
遠くの都市
ジャン=リュック・ナンシー、ジャン=クリストフ・バイイ、小倉正史/青弓社
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総合評価
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powered by ブクログ上京して間もない頃だった。神楽坂の毛細血管のような街で迷子になった。 歩いても歩いても、目的地らしいものは見当たらず、ケバケバしいパチンコ屋のネオンと音に溢れている通りの前で、ため息を吐くことしか出来なかった。彷徨うほどに街は拡大し、その場に住む人を置き去りにする。 細い路地を昇ったり降りたりを繰り返すうちに、僕は、神楽坂に嫌われているような気になったのを覚えている。かつての街の名残を微かに残していると言えばそうかもしれない。けれど、それらの景色は、もはや街の抜け殻でしかない。 「年はあらゆる方向へ向かう。交通網の中にと、それによって追いやられ、汚染によってと、それによって追いやられ、都市自身の動揺の只中での果てしない吸収合併の中にと、それによって追いやられて。」 目的地にたどり着けないまま、僕は再び地下鉄に乗る。家へ帰るのだった。「都市自身の動揺によって」かどうかは定かではないが、毛細血管のような街のなかで、少なくとも僕は、僕自身の動揺によって、神楽坂から追いやられた。だが、そこに、その場所の名が与えられた時から、神楽坂は、既にそれ自身によって、追いやられていたのかもしれない。もはや、かつての何分の一もの重要性をなくした神社の境内と、細くて車の入ることの困難な路地。腰を曲げた老女がビニール袋からねぎをはみ出して歩いている。 地下鉄によって追いやられた僕は、また別の区域へと異動を続けるしかないのだった。
0投稿日: 2009.03.14
