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続けることの難しさを諭す『キノの旅』

この10月からTVアニメが放送開始した『キノの旅』をピックアップ!

今回はシミルボンに投稿された瑠華さんのコラムをご紹介します。

続けることの難しさを諭す『キノの旅』

「キノはどうして旅を続けているの?」 「ボクはね、たまに自分がどうしようもない、愚かで矮小な奴ではないか? ものすごく汚い人間ではないか? なぜだかよく分からないけど、そう感じる時があるんだ・・・・・・でもそんな時は必ず、それ以外のもの、例えば世界とか、他の人間の生き方とかが、全て美しく、素敵なものの様に感じるんだ。とても、愛しく思えるんだよ・・・・・・。ボクは、それらをもっともっと知りたくて、そのために旅をしている様な気がする」 ―――短編連作の形で綴られる人間キノと言葉を話す二輪車エルメスの旅の話。今までにない新感覚ノベル!

喋るモトラド(二輪車)のエルメスと共に、主人公キノが旅をしていく様子を描く本作品。独立した国を転々と旅していく中で、キノは色んな人々に出会い、様々な考え方に触れる。訪れる国にはそれぞれ特徴があり、時には行き過ぎたルールや固定概念で縛られている住民たちの姿が描かれている。

時には、自分の生き方に何の疑問も持たずにいた人間が、国外から来たキノという異分子によって気付かされるというシーンもある。自分の思想で凝り固まった人間に対して、あえて接触を試みようというのはなかなかどうして面倒なことだ。しかし、キノはそこをあえて踏み込んでいく。子どもでもない、大人でもない、そんな中立的な立場にいるキノだからこそ、人間の醜さや間違いに敏感でいて、それを指摘することができるのだろう。

変化を恐れずに、自ら『変化』を引き起こしていくキノの姿はとても清々しい。キノという新しい風に触れることで、固定概念から解放される人間の描写もやけにリアルだ。もちろん、中にはキノと関わっても自分を変えられない人間がいる。自分を変えられる人間と、変えられない人間の違い。それは、変化を望み、変化を受け入れることができるかどうかという点にかかってくる。

しかし、変化にも二種類ある。自分にとっての良い変化と、悪い変化だ。前者は受け入れやすくても、後者はなかなか受け入れがたい存在でもあり、厄介な存在でもある。この悪い変化を恐れるあまり、変化そのものを望まないという人も一定数いるだろう。

旅を続ける上で、キノは良い変化だけでなく、悪い変化にも出会うことがある。それでも、キノは旅を止めることはない。

「止めるのは、いつだってできる。だから、続けようと思う」と作中でキノは言うのだ。窮地に立ったとき、人は常に『止めるか、止めないか』という選択を求められる。悲しいこと、苦しいこと、つらいことがあったから止めるという選択も時にはいいだろう。それでもキノは、止める選択肢を選ぼうとはしなかった。

キノたちが旅をする中で、出会う人物誰もがキノに対して好意的であったわけではない。否定的な人間たちは時にはキノを攻撃し、時には暴言を浴びせ、時には国から追い出すこともあった。そんな酷い仕打ちを受けても、キノは旅を続けるという選択肢を選び続ける。何故なら、キノにとっては止めることよりも続けることのほうが、ずっと難しいものだからだ。

旅を止めようと思えば、キノの意思次第でいつでも止めることができる。しかし、旅を続けるという選択肢はキノ自身が選び取ることでしか、実現できない。旅そのものを止めることは、キノ自身が決めた人生の時をそこで止めてしまうことにもなるのだ。

何かを成し遂げようとした時、躓くことや挫折することもあるだろう。しかし、そこで止める選択肢ではなく、『続ける』という選択肢を選べる人間こそが、夢を実現させる力のある人間。その中で、『変化』を受け入れることができる人間にだけ新しい道は用意される。

本作は、そんな『続ける』ことの難しさと、『変化』を受け入れることの大切さを教えてくれる。(瑠華)

 

『キノの旅』シリーズ

『キノの旅』コミカライズ

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