
総合評価
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powered by ブクログ明智小五郎の登場する事件を発生順に並べたシリーズ。『吸血鬼』は1929年9月末から12月半ばの事件です。 前巻『黄金仮面』ではおおらかでダイナミックな冒険物語という感じでしたが、『吸血鬼』はまたしても偏執的な復讐とか、壮絶な目に合う被害者とか、陰惨な死体とかがてんこ盛りです。題名の「吸血鬼」は血を吸う西洋のイメージではなくて、犯人の残酷さを「鬼か吸血鬼か」というように、人間ではないという比喩です。 明智小五郎事務所には二人の助手、『魔術師』の文代さんと、13,4歳くらいの小林少年が入りました。文代さんは明智小五郎の恋人で女助手として活躍します。さすがは「魔術師」に鍛えられただけあって、身軽で機転が利いて危険を恐れず知識もあり情報収集もできます。 そして小林少年。『少年探偵団』シリーズの小林芳雄くんの初登場だ!…と思ったのですが、後書きによると「小林少年」という助手は年齢を考えると三人の別人がいるようです。確かに時系列では後年の二十面相時代に小学生くらいの小林芳雄くんが今13歳というのは辻褄が合わない。でも私は「明智小五郎の少年助手の小林くん」という精神は同じ人物として読んでます。江戸川乱歩だって正確に「三人の小林少年は別人」って細かく考えずに「明智探偵の少年助手は小林くん」ってざっくりしか考えてないと思うんだよなあ。それに今回の小林少年、一生懸命少年探偵しようとしたり、でもちょっと怖がったり、明智先生や文代さんとの連携もよく出来てるし、このあと二十面相と戦うための準備にいい感じなんだもん。 文代さんと小林少年は姉弟のようで、新装明智小五郎探偵事務所、いいバランスになりました。 === 物語は緊迫場面から始まる。36歳の芸術家岡田道彦と、25歳の貧乏学生三谷房夫は、倭文子(しずこ。変換が面倒なので以下シズコ記載します)という女性に熱烈な恋をして決闘することになったのだ。シヅコは18歳で悪い金持ちの畑柳氏と結婚した。やがて畑柳氏が獄中死して、6歳の息子の茂と共に膨大な財産を継ぎ気儘に暮らしている。まだまだ美貌で気が強い…というより我儘娘がそのまま年齢だけ大人になった感じ。 冒頭の決闘は三谷青年が勝利した。自分のために命をかける姿に感激したシズコと三谷は若い恋を燃え立たせる。 だが二人の前に世にも奇怪な人物が現われる。江戸川乱歩が言うには「その人物は、のちのちまでこの物語に重要な関係を持っているので」という怪人物は、義肢義足、顔は焼け爛れて皮膚が無い「唇のない男」だったのだ。 現在ならこのような描写は「差別!」と言われそうだが、この頃はそんな人物はもっと普通にいたんだと思う… そういえば江戸川乱歩って読者に向かって「読者の皆さんはこの事実を覚えておいていただきたい」とか「あの怪しい人影は何者だろう。そうだ、犯人の変装に違いない」というように読者に話しかけてくるんですよね。私は(江戸川乱歩に限らず)このように作者の語りかけは結構好きです。作者が一生懸命読者を楽しませようとしているようで。 さて。 怖ろしい男の影を不気味に思いながら東京に帰ったシズコと三谷。だがシズコの家に「茂を誘拐した」という連絡がくる。 どうやら犯人は、シズコに対して並々ならぬ執着を持ち、世にも怖ろしい攻撃を仕掛けてくるのだった。 そして事件はついに、残酷で美しく哀しい、見る人に感慨さえあたえる結末に向かうのだった。 === 事件はかなり込み合っていました。いろいろな人がそれぞれの思惑を持ち、それぞれが凝った仕掛けを出して、それぞれが変態的…(^_^;) なので、全部が組み合わさるとかなり大掛かりでこんがらがりあった事件になりました。私は「明智小五郎は探偵ではなく冒険家」(推理を楽しむ、強い、変装などの細工が得意、単独行動で犯人に割と逃げられてる)だと思っているのですが、これを解きほぐすのはやっぱり探偵ですね。 明智小五郎が出てこない場面は、石膏像に塗り込まれる死体、気味の悪い容貌の怪人物、密室での殺人と死体消滅、不気味な隠し部屋、悪党が気球に乗って逃亡、海の追いかけっこや大爆発、火責め水責めなど、これでもかーーーというくらいに不気味で怖ろしい場面が次から次へと訪れる。 シズコと茂坊やの大ピンチ場面なんて、江戸川乱歩の筆が冴えまくる恐ろしさ((;゚Д゚)) これならさっさと死刑になったほうがマシだろう…。 そうそう、この時代の殺人罪は死刑ですね。そのため明智小五郎シリーズに出てくる犯人たちは復讐とか、楽しみとかで殺人を犯しますが、ある意味命懸けでやってるんですね。明智に負けるというのは目的が果たせない上に惨めな裁判と死刑が決定なので捕まる前に犯人は自殺を計ることもあるし、明智小五郎から逃げ延びたとしても「目的が果たせたら自殺する」と言ったりします。(そういえば『蜘蛛男』の共犯者はその後捕まったのか、自殺したのか…) 明智小五郎が「謎を解くのが楽しくて犯人逮捕には興味ない」というのは、積極的に死刑室に送りたくないのかもしれませんね。(この明智小五郎シリーズに出てくる犯人はあまりにも凶悪なので明智小五郎も処刑込みで捕まようとするけど) 今回の担当警察官は(いつもの波越警部ではなく)恒川警部です。 彼も名探偵として場数を踏みまくり「この私が見落とすわけ無いだろう」と矜持も持っています。終盤で彼の怪力でみんな助かったので、力持ちでもある(笑) そんな彼が終盤の犯罪を見て「彼の知っている殺人とは、血まみれで暴力的なものだったのに、こんな美しい殺人があるとは」とかんか新たな境地に目覚めたちゃってるんだけど大丈夫か!? そう、ラストは少し感慨さえ持ちます。こなのあたりの書き方はすごいなあ、江戸川乱歩。 しかし、私としては、6歳の茂坊やが次々に酷いに目に合うのはちょっとツライ(-_-;)
27投稿日: 2025.03.12
powered by ブクログこのレビューはネタバレを含みます。
さてはて此度も明智小五郎の事件簿である。まさかの小林少年初登場だ。私の江戸川乱歩は少年探偵団から始まっているので、感慨深いものがあった。また本作にて小林少年と並び活躍するのが明智小五郎の恋人、文代さんである。「魔術師」にて出てきたのが初回だったように記憶しているが、彼女も肝の座った女性であり、この作品を魅力的に見せる一つの理由であるように思う。 本作でも比較的犯人はわかりやすい……という指摘があったが、私は終盤に至り明らかにされるまで、厳密には棺桶のくだりまでわからなかった。なかなか凝った作りで、謎解き以外の要素も大いに楽しめると思う。 とはいえ、被害に遭った彼女は一体過去に何をしたのか。恋に生きる女だったのか、はたまた女一人では生きづらい時代に依代を求めていたのか、そこは分からないが、犯人となったかの青年も恐らくは恋に落ちていたのかと思うと、魔性というほかないと思ったものである。
2投稿日: 2023.05.01
powered by ブクログこのレビューはネタバレを含みます。
タイトルの吸血鬼は最後の最後に「吸血鬼っぽい」という比喩だけで出てきた…吸血鬼というより復讐鬼だけど、それ出したら完全ネタバレだしなぁ。犯人はすぐにわかるけれど、毒薬決闘やら熱気球やら石像の中の遺体やら屋根裏の住人やら色んな物がてんこ盛りで謎解きなど二の次になってくる。これが小林少年の初登場だとは…最初からいる気になってた…。倭文子が割とやりたい放題じゃん…と思ってたら結局殺されて三谷の復讐が成功するラストになるとはびっくりした。なるほど犯人に肩入れする乱歩(解説から)。
2投稿日: 2022.12.30
powered by ブクログクロニクル第7巻。 本格ものの体裁ではあるが、乱歩らしさが全開。昔読んだ時は余り印象的ではなかったのが正直なところだが、改めて読んでみると面白い。
1投稿日: 2016.11.29
powered by ブクログシリーズも7巻目で、江戸川乱歩の娯楽性の高い語り口にもかなり慣れてきた。 トリックを見破ることは困難ながらも、犯人が誰であるのか、張られた伏線(読者に投げかけられたトリック)がどのように回収されるのかを考えながら読む楽しみが、これまでの作品の中で一番あった。 明智小五郎年代記、解説もいつもながら面白い。特に解説は、このシリーズに珍しく?ちゃんと作品の解説をしていた。
1投稿日: 2016.11.26
