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東京ローズ
東京ローズ
ドウス昌代/文藝春秋
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総合評価

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  • アメリカと日本の間で

    広島の平和大橋・西平和大橋の高欄をデザインしたイサム・ノグチ。彼に興味を持っていた私は「イサム・ノグチ 宿命の越境者」でドウス昌代の著作に初めて出会った。そして「ブリエアの解放者たち」などの一連の著作も続けて読んだ。アメリカ人の夫を持つドウス昌代はアメリカと日本の間で生きた人たちのノンフィクションを書くのをライフワークとしているようだが寡作である。今のところ電子化された書籍は残念ながらこの処女作「東京ローズ」しかない。 私の伯母は大正年間に同郷の夫に嫁ぐためにハワイに渡って5人の子供を産み、20年余り前に88歳で亡くなっている。私はこの伯母とは一度も会う機会がなかったが、どのような生活を送っていたのか、何を考えていたのか知りたいと、ドウス昌代の著作をあさった次第である。 「東京ローズ」は、アメリカで生まれ育った日系アメリカ人二世アイバ・戸栗・ダキノが母国アメリカから国家反逆罪で投獄され、市民権をはく奪された裁判を克明に記した労作である。 病気の叔母の見舞いに来日している間に日米開戦となり、そのまま日本に留まらざるをえなかったアイバは、本当は日本での生活が嫌いだった。自身をアメリカ人としか考えられず、特高から日本国籍の取得を強要されても拒否し続けていたが、アメリカ兵向けの厭戦プロパガンダラジオ放送に加わらざるをえなくなった。やむを得ずアナウンサーの仕事はしたものの、実際にはプロパガンダになるような内容の放送を行わなかった。 ラジオ・トウキョウには他に何人も女性アナウンサーがいて、「今ごろあなたの恋人は母国で浮気をしているわよ」などと兵士をナーバスにする目的で放送をしたが、逆にそのセクシーな声と語り口でGIに人気を博したという。それが「東京ローズ」と呼ばれる女性だった。本書の主人公アイバの声は本来ラジオアナウンサーになれるようなものではなく、単に流暢なアメリカ流の英語が話せるから抜擢されたのであって、米兵たちの言う「東京ローズ」とは別人であることは明らかだったという。 ところが自身がなにげなく「東京ローズ」と呼ばれるアナウンサーであるとしてしまったために、証拠も不十分なまま反逆者として裁判にかけられ、嘘の証言をもとに有罪とされ、投獄されてしまう。取材していた新聞記者の大半は無実であると思っていたし、陪審員も当初は12人中10人が無実としていたにもかかわらず、人種的偏見と当時のアメリカ政府の方針から強引に有罪とされてしまったものである。 ドウス昌代本人もあとがきで書いている通り、処女作だけに文章の硬さが感じられるものの、緻密な取材をもとに書かれた労作である。第二次大戦直後、冷戦初期のアメリカがどのような国であったか、アメリカに住む人々がどのように日本との戦争をとらえていたか、この書によって垣間見ることができる。 第二次大戦中は私の伯母や伯父にとってどんな日々だったのか。アメリカ国籍の従兄弟たちに聞いてみたいという思いはあるものの、まだ実現できていない。

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    投稿日: 2015.10.13