
総合評価
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powered by ブクログ角居元調教師の活動は知ってはいたが、ただそれだけだった。今後はもっと積極的に関わっていけたらと感じた。
0投稿日: 2025.08.28
powered by ブクログ著者がこの本を書くきっかけになったラッキーハンターという引退競走馬との出会いから始まる。 その来し方が時系列を追って語られていくが、今は幸せになっていると分かっていても、彼の行く末を案じてこちらはハラハラドキドキ。 冒頭からぐっと読者の心を捕らえる、巧い掴み。 その後、著者が精力的な取材を通して馬に関する知識を急速に吸収し、また彼らを取り巻く境遇に思いを寄せて意識の段階で変革を遂げていく様が等身大の目線で綴られ、"引退競走馬をめぐる旅"というサブタイトルの通り、まさしく追体験しているかのよう。 取材対象者についても、馬たちの命を守らんと奮闘する人たちの活動が子細に、そして温かい眼差しでリポートされているので、読者が共感を抱きやすいと言えよう。 宮田朋典さんがディープインパクト産駒三兄弟のリトレーニングに取り組む軌跡は、紛れもなく前半のクライマックス。 後半でも、地道な取材に基づく興味深いトピックスの数々が、それらに携わる人たちのキャラクターとともに紹介されているが、雑誌連載をまとめたものなので詮無いこととは知りながら、構成的には一本調子でややまとまりに欠けたかなという印象がある。 通読して強く心に残るのは、競走馬がいかに特殊な環境で生きることを強いられているか、ということ。 改めて、競馬というものはなんと重い"原罪"を持っているのか…と鬱々とする。 犬や猫の保護活動に携わっている人たちの口から、"蛇口を止めないときりがない"という言葉をしばしば聞く。 経済的な観点において、既に一定のポジションを占めている競馬を今すぐなくすことは、著者も本書の中で指摘しているように不可能だが、愚かな人間なりに長いスパンでなすべきことを考えていくことはできる。 引退競走馬の行方について真剣に苦悩し、行動に移す人たちが少なくないことを知ることができたのは、非常に嬉しかった。 特に、富裕層でない一般的な会社員ながら、地方競馬で複数の馬を所有してきた林由真さんには心より敬服する。 四肢の骨折等を発症した馬を"予後不良"と言い、即座に安楽死処分としているこの業界の慣習に対しては、私も以前より疑念を抱いていたのだが、林さんのピュアな想いと熱意によって、やはり救える命はあるのだということが証明されたのはとりわけ印象的だ。 仮に競走馬として"死んだ"のであっても、走らなくていい世界で生きていけるのであれば、その環境を整えることは彼らを生み出した者たちの責務ではないのか。 ラッキーハンターは幸運にも恵まれたセカンドライフを送りつつあるが、世の中には"ラッキーハンターになれなかった"馬たちがたくさんいる。 そこに気付かせてくれる価値ある一冊だ。
0投稿日: 2025.06.17
powered by ブクログ馬に関わり始めて、4年経った。馬を知れば知るほど知りたいことが増えて来た頃この本と出会った。中途半端な知識だけの私には驚きの連続。何度も読み直して心に刻みたい本❤️
0投稿日: 2025.04.25
powered by ブクログ知ってしまった。 が、第一印象かな。 思いたって乗馬を始めて5年。 通っている牧場にアスール アステラというかの有名なディープの息子が、セラピーホースとして居るのです。 もちろん競馬に何の興味もなかった私でも知っているけど? セラピーホース?って?でも、ナーンにも知らなくても可愛い〜。 他にも競馬界から来たお馬さんが、4頭。でも特に何故?とは思わなかった。 でも、知ってしまったんです。 この本で。 沢山の競馬馬が毎年居ることを。 そして一体何処に行ってしまうのか? 命あるもの。近くに居ると圧倒的な存在感なのに。 出来る事は、少ないけど知識がある事で守って行けたら素晴らしいと思うのです。 色々な、選択肢が増えていくと出来る事も増えるかなと思っています。 そんな事を考える本でした。
0投稿日: 2025.04.08
powered by ブクログ競馬を好きになった頃なりたかった馬主。 今ならいけるかも。 馬のいる生活、遠出できなくなってしまうけど、それもいいよなぁ
1投稿日: 2025.03.18
powered by ブクログ最近競馬を始めたので競走馬について詳しく知りたくなり、何か面白そうな本はないかと探していたところこの本が目に入った。 タイトルを見た瞬間「そういえば競走馬って引退した後どのような生活を送るのだろう…」と疑問が浮かんだ。有名な馬はのびのびと余生を送っている様子をSNSの投稿などで知ることができるが、本書を読んだところ、すべての引退馬がそのような安泰な生活を送れるわけではないらしい。 引退後も厳しい競争下におかれる競走馬達の境遇を知り、彼らの余生を守れるように、私も微力ながら支援をしていきたい。
1投稿日: 2025.02.02
powered by ブクログ競走馬が怪我をしたり活躍できなくて引退した後どうなるのか、この本を読むまできっと牧場で余生を送っているとばかり思っていた私は、そのほとんどが行方不明という事実にショックを受けた。 競走馬として生きていた馬が新たな道を歩む為に必要な事は何かを考え行動する人達に感銘を受け支援の輪が広がっていく。そして国の支援にまで発展していく。
7投稿日: 2025.02.01
powered by ブクログ最近までブラックボックスだったことに驚いた、探せば他にも闇な業界はあるんだろうな…. ゲームからの活路って、ゲーム制作秘話からすると、バタフライエフェクトみたいな話になりそう。
0投稿日: 2025.01.21
powered by ブクログこのレビューはネタバレを含みます。
ダ・ヴィンチで紹介されていたのをきっかけに。 競走馬のうち、引退後も種牡馬などとして競馬業界に残れるのは僅かで、多くは「行方不明」になっているという現状があった。このことは国際的にも問題となっており、近年、引退競走馬が活躍できるセカンドキャリアを整備していこうという活動が拡大してきている。確かに、最近はJRAのCMなどでも、競馬以外の色々な馬事文化を紹介しているのを見かける。 セカンドキャリアとして色々な道があり得るのだろうが、本書ではセラピーホースに重点を置いて紹介されている。支援が必要な子供などに、馬との触れ合いの機会を提供する事業。犬や猫などとは違う、馬ならではの効果があるという。 馬の飼育には多くのお金がかかるため、馬自らが稼げる仕組みを作らないといけないという。私は乗馬クラブのような場所がセカンドキャリアとして真っ先に浮かんだが、そこにも既に馬がいるので、既存の馬を追い出すような形になってしまい、あまりよい”転職先”ではないとのこと。 セラピーホースであれ乗馬クラブであれ、競走馬が転身するためには、そのためのトレーニングをし直さなければいけないらしい。どちらも人を乗せて歩く(走る)のだから同じようなものだと考えてしまうが、求められるものが全く異なるとのこと。F1レーシングカーを乗用車に改造するようなもの、という喩えが分かりやすかった。このリトレーニングも、ノウハウの蓄積段階にあるようだ。 日本の競馬業界に関する記載も良かった。日本の競馬は国際的にも類を見ないほど大規模らしく、経済的影響は競馬会のみならず日本の農業全体に波及しているとのこと。(たとえば農水省の予算の一部はJRA経由らしい。)馬の福祉を考えるうえで、そもそも競馬などやめてしまえばいいというのは一つの主張としてあり得るが、現状を見ると現実的ではないというようなことが書かれていた。 全体として非常に興味深く読んだが、不満な点が1つ…。引退競走馬の行く先を「行方不明」と書き、それ以上はあまり踏み込んでいないところが少しモヤモヤした。 勝手な想像だが、たぶん、引退競走馬の多数派は食肉になっているのではなかろうか。本書にも引退競走馬を食肉用に肥育する業者が登場するが、全体として競走馬が肉になっているという記載は「匂わせ」程度にとどまるし、量的な議論はされていない。このあたりのバッシングに関する記載もあったので繊細な話題ではあるのだろうが、しかし、真正面から書いてほしかったという気はする。競走馬を食肉に転用するということのそもそもの是非についてとか、議論のポイントは多くあるような気がする。 本書の中で、能登にある厩舎が紹介されていた。本書の刊行は2023年の年末。災害の影響はどうだったのだろうか・・・
1投稿日: 2025.01.19
powered by ブクログこのレビューはネタバレを含みます。
引退競走馬を取り巻く現状や支援活動についてわかりやすくまとめられた一冊。毎年引退する約六千頭の馬の多くが行方不明になっている、というのは読んで衝撃を受けましたが、様々な形で馬のセカンドキャリアを繋ごうと支援されている方々の姿が丁寧に書かれており、とても前向きな気持ちで最後まで読めました。 個人的に馬と関わり始めてまだ日は浅いものの、馬にたくさん癒してもらったと思っているので、著者の馬への思いには共感する部分も多く、今後も自分にできる形で関わり続けられたらいいな、と思いました。
0投稿日: 2024.12.01
powered by ブクログ『優駿』に毎号紹介されており、気になったので読んでみました 映画『今日もどこかで馬は生まれる』が問題提起メインの作品とすれば、本書は問題解決の糸口になる活動の紹介が中心です 今年から競馬を見始めた者なので引退競走馬事業のことは多少知っていましたが、本書が執筆、刊行された当時はまだまだメジャーでは(もちろん今も大多数の人は知らないでしょうが)なかったんだろうなと感じました 著者が取材した活動内容がわかりやすく書かれていて読みやすい反面、文体が平易すぎて大学生の課題レポートのような印象を受けるのが残念かも 競馬に楽しみを与えてもらった者として、これからは少しでも引退競走馬の力になることができればと思います
0投稿日: 2024.11.13
powered by ブクログ【感想】 日本で競馬熱が高まっている。コロナによるネット馬券の普及と某ゲームアプリのブームにより、JRAの事業収入は右肩上がりで、2023年は3兆3000億円弱を売り上げ12年連続の増加となっている。それと呼応するように、サラブレッドの生産頭数は年々増え続け、9年連続で増加している。 しかし、多くの競走馬が5歳前後で引退を迎える一方で、サラブレッドの寿命は25〜30年だ。つまり引退してから20年以上は「普通の馬」として過ごさなければならないのだが、当然乗馬クラブや牧場といった再就職先には限りがあるため、約85%が殺処分されていると言われている。 本書『セカンドキャリア 引退競走馬をめぐる旅』は、レースから引退し第二の馬生を模索する競走馬にスポットを当てた一冊だ。殺処分以外の道――セラピーホースや牧場でのセカンドキャリアを送る馬たちの様子と、それに携わり馬を次の道に「つなぐ」人々のプロジェクトを紹介していく。 私が本書を読んだ中で面白いと思ったのは、馬によるアニマルセラピーについての記述だ。競走馬のセカンドキャリアのひとつとして、ハンディキャップのある子どもたちの支援プログラムで活躍する「セラピーホース」がある。ただ、アニマルセラピーの筆頭といえば犬だが、なぜ犬よりも扱いが難しく費用も高額な馬でセラピーを行うのか。 ポイントは、馬が「あまりにも大きい」ということである。馬は、力ずくでは動かすことができない動物だ。一緒に歩いたり、乗ったりするためには、馬の欲求や気持ちを理解しなければならないが、そのためには同時に自分自身の心理を理解する必要がある。 ドッグセラピーやキャットセラピーと決定的に異なるのは、この「馬と人間の立場」の差だ。犬や猫を可愛がるときは、人間が上の立場だ。撫でたり抱きしめたりしたくなったら、犬猫の気分は関係なく、体格差で意のままにすることができる。しかし馬はそうはいかない。まず馬の気分を良くしてあげなければ、人間はどうすることもできない。 ホースセラピーの専門家曰く、人と馬の基本的な欲求は概ね相反しているそうだ。人が「乗りたい」「動かしたい」と考える一方で、「できればここから動きたくない」「ここで草を食べていたい」という思いを抱くのが馬という動物らしい。だから、一緒に歩いたり、乗ったりするためには、馬を気遣いつつ、人間側の気持ちやしてもらいたいことを伝えていかなければならない。このやりとりを通じて、馬と心を通わせるための「思いやり」をギブする精神を身に着けることができるのだ。 馬と人との間には、人間同士のコミュニケーションにも共通する「心の引っ張り合い」が存在する。それを学ぶことができる動物は、馬だけなのだ。 ――「妥協というのは、自分を譲って相手に合わせる意味合いが強いです。人と馬の良好な関係を表現するのであれば“折り合いをつける”がふさわしいと思います。この過程でもっとも重要なのは、相手と一致するポイントを探っていくことで、これは動物のなかで馬にしかできないことです」 ―――――――――――――――――――――――――――― 【まとめ】 1 セラピーホースとしてのセカンドキャリア 競馬業界では毎年約7,000頭のサラブレッドが生産され、一方で約6,000頭が引退しているが、引退馬の多くは行方不明になっているのが現状だ。 多くの引退競走馬の去就が不透明な一方で、彼らを支援するプロジェクトによって、すでに複数の馬たちが適性に応じたセカンドキャリア、つまり第二の馬生をおくっている。彼らの再就職をあっせんする施設は「TCCセラピーパーク」という。セラピーパークは滋賀県栗東市にあり、日本初の引退競走馬専用シェルターを有している。JRAに所属する調教師や騎手、乗馬クラブのオーナーなど、馬業界の人々と連携しながら実績を重ねているという。 「競馬の世界では、2歳から3歳と若くして引退するケースがめずらしくありません。しかも馬の寿命は、30年以上とかなり長い。引退競走馬支援には、長期的なマネジメントが必要です」TCC Japan代表の山本高之さんはそう語る。 馬の飼育はとにかくお金がかかる。犬や猫などの愛玩動物のように、個人が一生丸ごと責任を持つことはほぼ不可能だ。そこで重要になるのがセカンドキャリア、つまり馬自身が稼げる場所を確保する仕組みだ。乗馬クラブや観光牧場のほか、セラピーホースを必要とする医療・福祉施設、神事などの伝統行事を運営する組織など全国約30か所と提携を結び、専用シェルターで休養やケアをした馬たちをそれぞれの個性や心身の状態にマッチしたセカンドキャリアにつないでいる。馬の所有権はTCC Japanにあり、終生繋養が前提だ。TCC Japanの主な事業内容は、ホースセラピーを取り入れた児童福祉サービスPONY KIDSの運営で、収益のメインになっている。 ラッキーハンターは、8歳(2019年当時)のセン馬(去勢手術済の牡)で、かつてJRAが開催するレースで走っていた元競走馬だ。現在の本業は、ハンディキャップのある子どもたちの支援プログラムで活躍するセラピーホースである。 ラッキーハンターは、現役時代から競走馬にしては珍しいぐらいのおおらかな馬だった。愛嬌があり、馬を見慣れた競馬関係者でさえ驚くほどの愛されオーラを放っていたという。ただし、そのせいか明らかにレース向きの性格ではなく、3歳馬になってからも勝利をあげることはできず、中央競馬の登録抹消が決定した。その後地方競馬に登録され2勝をあげるも、成績が低迷し続け引退。調教助手の林さんがTCCに連絡を取り、TCC Japan専属の馬として登録され、セラピーホースの訓練を積み今に至る。 TCCセラピーパークでは、ホースセラピーを取り入れた児童発達支援事業をおこなっている。実施しているのは、3歳から6歳の未就学児童を対象にした「児童発達支援」と、6歳から18歳が対象の「放課後等デイサービス」で、これらは厚生労働省の補助対象に当たる福祉サービスだ。 ホースセラピーのプログラムは、馬房の掃除や馬のブラシがけ、牧場の整備、馬と一緒に散歩をする引き馬、乗馬の後にお礼やねぎらいの気持ちを伝える、水やおやつをあげるなど、前後の世話やコミュニケーションを含めてトータル1時間で構成されていて、すべての要素に重要な意味があるという。 ホースセラピーはアニマルセラピーの一部門だが、なかでも「療法」「活動」「教育」の3つの要素をカバーできるのは馬だけだといわれる。犬や猫などの愛玩動物によるセラピーは、心理面や情緒面への影響がメインになるが、馬は騎乗という要素がプラスされるため、身体的な影響や効果がとても高いのだ。 PONY KIDS事業部の責任者で理学療法士の山本さんは言う。「発達障害のある子どもたちは、人との関係を築くことが難しいケースが多いです。そのため動物を大切にしたり世話をしてあげることで、相手を思いやったり、誰かの役に立つ経験を重ねることが重要です。ホースセラピーが適しているのは、馬が大動物であることも大切な要素になっています」「それは、乗ったら簡単には下りられないところです。ここに通う子は集中することが苦手なケースが多く、もちろん無理強いはしませんが、馬は常に適度な刺激があるので多くの子は鞍に座ると落ち着きます。座ってコミュニケーションを取ること、じっと座っていることなど、新しい経験が結果的に人から褒められることにつながります」 2 広がり始めた支援 角居勝彦さんは、栗東トレーニングセンターに厩舎を持つJRA調教師(2020年1月当時)であると同時に、引退競走馬支援組織の一般財団法人「ホースコミュニティ」代表理事を務めている。一流調教士でありながら、引退競走馬支援の必要性について声を上げた人物だ。 農林水産省では『馬産地をめぐる情勢』という統計資料を毎年公表している。これによると「引退」の定義は、中央競馬や地方競馬で登録抹消することであり、令和5年6月版の総数は約1万800頭。そのなかには中央競馬から地方競馬へ再登録する馬、その逆で中央競馬に再登録するケースもあり、総数は約3,800頭になる。さらに病気やレース中の怪我や事故で死亡した約1,000頭を除いた約6,000頭が、事実上の引退競走馬になる。彼らの進路は乗馬、繁殖、研究馬、その他に分類されるが、その後のキャリアや所在を記録する仕組みはない。 つまりこの国の競走馬関連の統計は、登録抹消直後までしか存在しないのだ。引退競走馬の問題について、競馬界の最大組織であるJRAの責任は大きい。角居さんは調教師として実績を重ねるとともに、組織として馬の福祉を考える必要性について質問や提言をしたこともあった。だが2010年当時、JRAの反応は芳しくなかった。 角居さんが考えたのは、競馬業界の内側から引退競走馬の存在や魅力について発信することの重要性だった。特に注目したのは、サポートが必要な子どもたちの支援プログラムで活躍するセラピーホースの存在だ。引退競走馬のセカンドキャリアは、従来は乗用馬への転用くらいしかなかっただけに、これからの社会で広く求められる仕事として大きな可能性を感じたのだ。 そうして201年12月、角居さんは一般財団法人ホースコミュニティを設立した。レースでは勝てなかったサラブレッドたちが、セカンドキャリアでは福祉や医療の現場でセラピーホースとして活躍する――引退競走馬を支援する新しい仕組みがつくられようとしていた。現事務局長の矢野さんと当時事務局長として働いていた山本さんは、全国各地でホースセラピーを実施している組織を対象にリサーチ作業を行った。馬自身が稼げる環境づくりが不可欠と考えたからだ。 このリサーチをきっかけに、ホースコミュニティとTCC Japanは複数の乗馬クラブや牧場と連携する体制をつくっていった。さらに山本さんが考えたのが、引退競走馬と全国の馬好きをつなぐ支援コミュニティ事業「TCC FANS」(のちの、「TCC引退競走馬ファンクラブ」)だった。これは引退競走馬を支援する方法について情報発信しながら会員を募り、一口馬主制度などで、誰でも気軽に馬たちをサポートできる仕組みだ。一口馬主制度で預託料を確保した馬たちは、終生繋養を前提とし所有権はTCCのまま、連携する乗馬クラブや牧場でセカンドキャリアを歩む。こうすれば、やがて高齢で働くことが難しくなっても生涯を支えていくことができる。支援する会員は、全国各地で暮らす馬たちのもとに出かけていき、触れ合いや乗馬などができるという内容だ。 転機は2016年から2017年に訪れた。長年放置され続けてきた引退競走馬の問題について、JRAが前向きに検討し始めたのだ。きっかけはドバイ首長が国際会議の場で、馬の福祉を考慮した運営を推進するように日本に提案したからであった。 方向性が決まるとJRAの対応は早かった。2017年2月の準備委員会設立を経て、同年12月には「引退競走馬に関する検討委員会」を発足させている。JRAがまず力を入れたのは、リトレーニングの推進だった。2018年からは、賞金総額100万円で引退競走馬杯・RRC(Retired Racehorse Cup)を開催して、引退したサラブレッドが乗馬で活躍する場を広げるための新しい取り組みが始まり、大会数は年々増加している。 3 リトレーニング 引退したサラブレッドを乗用馬に転用する日本のやり方は、世界的に見てもとても珍しい。なにせF1用に作られた車を乗用車に作り変えるようなものだからだ。馬たちが心身ともに疲れを癒し、乗馬やホースセラピーの世界で必要なことを身につける必要がある。そのためには、動物福祉に即した高度なリトレーニング技術を持つ人材、トレーニング法や飼育場所、飼育費用、人件費などを確保しなければ成り立たない。 リトレーニングで最も重要と言われるのが、グラウンドワークという人と馬との信頼関係を築くコミュニケーションメソッドだ。人間に例えると、母親との関係を幼稚園からやり直すイメージである。 競走馬は早期の離乳によって、馬の社会を知らないままレースの技術を叩き込まれる。セカンドキャリアを歩むためには、まずは馬の社会を一から学び直す必要がある。それなしに馬どうしが良好な関係をつくることは難しく、馬のプロではない人間たちと、うまく関わっていくこともできない。 人間が母親の役目をするということについて、リトレーニングでは、①指示に従い一定の距離を保つ、②どのような状態であっても、母親役である人間のサインに注目してそれを理解する、③指示を受けて安全な場所に戻ってくる、④安心できる場所でリラックスする、という体験を繰り返しながら信頼関係を徐々に深めている。 リトレーニング調教士である宮田朋典さんは、次のように解説する。「引退競走馬のリトレーニングの大部分は、離乳時点に立ち返る母性的な要素のものです。引退直後のサラブレッドのなかには、驚いて走り出したらパニックが高まる一方というタイプも少なくありません。そのままの状態では、人や馬が声やボディランゲージで話しかけてもコミュニケーションは成り立たないのです」 宮田さんがリトレーニングで目指しているのは、どこにいっても幸せに生きられる馬にすることだ。特に重視しているのは、むやみに怖がらないことと、人間と信頼関係をつくること。この2点が揺るがなければ、ストレスによる病気や驚いて怪我をするリスクが格段に減る。宮田さんのリトレーニングは、馬の健康寿命を延ばすことにもつながっているのだ。 宮田「30年前、行動心理学に基づいて馬と信頼関係を築くという発想は、日本の競馬界や乗馬界ではほとんど理解されませんでした。服従させることで馬をコントロールしなければならないと考える人が多く、こうして人間の横に立つことさえ馬に許さない人もいました」 苦笑いをする宮田さんが、艶やかな馬の首筋に優しく手を添えると、馬は甘えるように少しだけ顔を傾けた。筋肉隆々の立派な体軀ながら、その姿は頼れる相手のもとですっかり安心した子馬のようにも見えた。 4 社会全体が変わり始めた 2021年のウマ娘ブームによって、引退馬(ナイスネイチャ)のバースデードネーションに5,000万円ほどの寄付金が集まったり、それがきっかけで引退馬協会の会員になる人が現れたり、セカンドキャリアを目指す馬たちを支援するための寄付金を送る人たちが生まれたりした。 また、2022年11月に、第210回国会・参議院農林水産委員会で「競馬法の一部を改正する法律案」について審議された結果、附帯決議として次の文章が付された。 引退した競走馬の多様な利活用による社会貢献等の観点からも命ある馬が可能な限り充実したセカンドキャリアを送ることができるようにすることの重要性に鑑み、こうした取組に対する競馬関係者による支援の拡充を促し、取組内容の充実が図られるよう指導すること。 つまりこのとき、競馬運営の軸となる法律に初めて引退競走馬のセカンドキャリアに関連する内容が記されたのだ。これは人間社会のなかでの活躍方法を探り、その活動を支援することが、この国の方針のひとつになったことを意味している。 そしてかつては保守的だったJRAも、大きく変化している。JRAは2017年12月に「引退競走馬に関する検討委員会」を設立して、セカンドキャリアにつながる活動奨励金を交付したり、JRA職員による現地視察や聞き取り調査を通じて42の牧場や組織を支援している。 JRA馬事部の西尾さんは、引退競走馬の問題は競馬業界全体で対応することがベストだ、という。 「今後は、中央競馬や地方競馬、生産牧場、騎手、調教師、馬主など、みんなで引退競走馬支援事業のための資金を負担する仕組みもつくる予定です」 「それはつまり、かなりの額の事業予算が確保できるということですか」 「お金はあります」 ただしそのためにはひとつ大きな問題がある。それは、現代の日本で馬について理解している人があまりに少ない、という問題だ。昭和30年に約90万頭だった馬の飼育数は減少の一途をたどり、2023年現在は7万頭ほどになっている。そのうち約7割はサラブレッドだ。 「現在の試算では、この7万頭にプラス3、4万頭分の社会的なニーズや居場所を確保できれば、引退競走馬のセカンドキャリアや余生を見守ることは可能と考えています。ただし、そのためには馬の知識を持つ人材や土地の確保が必要で、まずはそこから着手しないとこの問題は解決できません」 馬をセカンドキャリアにつなぐ際に最も難しいのは、引退直後の居場所を確保することだ。まずは、人々にリアルな馬に触れてもらう。そうすれば馬たちの余生を支援したいという発想が生まれるかもしれない。それがめぐりめぐって、社会の中で馬の居場所を増やすことにつながっていくのだ。
43投稿日: 2024.09.26
powered by ブクログ引退した競走馬の共同オーナーになった著者が、引退競走馬たちが次の場で輝けるように支えている人たちや施設を取材して歩く。 競走馬(サラブレッド)は、毎年7000頭生まれ6000頭が引退していくという。そして、そのほとんどの行く末は「行方不明」だという事に驚く。あんな大きな動物が何千頭も行方不明って…。競馬で一斉を風靡した名馬でも、種付け馬となった後は…?なのだとか。人間って何てわがままな動物なんでしょう。でも、そんな馬たちに手を差し伸べているのも、かつて競馬に関わっていた人たちであることに安心する。 著者の動物への愛が感じられた。
5投稿日: 2024.08.22
powered by ブクログ引退した競走馬とそれに携わる人たちの活動を追ったノンフィクション。 著者は動物愛護関連の著書がある作家で、競馬ファンではないが、引退した競走馬の共同オーナーになったことをきっかけに、競走馬のその後について調べるようになる。競馬業界の引退馬の現状とJRAの取り組み、JRAの角居元調教師の活動などを中心に、引退馬のその後のキャリア構築に地道に取り組む人たちの姿をインタビューや体験を通じて紹介する。引退競争馬を引き取って生涯面倒を見る馬主もいるが(それも素晴らしい事だが)、引退馬を再トレーニングして仕事を与え、人々の生活に役に立てる活動を目指す人達がいる。長年、競馬ファンを続けているが、競争馬の引退後の様々な取り組みについては知らないことが多く、いろいろ勉強になった。引退馬に関心がある人は勿論、競馬ファンにも一読する価値があると思う。
0投稿日: 2024.08.16
powered by ブクログいち競馬ファンとして知らなかったでは済まされない問題を浮き彫りにしてくれた。JRAが本気になって取り組み出していることに安心しつつも、今後も自分の目でしっかりと見過ごさないように努めていきたい。角居厩舎の素晴らしさを改めて実感。
0投稿日: 2024.08.14
powered by ブクログディープインパクトの息子3兄弟の馬達がもともと人とのコミュニケーションが取りにくく、こんな馬で大丈夫だろうか?と思っていたが、1頭1頭の個性を大事にしながら世話と調教を重ねてきたら乗れる馬になった事、競走馬を引退したら、子供を産むために残すか馬肉用に回されるかが今までは多かったがこれからはJRAも観光用の乗馬が出来る様応援体制が整ってきたことなどが書かれていました。
0投稿日: 2024.08.07
powered by ブクログ著者は本書の取材を始めるまで馬についてはほとんど知らなかったそうですが、その観点からホースセラピーなどの取材をとおして書かれた内容は共感できるものでした。 引退馬問題の変革の兆しも捉えてると思いました。
0投稿日: 2024.08.04
powered by ブクログ日本には約7万頭の馬がいるという。このうち7割が競馬に出馬するサラブレッドである。 競馬の世界では、年間7千頭が生産され、一方で6千頭が引退する。実は、この引退馬の多くが「行方不明」になっているという。ちょっとショッキングな数字だが、多くの引退馬はいったいどこへ行ってしまうのだろう。 著者はノンフィクション・ライターで、アニマルウェルフェア(動物福祉)に関心が深い。 競馬については、ギャンブルに興味がなく、漏れ伝え聞く業界の実情もあり、深入りすることはなかったのだが、あるとき、「引退競走馬」のニュースを聞き、この問題に引き付けられた。 そこから著者の「旅」が始まる。 現在、日本に暮らす多くの人にとって、馬はさほど身近な動物ではないだろう。 馬には「お金がかかる」イメージがあり、一般人が個人で所有するのはハードルが高い。 一方で、馬と触れ合う機会を持った多くの人が、何とも言えない「多幸感」を味わうという。乗馬は身体を鍛える意味でも有意義なのだが、それと同時に馬と触れ合うことで精神的にもプラスの効果があるというのだ。 引退馬たちが、例えば乗馬馬として、あるいはセラピー馬として、それぞれの「セカンドキャリア」を見つけられればよいのだが、なかなかそう簡単にはいかない事情がある。 競走馬の存在意義は「速く走る」ことにある。そのため、馬たちは幼いころからそのために特化して訓練される。気性が荒く、競争心が強い方がよい。 ひとたび引退したとして、穏やかに、周囲の出来事に動じず、役目を果たせるかというと、それにはそれに合わせた訓練がいる。 そうでなくても馬は概して、環境の変化に敏感だ。中には怪我をした馬もいる。 馬のキャリア転換は実は一筋縄ではいかないのだ。 しかし、散々走らされた後、余生を穏やかに送れないというのも何だか惨い話である。 日本は世界でも有数の競馬大国だという。JRA(日本中央競馬会)の年間売上は約3兆円というから、まさしく一大産業である。売り上げの10パーセントが国庫に入ることになっており、「日本中央競馬会法」に定められている。 一概に、競馬を廃止しろ、というには無理があるほど、業界としては大きい。 著者は、ホースセラピーの現場、リトレーニングの様子、住宅街で飼われている馬、地方馬主の現実、馬糞堆肥の利用など、引退馬に関わるさまざまな人や場所を訪ね歩く。 その過程で、著者自身、馬のかわいさの虜になって、ある引退馬の「一口馬主」になってしまったというからすごい。 全体に馬への温かい気持ちがあふれ、それでいて一歩引いた、競馬業界外部にいるからこその冷静な視点があり、問題が俯瞰できる形になっていて、気持ちよく読み進められる。 何より、写真と合わせ、登場する馬たちの描写がとてもよい。 引退馬の支援に関わる人の多くが、馬に関わる仕事をしてきたり、馬に気持ちを救われたりしてきた人である。彼らの真摯な姿勢には心打たれるところがあるが、しかし、個人個人の力で問題全体を解決することは困難なのもまた事実である。 近年はJRAも引退馬の支援に力を入れてきているとのことなので、構造的な解決につながっていくことを期待したい。
7投稿日: 2024.07.01
powered by ブクログホースセラピーという活動が印象に残った。自閉症の子を支援する活動も行われているという。そして、そこに活躍の場を移した引退競走馬も。 冒頭にあるが、確かに馬のことが嫌いな人は少ない。大きくて怖い、と感じる人はいるだろうが。犬や猫は、その大きさからも人間がコントロールする関係になることが多く、不幸にも犬や猫が傷つけられることもある。しかし、馬は力ずくでは動かすことができない動物。一緒に歩いたり乗ったりするには、馬の気持ちを理解して、自分の気持ちとバランスを取る、馬と折り合いをつける必要がある。だからこそ、馬との関係から心を癒やされたり鍛えられたり、ホースセラピーが成立するのだという。 日本には約7万頭の馬がいて、その約7割が競馬に出走するサラブレッド。そして、競馬業界では毎年約7千頭のサラブレッドが生産され、一方で約6千頭が引退するが、その多くは「行方不明」になっているという4年ほど前(2018-2019頃)の記事から取材を始めた著者。過去は競馬業界では、引退競走馬の問題は表立って口にすべきではないものとされてきたが、引退競走馬の情報発信を始めた現役調教師がいるという。そして、今では引退競走馬の問題は多くの人の注目を集め、新たな潮流をつくり、法律に影響を及ぼすまでになっている。 まだ活動は始まったばかりで、もう少し大きく多様な活動が必要だという。今のところ、引退競走馬の居所が拡大すると、乗馬用の居場所が減ってしまうという矛盾も起きている。中でも引退競走馬の行き先が決まるまで、一時的に預かる施設、勝つために追い込まれ、気性まで変わってしまった競走馬をリトレーニングする施設が重要だという。
6投稿日: 2024.04.29
powered by ブクログこのレビューはネタバレを含みます。
<目次> 第1章 突然だが、馬主になった 第2章 馬と生きる新しい仕組み 第3章 知られざるリトレーニングの世界 第4章 馬と暮らした日本人 第5章 ある地方馬主のリアルと挑戦 第6章 ホースセラピーの力 第7章 旅して食べて馬を応援 第8章 社会が変わる交差点 <目次> 最近、テレビで競馬を見ることが増えた。決して賭けたりするわけでなく、走る馬が美しいことと、走っている最中の馬はなにを考えているのかを考えたりしているたからだ。この本で、そんなことの一端が知れたらと思ったが、それ以上の成果があった。著者は、動物系のノンフィクションを多く書いている人。前回は『平成犬バカ編集部』を読んだ。動物への優しい視点がよい。今回は、その競走馬のセカンドキャリア(引退後の世界)を追いかけた。有名な競走馬も「安楽死」の話をよく聞く。勝てない馬は引退後に屠殺されることも多いと聞いた。JRAなどが広報しないため、知らない人が多いのだ。この本に出てくる人たちは、そうさせずに、馬の余生(大体20~30歳まで生きるらしい)を幸せに過ごさせる努力をしているのだ。その振り幅は大きいが、近年アニマルセラピーの観点が広まり、競馬については、ゲームアプリ”馬娘”のおかげもあり、理解が深まっているようだ。馬は感性豊かで、人との共生も普通らしい。ただ体が大きい分、気をつけないと人に危害を加えてしまうわけだ。詳細は触れないが、もっと日常に馬がいる生活(江戸時代までは普通だった)が広がればいい。
0投稿日: 2024.03.23
powered by ブクログ年間7000頭がデビューして6000頭が引退するサラブレットだが、引退馬の行き先のほとんどは不明だという。 引退後のサラブレットが安心して暮らせる場をつくろうと奔走する人たちを取材したのが本書。 また、ホースセラピーによって馬が人に与える効果にも触れていて、その部分がもっと社会に認知されてほしいと思うようになった。
1投稿日: 2024.03.12
powered by ブクログ競走馬を引退したサラブレッドたちのその後をサポートする様々な取り組みについて、丁寧な取材で描き出していて、良い本だったと思う。 引退後、種牡馬になれるのは5%以下、繁殖牝馬は3割程度と推測されるが、それ以外の馬は行き先不明とされている。引退した競争馬について語ることはタブー視されていると本書で何度か書かれているが、そのタブーの中身は正面切っては描かれていない。少しだけ書かれているか、現在それに関わる人々もいて、大っぴらにはしにくい様子が伝わってくる。競走馬は経済動物なので、まあ察してください、ということか。(個人的な興味はこっちだったので、もう少しページを割いてもらいたかったが。) 本書のメインは、引退馬のセカンドキャリアとして、一般的な乗馬馬になるためのリトレーニングの様子や、ホースセラピーやマッシュルーム栽培の堆肥づくりなど、新しい取り組みを紹介するパート。馬に関わる人々の馬愛が伝わってくる。 ただ、毎年6,000頭の競走馬が引退している状況で、本書で紹介される取り組みがもっと広がったとしても、それだけのキャパが出来るとは到底思えない。ただ、現状を少しずつでも変えようとする関係者の努力には、それなりの意義があるのではなかろうか。
0投稿日: 2024.03.09
powered by ブクログ競馬会で華々しく走った馬たちは、引退したら何処へ? 引退馬たちのその後を、関わる人々、引退馬たちの姿、 そして抱える様々な問題を捉えながら巡る、ノンフィクション。 ・カラー口絵2ページ ・はじめに 第1章 突然だが、馬主になった 第2章 馬と生きる新しい仕組み 第3章 知られざるリトレーニングの世界 第4章 馬と暮らした日本人 第5章 ある地方馬主のリアルと挑戦 第6章 ホースセラピーの力 第7章 旅して食べて馬を応援 第8章 社会が変わる交差点 ・おわりに 主要参考文献有り。 2019~2023年の約4年間の、引退競走馬を巡る世界への記録です。 2~3歳での引退もあるが、寿命は30年以上。 アスリートになるために幼少から特別な訓練を受けてきた 競走馬たちが、乗馬クラブや観光牧場、セラピーホースとして 医療・福祉施設等に迎え入れられ、セカンドキャリアに つくためには、リトレーリングが必要になる。 TCCセラピーパークの存在。栗東トレセンの調教師の挑戦。 岡山乗馬倶楽部の代表とリトレーリングを行う人々、 住宅地で馬と暮らす人の試み。馬事学院のカリキュラムと セリで売れ残ったサラブレッドのリトレーリング。 肥育場の馬に新たな馬生を用意する地方馬主の努力。 再びTCCでのホースセラピーの仕事をする馬と再会。 ホースセラピーの研究者である東京農大の教授からの話。 引退競走馬の養老牧場をつくる「奥能登・馬プロジェクト」 引退競走馬と農業を繋げる馬厩肥でのマッシュルーム栽培。 <ウマ娘>からの引退馬への支援の拡がり。 そしてJRAの変化。 実際のところ知らなかった世界だったので、驚きの連続。 馬って繊細な生き物なんだなぁと、しみじみと感じました。 でも、リトレーニングしてセカンドキャリアに繋げる人々の 行動と努力の熱さにも感動しました。 かつて引退後が行方不明だったことを考えれば、 課題はあれど、大いなる変化であり、進展だと思います。 引退競走馬の穏かな姿は癒しだなぁ。会ってみたくなりました。
16投稿日: 2024.03.07
powered by ブクログ近くに乗馬クラブがあって、いつもぼけ〜っと見ていましたが、この様な世界に居たんですね。 競馬ファンの皆さんにも、是非読んで欲しいです。
1投稿日: 2024.03.03
powered by ブクログ「犬部!」以来、出ると読んでいる片野ゆかさんの新作。今回は、動物好きの著者でもこれまでほとんど縁がなかったという馬について。いつも通り、いやいつも以上に、へぇ~知らなかったなあということがたくさんあって興味深かった。 そもそも捕食動物である犬や猫と違って、馬は被食動物なのだということからして、言われてみれば確かに!と目が開かれる。だから基本的に臆病なのだ。体が大きいからそういうイメージがなかった。そうなのか、ということが次々と出てくる ・背中に人間が乗れる動物はごくわずかで、馬、象、ラクダくらい。 ・前足近くに乗れるのは馬だけ。だからあまり揺れず乗り心地がいい。 ・日本は世界一馬券が買われている国。公営も珍しい。 ・レースの賞金(5着まで)は8割が馬主、残り2割の半分が調教師に渡される。調教師が重要。 ・日本で「生産」される馬のほとんどはサラブレッドで、年間数千頭に及び、競走馬として活躍するのはその一部。 ・競走馬の引退後は、多くが所在不明。 ・公営競馬の(莫大な)収益は、畜産振興などに当てられ、欠かせない財源となっている。 馬って誰もが知ってはいるが、身近ではない。競馬についても、近年そのイメージが変わってきているとはいえ、ギャンブルのネガティブな印象はぬぐえない。大体サラブレッド自体、生き物として不自然じゃないかという感覚はわたしも持っていた。そういったところにも十分目を行き届かせつつ、丁寧な取材が積み重ねられていて、具体的で実感を伴ったものになっていると思う。 かつては、引退競走馬については業界内で口にすることもタブーだったそうだ。近年その状況が大きく変わっていこうとしていて、まさに取材をする過程でダイナミックな動きがあり、そのことへの著者の驚きと嬉しさがストレートに伝わってくる。「犬部!」などの他の著作でもそうだが、片野ゆかさんの書かれるものには一本芯が通っていて、それは行動する人間への信頼だ。 「社会問題を考える際、その課題があまりに深刻すぎたり大きすぎたりすると無力感におそわれ、個人的に行動することは無意味と感じてしまう人は少なくない」 「だが社会問題が世間で注目され、改善へ向かうムーブメントに至った実例に目を向ければ、その原点には今できることを考え、行動した人がかならず存在している。同調圧力の強い社会では、こうした行動や発言を疎ましく思う人もいるが、それでも活動を継続させることで多くの賛同者を集め、それが世論や社会を動かす力になった例は数え切れない」 本当にそうだと思う。本書には、馬が好きで、行き場をなくした馬たちに何とか安息の地を与えたいと奮闘する人たちが出てくる。目の前の馬だけでも救いたいという必死の思いが、やがて事態を動かす力になっていくさまには、心を動かされるものがある。励まされる一冊だった。 ・表紙の馬は著者が一口馬主になっているラッキーハンター。すごーくいい表情。 ・著者の「馬ってかわいい!」という気持ちがあふれていて、そこも読みどころ。 ・片野さんは犬好きで、馬と犬に共通点を感じている。どっちもカシコイ系。わたしはどっちかっていうと、コイツは何を考えてるのかいやたぶん何も考えてないだろタイプの牛や猫が好き。(猫好きの反論可) ・よく思うのだが、こと動物に関する議論が、しばしば感情的でヒステリックな応酬になってしまうのはなぜなのか。 ・とか言いつつ、自分も実は、一部の人だとはわかっているけれど、みんなが動物(特に犬)好きだとは限らないということを理解しない人たちのせいで、犬好き一般に警戒心があり苦手にしている。
9投稿日: 2024.02.03
powered by ブクログ引退馬のキャリア形成に関する言説は昨今取り沙汰されるが、その中での多様な取り組みに関して内側に入り込んで取材が重ねられていて勉強になる。 拡がる支援の手や経済システムの新たな構築が、いくらかでも行方不明となり得た引退馬のその後を紡いでいくことに一役買っているのは間違いない。 旧態然とした体制に否を唱える各々の活動者が理念を掲げ、それらに触れ拡散する熱に筆者も加わっているのは、それがひいては読者のもとにも届くことで理想の成就への一助となりうるだろうが コロナ禍を経て経済全体に軋みが生じた現今では、経済合理性の元で、一筋縄でいかない課題があることも、取り上げられた施設のその後をSNSなどから拾い上げてみると考えさせられる。
1投稿日: 2024.01.14
