている気がします。また、マタギ達はクマを擬人化し、自分と同列の存在としているというのも興味深いものがありました。単に可愛そうだから、というのでは的外れですね。これは、イルカ漁やクジラ漁にも通じるモノかもしれません。イギリスの貴族達の行うキツネ狩りとは一線を画するものでしょう。彼らは供養なんてしないんじゃないかな?
     一方、物語の展開とは直接関係はありませんが、己のルーツについて、日本人の普通の家庭では、親から聞くのは、せいぜい祖父や祖母のことまでとなっていることについて、かの大戦が大きく影響しているとの指摘は、至極納得の出来るモノでした。
     ただ、マタギ三部作の第一作目にあたる作品ではありますが、小説としては、少々もどかしいものがあります。妙な男女関係や夫婦の話を入れ込みすぎのような気がします。また怪しげな自然保護団体も、結局怪しくなかったでは、ちょっと消化不良です。
     とは言え、ラスト近くのクマ狩りのシーンは、著者の面目躍如。ここの描写はスゴイですよ。読者自身が一緒に野山を駆け巡っている気になります。流石は「邂逅の森」の熊谷達也なのであります。私はこちらを先に読んでしまいましたからね。でも、問題の提起という点では、まさに「相克」を扱ったこちらの作品が上だと思います。
    続きを読む

    投稿日:2015.09.20

  • マタギと言う職業あるいは性を通して語りかける熊谷氏の生命への哀歌:邂逅の森よりも良いかも。

    本書『相剋の森』が『邂逅の森』よりも先に書かれたものとは知らずに読んだ。何故、この時代になってまでクマ猟をして熊肉を食べる必要があるのかという、もっともな疑問に対して、マタギ文化に並々ならぬ思い入れのある筆者の答えは明確だった 。“山は半分殺(の)してちょうどよい”。人間を含めて生物が生命を繋ぐ行為は、他の生命の殺生と同一である。何処の家の食卓でも食塩以外は、生命の塊を食べていると言える。絶滅危惧種への対応は重要だが、うわべだけの動物愛護主義だけは慎みたいと思う。邂逅の森と併せて多くの方に本書を読んでもらいたい。続きを読む

    投稿日:2017.04.16

ブクログレビュー

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  • ayumium

    ayumium

    このレビューはネタバレを含みます

    邂逅の森に引き続きこちらも重量感ある内容でした。
    そしてやはり、登場人物の男性陣が魅力的。
    滲み出る哀愁と存在の重量感(?)がなんか渋いわー

    今回は女性ライターの立場から見れたので、読者としても狩猟と動物保護の葛藤など同じ立場から考えることができ興味深かかったです。
    そしてライターの取材、写真て壮絶すぎる、なんとなくナショナルジオグラフィーなど思い出した。
    記事読む時はきちんと向き合って読もうと思います。

    ただ邂逅の森の富次の曾孫のくだり、、、必要だったのかな。。?と疑問が残った。

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    投稿日:2023.06.21

  • Kohei

    Kohei

    邂逅の森に引き続き、この作品もとても良かった。
    生命と向き合ってはじめて感じ取れる世界があるのだとあらためて気付かされる。間接的な体験ではあるが、自分の視野を拡げてくれた。

    投稿日:2022.12.29

  • よし

    よし

    マタギというのを初めて知ったし、登山経験もほとんどないので、どれだけ理解できてるかというのはあるが、興味深く読んだ。「山は半分殺してちょうどいい」という言葉はパンチラインだと感じる。伝統的な熊狩りと野生動物との共生・保護に関して読みながら学んでいった。続きを読む

    投稿日:2022.06.03

  • ありんこゆういち

    ありんこゆういち

    内容
    「山は半分殺してちょうどいい―」現代の狩人であるマタギを取材していた編集者・美佐子は動物写真家の吉本から教えられたその言葉に衝撃を受ける。山を殺すとは何を意味するのか?人間はなぜ他の生き物を殺すのか?果たして自然との真の共生とは可能なのか―続きを読む

    投稿日:2019.07.09

  • rokosan

    rokosan

    読みたいのに、美佐子がどうしても好きになれずに進まなかった。でも、美佐子と一緒に学んでいった。理屈じゃない。この文を読んで理解する話じゃない。一冊読む中で、一緒に理解していけるものなのだと思う。良書だった続きを読む

    投稿日:2019.01.22

  • mimi

    mimi

    邂逅の森から読んでしまったが、こちらがマタギ3部作の1つ目。

    時代は現代に移り、現代ならではの問題が主題。記者である美佐子の取材シーンや、山のシーンはたっぷりとしていて満足。ただ、女性の書き込みは浅いよね、と女性として思う。

    なんにせよ、面白かった。マタギの郷にいきたいという欲が、また強くなった。
    続きを読む

    投稿日:2018.01.22

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