
総合評価
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powered by ブクログホラーというには穏やかな、幻想短編集。シュールで静かで、どこかしら不安をかき立てられる読み心地が特徴的です。 お気に入りは表題作「その昔、N市では」。これは強烈に恐ろしいディストピア小説かもしれません。人々の営みを支えるための仕事をしなくなった人間と、その労働を補うために生み出された「灰色の者」を巡る物語。でも恐ろしいのは異形である「灰色の者」ではなく、N市の人間たちが最終的にたどりつく無機質な生活の方に思えました。 「いいですよ、わたしの天使」もインパクトの大きい作品でした。間借りさせた若い女性に徐々に生活を侵略されていく老女の物語。じわじわと高まる不安と嫌悪感があるのだけれど、主人公の老女がそれを感じていないという異様さにぞくりとさせられます。あまりに穏やかで優し気なこのタイトルも、嫌。
3投稿日: 2025.07.07
powered by ブクログずっと本屋さんに置いてあった装丁が気になって一冊 不思議な、ふわふわと言うかぐらぐらと言うか 絶妙なバランスの不安とか幸福。
0投稿日: 2025.05.20
powered by ブクログ日常に寄り添うずっと付きまとう不安感がくっきりと現れるお話が多い。 不思議で理解に時間がかかったり、理解できなかったりするけど全部含めて面白かった!
0投稿日: 2025.05.10
powered by ブクログ2025年3月21日、グラビティの読書の星で紹介してる女性がいた。 「久々に本を読もうとしており、何気にとった本がまぁ今の私にぶっ刺さりで、興奮しすぎて先が読めません。この奇怪な感じと臨場感とゆうのか、もうなんといえば良いか…吐きそう(訳:面白い) 「その昔、N市では」(カシュニッツ短編傑作選) 作者:マリー・ルイーゼ・カシュ二ッツ」
0投稿日: 2025.03.21
powered by ブクログブクログメンバーの書棚にあって初めて知ったドイツの女性作家。表紙の絵にも惹かれた。おもに1960年代の作品、15が収められている。訳者酒寄進一氏の独自選集。 自分が当たり前と思っている日常がゆらぎだす、そんな小説群だ。静かな語り口のなかに不穏な?空気が漂っている。 「白熊」 夫の帰りを待つ妻。やっと帰ってきた、と思うも夫は玄関から入ってこない。そこから夫と妻の間にちぐはぐな感情の会話がなされる。最後がこれはけっこうある設定かも、と思うが、夫と妻の思いの違い、というのが先ごろ読んだ、イーデス・ウォートンの短編「満ち足りた人生」と似ていた。・・「白熊」はデートの最中、よく首を振る妻に夫がつけたあだ名。これもこの二人の心底に関係しているのだった。 「ジェニファーの夢」 幼い娘ジェニファーが母に語る「夢」ともいえないお話。次第に母はそれに囚われるようになり・・ 実は何かが隠されていた現実だったのか、いや違ったのか・・ 「その昔、N市では」 ”その昔、大都市であるN市の黄金時代は終わった”で始まる。いまでいう4Kの仕事に誰もつこうとしなくなった。そこでとった方策とは? 巻末には遺稿とある。SF的なのだが、21世紀の現代につながる近未来とも想像してしまう。 「六月半ばの真昼どき」 私は家に帰ってきた。するとアパートの住人たちは、六月半ばに女がやってきて、あなたが死んだと言いまわった、といわれた。それにあなたは天涯孤独だとも言ったので、そんなことはない始終友人たちがやってきている、と言ってあげたのよ、と言う。私は手帳を確かめてみた。その日は海水浴をしていた。「白熊」と少し似ているかも。 マリー・ルイーゼ・カシュニッツ:1901-1974 ドイツ、カールスイーセに男爵家の三女として生まれる。父の任地がプロイセンに移ったので子供時代をポツダムとベルリンで過ごす。ベルリンの女学校を卒業後、ワイマールの書店で見習い修行をし、ミュンヘンの出版社に勤めた後、ローマの古書店に雇われた。 1925、ウィーン出身の考古学者であり美術史家であるグイード・フォン・カシュニッツ=ヴァインベルグ(男爵)と結婚し、ローマ(1926-32)、ケーニヒスベルク(1932-37)、マールブルク(1937-41)、フランクフルト(1941-53)、ローマ(1953-56)と夫の任地を転々とし、1956年、夫がローマのドイツ考古学研究所長を辞したのち、フランクフルトに居を構え1974没。 1930年代から自伝的小説(愛の始まり、1933)などの作品を散発的に発表。1947の詩集を皮切りに、短編小説、エッセイ、ラジオドラマ、伝記など本格的に作家活動を始める。1955にビオルク・ビューヒナー賞など数々の文学賞を受賞。 ナチ政権下では、ドイツ国内にとどまった内的亡命者に数えられる。 白熊1965 ジェニファーの夢1969 精霊トゥンシュ1966 船の話1964 ロック鳥1966 幽霊1960 六月半ばの真昼どき1960 ルピナス1966 長い影1960 長距離電話1966 その昔、N市では(遺稿) 四月1966 見知らぬ土地1948 いいですよ、わたしの天使1964 人間という謎(遺稿) 日本独自の短編集 装画:村上卓 銅版画「おどり」2021製作 2022.9.30初版
14投稿日: 2025.01.06
powered by ブクログ夫かと思ったら白熊と話していたお話から始まり、第二次世界大戦を生きた作者であるからこそ生まれたであろう、夢と現実の狭間を浮遊するような感覚になる短編集だった。不思議な気持ちになりながらも次はどんな突飛な設定なんだろうという期待からページを捲る手が止まらなかった。
4投稿日: 2024.12.01
powered by ブクログ20世紀に作品集を出し、いくつかの賞をゲットした女性。初めて名前を耳にしたが、男爵夫人、学者の妻といった経歴以上に、優れた素質を覆いに感じる。 文体うも読み易く、どこかで触れた記憶を受けた・・サモアラン、シーラッハでおなじみの酒寄氏の手になるもの。 彼女独特に独特な視点(ナチス支配下と言えども、アーリア人であり代々男爵の家に生まれたという高貴な血、結婚相手も考古学者というアカデミック環境から来るスノッブ臭やや強め)、言葉遣いは読む者の思惟を深めてくれる。 お冷められた15編はいずれも珠玉、素晴らしいが「いいですよ、私の天使」が秀逸だった。 当人と対峙する相手の視点の辛みが不安、恐怖、戦慄・・種々のネガティブな人間心理をぐさぐさ突いてくる。 日本でもこういった嫌ミスっぽい、嫌ホラー的作品ははやっているが、申し訳ないけれど、桁が違うなぁ~と舌を巻いた。 マリー女史からするとさっと振りかけたスパイス的ニュアンスは日本的平和、保守、安定が大好きな国民性からするといやはや・・他の作品を読みたい。
6投稿日: 2024.11.09
powered by ブクログ書店で何となくパケ買いした1冊。 自分好みで大満足だった。 ドイツ人女性作家のカシュニッツが手がけた本書は15作の不思議で少し背筋の凍る短編からなる。 どの話も何の説明もなく突然始まり、読者は最初置いてけぼりになる。しかし1,2ページ読み進めると状況が掴めてくる、といった自由奔放な構成にも惹かれた。 個人的に「船の話」「ロック鳥」「幽霊」「長い影」辺りが特に印象に残っている。10ページにも満たないであろう短編を読んでここまで不思議で不安な気持ちを植え付けられることは中々ない。 これを機に彼女の他の作品も読んでみたいと思った。
1投稿日: 2024.10.05
powered by ブクログこのレビューはネタバレを含みます。
ミステリというよりは、文学的な作品を集めた短編集だということは何となく認識していたが、何の気なしに図書館の棚から借りて読み始めた。 まず最初の一編「白熊」を読んで思った。 まるでシーラッハのようだ。 と思ったらシーラッハの訳者酒寄さんの肝入りで編んだ傑作選とのこと。 一編目を読んだ後に解説とかあるかなぁと、裏からめくっていったら、ちょうど訳者あとがきがあり、そのことを知った。 なるほど興味深い。 これは先に読んだ方が作品をより深く味わえる方のあとがき。 極限とも思える程に研ぎ澄まされた文体が魅力のシーラッハに比し、あそこまでではないものの物語の唐突さと幻想性、不穏さを10ページ強にぎゅーっと詰め込んだのが特徴的な短編がずらり15編並ぶ。 既に邦訳されている8作品を含むが、酒寄さんいわく、「個々の作品を重ね合わせることでイメージを増幅させたり、それまでとは異なるイメージを醸成する」のが短編集を編む醍醐味とのこと。 著者カシュニッツの96作品のうち、この15作品、この順番で形作ろうとした世界観を堪能。 「幽霊」から「六月半ばの真昼どき」へとの繋がりは、まったく別の物語の中の共通するイメージの重なりが面白い。 後半に置かれた表題作「その昔、N市では」は比較的わかりやすいディストピアSFもの。 なんてことないといえば、なんてことのない筋書きだし、これだけを読むとふーんのような気がするのだが、全体の雰囲気中で読むこの物語の設定の妙と結末の皮肉が際立つ。 正直、何を読んだのかよくわからないような作品もあるのだが、その醸し出す雰囲気、言葉にしきれない情動をもたらされる感覚が癖になる。 第2弾、『ある晴れたXデイに』も読んでみようかな。
47投稿日: 2024.06.23
powered by ブクログひとつひとつが、なんかこう、独特の雰囲気を纏っていて、不思議な気持ちで読み進めた。 こういうのを文学というのだろうか。ひとつひとつに、物語の行き着く先(オチ、みたいなもの)があるわけではなく、だからこそ、少し名残惜しい、喪失感みたいなものを感じた。
3投稿日: 2024.06.19
powered by ブクログ序盤のいくつかの作品がシュールさしか感じられず読み切れるか不安になったけど中盤以降から面白い作品が出てきたので諦めずに読んだほうがいいかもしれない。同時期にシャーリイ・ジャクスンの短編集も読んでいたが個人的にはこちらのほうが好き。
1投稿日: 2024.05.13
powered by ブクログこのレビューはネタバレを含みます。
戦後ドイツの作家、マリー・ルイーゼ・カシュニッツの日本オリジナル短編集。 一編一編が高級チョコのように味わえる作品集。幻想的でありつつも、どこか人間の普遍的な不安感が漂う。その暗い感じがクセになる作家。 以下、作品毎の感想。 ◯白熊 ★おすすめ 帰ってきたのに何故か電気を付けたがらない夫と妻の会話。出会った動物園で、妻は本当は誰を待っていたのか。会話しているのは本当に夫なのか。不安がピークになるころ意外な展開に。 ◯ジェニファーの夢 夢を見たという娘のジェニファー。日を追うごとに夢が日常を侵食しているようで、得体の知れない娘への不気味さが描かれた作品。 ◯精霊トゥンシュ ★おすすめ 大学から派遣された番人と現地民たち。相容れないためか、現地民たちは番人に作ってはいけない人形を作らせる。やがて番人は無惨な死体となって発見される。ミステリタッチの作品。 ◯船の話 ★おすすめ 予定した船に乗れなかった妹からの頼りが来る。妹が乗った船はなんだったのか。じわじわと恐ろしい作品。 ◯ロック鳥 自分にしか見えない鳥。鳥とはなんだったのか。 ◯幽霊 ゴシックなゴーストストーリー。非常にテンプレートな話。 ◯ 六月半ばの真昼時 ★おすすめ カシュニッツ夫人が旅先から帰ると、アパート中に夫人が死んだと触れ回っていた女がいたことを知る。カシュニッツ夫人には娘がいたことを知るとすぐに立ち去ったようだが。。。 これもよくよく考えると非常に不穏な作品。 ◯ルピナス 姉を置いて列車から脱出した妹。姉の夫と暮らすが思い描いた風にはならず。。。可哀想な小話。 ◯長い影 バカンスに来た思春期の女の子のひねくれた気持ちを描いた作品。家族と一緒にいるのが嫌、自分だけの世界を思い描くが、ふとしたことから不安に囚われる。 ◯長距離電話 ★おすすめ 電話での会話だけで構成される作品。身分違いの恋人たちを別れさせようと家族たちが頑張るが。。。意外な結末。 ◯その昔、N市では 表題作。タイトルからは意外だったが、ゾンビのような、フランケンシュタインのような、死者をリサイクルして使用人とした近未来を舞台とした作品。結構絶望的な話。 ◯四月 ★おすすめ 決して美しいとは言えない女性の机の上に置かれた花束。同僚たちは、支配人からあなたへの贈り物だと言うが。。。 意外な着地点で、幻想味が強い作品。 ◯見知らぬ土地 知らないと言うことがいかに人を不安にさせるか、いかに少しの衝撃で壊れてしまうかを描いた作品。 ◯いいですよ、わたしの天使 ★おすすめ 部屋を借りた娘に、ゆっくりじわじわと家や人生を乗っ取られる話。それでも娘のことを許せるお婆さんが切ない。 ◯人間という謎 バスで隣り合った女性から、女性自身の妄想を聞かされる話。霧に囲まれるようなぼんやりとした読み心地の作品。
12投稿日: 2024.04.21
powered by ブクログ15編の短編集。 「長距離電話」は電話の会話だけが延々と続く。 家族の会話が予期せぬ方向へ進む。 表題作「その昔、N市では」が秀逸。 遺稿で70年代以前の作品だがAIが活躍する近未来のような感覚になる。 驚く。
6投稿日: 2024.02.17
powered by ブクログこのレビューはネタバレを含みます。
これはいい。一話一話は簡潔だけれど、人物描写・ストーリー展開・オチが巧みで、いい感じに後味が悪くてサバサバしている。日常的幻想プチイヤミスって感じか。 ■白熊 夫が夜中に電気をつけないワケ ■ジェニファーの夢 娘が見る奇妙な夢と奇行 ■船の話 間違った船に乗ってしまった娘の末路 ■ロック鳥 自宅にデカい鳥がいたら ■その昔、N市では 灰色人間とディストピア
2投稿日: 2023.10.27
powered by ブクログ初めての海外文学。 馴染みのない文化の上に成り立つお話はとても新鮮。難しい話もあったけど殆どが読みやすくて面白かった。
0投稿日: 2023.10.25
powered by ブクログあ、たぶんこれ私好きだなと思った一目惚れ装丁。 不可思議はそんなに遠いことではなく、実は身近にあるんじゃないかと思わせる短編集でゾクゾクした。
1投稿日: 2023.06.27
powered by ブクログ15編収められた短編集。作品の配列にとてもこだわったと訳者あとがきにあります。怪異・ユーモア・性が入り混じった作風。ドイツという国が重ねてきた歴史の影の部分も時折見え隠れします。女性の心理描写がきめ細やかで、多くの作品では自惚れや恋心や恐れの果てに死や老いへと主人公は突き進んでいくのですが、少年から性的な欲望を向けられ怯えていた少女が、やがてその欲望の美しさも感じ取るようになるまでの僅かな時間を描いた『長い影』が一番好みでした。最後に収められた『人間という謎』で、読者の我々も作者との旅からいったん解き放たれます。
3投稿日: 2023.06.20
powered by ブクログ読書芸人で見て興味を持ったので図書館で借りて読んだ。 不気味なお話や謎のまま終わるお話などの短編15編。 全部全く違う方向性のストーリーばかりで面白かった。 一番好きなのは『幽霊』、後は『長距離電話』や『四月』も好き。 最後の『人間という謎』も、古畑任三郎で何度も出てきた「赤い洗面器の女」みたいな尻切れとんぼな感じが1つだけじゃなくて何度も続いて、もやもやとわくわくがリピートされて面白かったし終わり方も素敵だった。 翻訳された酒寄進一さんのあとがきも良かった。 翻訳だけではなく、たくさんの短編の中から厳選した15編であること、編集者の方主導で決まった配列について、などなど。 他の作品も読んでみたくなりました。
1投稿日: 2023.05.31
powered by ブクログこのレビューはネタバレを含みます。
幻想的な要素を含みつつも後味の悪い話が続き、読んでいる最中は全然楽しくなかった。何が傑作選なのかと思っていたが、そこは編者の妙で、最後に唯一後味のよいあの一編を置いてくれたことで、内容的にもこれまでのすべてが救われた感じになった。
0投稿日: 2023.05.28
powered by ブクログアメトーーク本屋で読書芸人(2023)ヒコロヒーさんおすすめ本。現実からいつの間にか違う世界に入り込んでしまったような。感情の上げ下げはあまりないものの、じわっとくる闇。他の作品も読みたい。
2投稿日: 2023.04.30
powered by ブクログ【収録作品】白熊/ジェニファーの夢/精霊トゥンシュ/船の話/ロック鳥/幽霊/六月半ばの真昼どき/ルピナス/長い影/長距離電話/その昔、N市では/四月/見知らぬ土地/いいですよ、わたしの天使/人間という謎 Web東京創元社マガジン「深緑野分のにちにち読書」第九回 http://www.webmysteries.jp/archives/31047905.html#chapter2 奇妙な味の短編集。わかるようなわからないような……
6投稿日: 2023.04.16
powered by ブクログ15編で読みやすいが、短い割に一編がブラウニーみたいに心にずっしりくるし、一編ごとに自分の位置が分からなくなる不安感が漂う。 読了後に訳者解説みたら、また違う視点で面白く読めると思う。
1投稿日: 2023.04.04
powered by ブクログ文章は理知的。怪異譚もクラシカルな趣きで端正。しかし登場人物の心は揺らぎ、不安定な危うさを秘めている。 すっと読み通せるが、収められた各短編には読み流すことを許さない、しっかりとした手応えがある。 表題作は、外国人労働者への依存と無理解、エッセンシャルワーカーの仕事に価値をおかない世界に対する批評が想起される寓話。 『見知らぬ土地』では、“人間性という壊れやすい幻想がささいなことで消し飛ぶ”様が描かれる。戦後ドイツの連合国による占領地域にて、敵国の軍人と居合わせることによる緊張がサン=テグジュペリの名前を出すことによって緩和されていく。しかし、その交流は脆く、苦い思いが残る。ヒューマニズムを否定した作品ではない。見知らぬ人、見知らぬ土地が与える不安が題材である。 『白熊』で交わされる夫婦の会話に込められた緊迫感にも引き込まれる。明かされるラストで妻が抱える衝撃。 しかし、〈僕の白熊〉という可愛い渾名に込められた皮肉は、幸せそうな夫婦の足下に深い亀裂が潜んでいたことをジリジリとあぶり出して、怖い。
5投稿日: 2023.03.11
powered by ブクログ表紙が気になって図書館で衝動借りしたのですが、実に「コーヒー片手に晴れた5月の日曜日の午後3時、カフェのテラス席で読みたくなる」ような短編集でした。 星新一のような不思議なお話や、 小洒落たイケてる短編、 悲しいヒューマンストーリーから ちょっぴり不気味な怪談、 皮肉なブラックユーモア、 哲学的な話まで 色々あるものの、どの短編も同じ世界観を共有していている気がします。 どこかシニカルで、文学的。 いくつか話のオチがよく分からないものがあって少し困惑しちゃいましたが、総じて評価すると、読む価値ありです。
0投稿日: 2023.01.27
powered by ブクログ『「それから?」 夫はきつい口調でたずねた。「白熊がなにをするか知ってるくせに。首を左右に振るのよ。いつまでも右に左に」「きみみたいにな」「わたしみたいに?」女はおどろいてそうたずね、闇の中でいまいわれたとおり首を左右に振った。「きみはだれかを待っていた」夫がいった』―『白熊』 初めて読む作家、マリー・ルイーゼ・カシュニッツの短篇集。最初の幾つかの短篇を読むかぎり、これまで読んだ欧州の怪奇譚の雰囲気と似ている語り口で、初めてのような気がしない。例えば最近読んだものだとアラン・ノエル・ラティマ・マンビーの「アラバスターの手」とか、シルヴィア・プラスの「メアリ・ヴェントゥーラと第九王国」などが思い浮かぶ。更に言うなら、もう少し前に読んだゾラン・ジヴコヴィッチの「12人の蒐集家/ティーショップ」なんかにも似ている印象を受ける。要は、あちらの世界とこちらの世界が何やら薄暗いところを通して繋がってしまう話とか、人間がいつの間にか獣のような邪悪な存在になってしまって悪さをするとか悪魔が出て来るような話。それが西欧的な世界観に由来するものかどうかは不明だけれども、似たような話を極端に単純化して要約してみると、本邦の番町皿屋敷のように個人的な恨みや怨恨を持って張本人の前に現れるというような話は案外少なくて、何だか人智を越えた存在にふっと誘われ(あるいは、さらわれ)そうになる展開というのに彼の地の人は関心があるのかなとも思ったり。そう書いてみて気付いたけれど、小泉八雲の「怪談」なんかもどちらかといえばそういう話が多いような気がするのは、やはり西欧の人の関心の為せる業なのかも知れない、などと思考が脱線する。 『その昔、大都会であるN市の黄金時代が終わった。メイドやウェイターや売り子や車掌や道路清掃人や郵便配達人や墓掘人の黄金時代が。雇い主に奉仕すること、スープを給仕すること、商品をだしたり、包装したりすること、子どもの体を洗うこと、老人に付き添うこと、瀕死の患者の介護をすること。たとえ高給がもらえても、だれひとりそういう仕事につこうとしなくなったのだ。オフィスでは数十万人のビジネスマンがデスクワークをしているというのに、路上はきたないまま。食堂は店じまいし、郵便は配達されなくなり、車掌、切符売りを必要とする公共交通機関は運行を停止した。新聞各紙がこの憂慮すべき状況を打破するべくさまざまな提案をしたが、どれも不発に終わった』―『その昔、N市では』 ところが後半に入ると、ぐっと現代的な要素が色濃くにじみ出た作品が多くなる。その構成については翻訳家と出版社の仕掛けという側面があるにせよ、半世紀以上前の作品に現在の社会的な問題を見い出してしまうというのは、作品が根源的な人の業を描いているからに違いない。例えば表題作でもある「その昔、N市では」を読みながら、感染症に喘ぐ都市が抱えている問題、例えばいわゆる「エッセンシャルワーカー」の問題や、貧富の格差の問題などを想起しないでいることは難しい。そこまで大きな社会問題のようなテーマを扱っている作品はこの短篇集では他に「ルピナス」位だけれど、人間の性悪(これを、しょうわる、と読むか、せいあく、と読むかで意味も少し変わるような気がする)な部分(あるいはそれを人間性というのかも知れないけれど)が強調されて描かれたディストピア的世界観がこの作家の根底にあるようにも思える。それはひょっとするとナチス政権下の第二次大戦を経験した作家ならではの思いなのか、と想像しながら読み終える。
4投稿日: 2023.01.11
powered by ブクログカシュニッツは今回初めて読んだけど、面白かった! 人間心理の闇、奇妙な味、といったような短編集。 日常が少しずつずれていく感じや、夢と混ざり合っていくような感じの塩梅がちょうど良かった。 あまりにも突飛だったり、幻想的すぎる話だと個人的には楽しめないことがあるので…。 迷信かと思いきや否定もしきれない『精霊トゥンシュ』。 間違った船に乗ってしまい、奇妙なことが起き続けていることを知らせる手紙が届く『船の話』。 隠れて生きたユダヤ人女性の人生を描いた『ルピナス』。 若い夫婦に追いやられていく老女の『いいですよ、わたしの天使』。 そして、SFホラーぽさもある表題作の『その昔、N市では』。 どれも面白かった。 『ルピナス』と『いいですよ、わたしの天使』は、リアルに苦しくなる展開と終わり方だったけど作品としては特に好きかもしれない。
1投稿日: 2023.01.08
powered by ブクログカシュニッツは1901年に生まれて1974年に亡くなった作家で、これまでも何冊か翻訳が出ていたらしいが、全く知らなかった。 読んでみると、暗くて不安に満ちていて、うっすらとした恐怖を感じるという全体のトーンは共通しているが、内容はバラエティーに富んでいて、こんな面白い作家、どうして今まで話題にならなかったのだろうかと思った。 「いいですよ、わたしの天使」「船の話」なんかは岸本佐知子の「居心地の悪い部屋」に入っていてもおかしくない。 「白熊」「幽霊」「精霊トゥンシュ」は、古典的な幽霊小説の風格があるし、「長距離電話」「ルピナス」は構成の巧みさが際立つ。 「ジェニファーの夢」「ロック鳥」「人間という謎」の人間心理の恐ろしさを描いたものもいい。 「その昔、N市では」は本のタイトルになるだけあって、読みやすく面白い。外国人労働者や奴隷制、AIなどの寓意も読み取れて、現代の問題として考えることもできる。40年くらい前に書かれたとは思えない。ゴーレムやフランケンシュタインも思い出した。 酒寄さん選りすぐりのせいか、どれもいい作品でハズレがない。 私が特に好きなのは「船の話」「ルピナス」「四月」「見知らぬ土地」。特に戦後すぐ、フランス空軍の兵士との束の間の交流を描いた「見知らぬ土地」がいい。あそこにあんな風にサン=テグジュペリが出てくるとは。すごい。 カシュニッツはドイツ生まれでドイツ国内、ローマを転々として暮らしたとあるが、主人公もドイツ人とは限らず、舞台もスイス、イタリア、イギリスなどで、ちょっと前に読んだグァダルーペ・ネッテルみたいだなとも思った。 是非とも第二弾を出して欲しい。
5投稿日: 2023.01.04
powered by ブクログ戦後ドイツを代表する女性作家の傑作選。全15作。 ふわっとしていて、灰色で、どこか不安になるお話のあつまり。「長距離電話」が好き。わかりやすかった。怖かったのは「いいですよ、わたしの天使」→ もう、死ぬほど怖い。ホラーじゃないんだけど、なんか、怖い。こんなのおかしいよ!って叫びたくなる。読み直したらまた怖かった……。 「ルピナス」は切ない。切なすぎる。「白熊」や「精霊トゥンシュ」「その昔、N市では」あたりは日本の昔話にありそう。 「いいですよ、わたしの天使」はコロナ陽性が出てまぁまぁしんどいタイミングで読んで、だいぶんやられた(笑)怖かったよー。でもある意味1番印象残ったわ。たぶん忘れない……。 全体的には、とても上質な短編集って感じ。面白かったです。
3投稿日: 2022.12.23
powered by ブクログ短編集15編 不可解な,忍び寄る不安,不条理といった精神を軋ませるような世界が広がる. 「白熊」「船の話」表題作が良かった.少しわかりにくかったけれど「四月」も面白い.
0投稿日: 2022.12.23
powered by ブクログこれは面白かった!というか、実に好み。ホラー寄りの奇妙な味、というのかな。柔らかいのだけれど。 読んでいて、なんか読んだことあるなーと思い、カシュニッツはいくつか読んでるんだと思うんだけど、もっと読みたくなった。でも家を探したが河出の『ドイツ怪談集』しか見当たらなかった。特に『いいですよ、わたしの天使』は絶対読んだことあるーと思うんだが、なんのアンソロジーに収められいるのか。訳者あとがきでは既役について素っ気なく、なんのアンソロジーに入っているのかわからない。 特によかったのは『白熊』『ジェニファーの夢』『船の話』『幽霊』『ルピナス』『長距離電話』『四月』『いいですよ、わたしの天使』…あれ?ほとんどではないか。 他のももっと読みたい。
5投稿日: 2022.10.13
powered by ブクログカシュニッツ カシュニッツが描くのは、市井の人間の平凡な生活にどこからともなくひっそりと忍び込む魔の顕現である。だがそれは外部から不意に訪れたように見えて、実は我々と同居していたことに後になって気付かされるのである。
2投稿日: 2022.10.02
