
軌道をめぐる雲にひそむもの(オービタル・クラウド)
軌道をめぐる雲にひそむもの
【日本SF大賞受賞】2020年、流れ星の発生を予測するWebサイト〈メテオ・ニュース〉を運営する木村和海は、イランが打ち上げたロケットブースターの2段目〈サフィール3〉が、大気圏内に落下することなく、逆に高度を上げていることに気づく。シェアオフィス仲間である天才的ITエンジニア沼田明利の協力を得て、〈サフィール3〉のデータを解析する和海は、世界を揺るがすスペーステロ計画に巻き込まれて――
第35回日本SF大賞、第46回星雲賞日本長編部門受賞作。デビュー作『Gene Mapper』が比較的地味な設定で書かれたお話だったのに対し、本書は舞台が一気に世界全域(東京、テヘラン、セーシェル、シアトル、デンバー、宇宙)にスケールアップされたことが特徴だ。テクノスリラーという惹句にある通り、物語のスコープは直近のロケット工学と、現在考えられうるIT技術の範囲に収まる。また、表題「軌道をめぐる雲」には、複数の意味が込められているようだ。
2020年末、民間宇宙船による初の有人宇宙旅行が行われている裏で、奇妙な現象が報告される。それはイランが打ち上げ、軌道を周回するロケットの“2段目”が、自律的に軌道を変えるというありえない現象だ。流星の情報を流すウェブ・ニュース主催者、天才的プログラマ、サンタ追跡作戦中のNORADの軍曹、CIAの捜査官、情報が隔絶された中で苦闘するイランのロケット工学者……世界に散在する彼らは、やがて1つの事件に巻き込まれていく。そして、ネットを自在に操る事件の首謀者が浮かび上がってくる。
直近の未来なので、国際政治の情勢は今現在と大きく変わらない。イラン、北朝鮮と悪役の顔ぶれも同じだ。ただし、本書は国家と国家の争いを描いているわけではない。民間宇宙船のベンチャー起業家と娘、直観力に優れた小さなネットニュースのオーナー、廉価なラズベリー(組み込みプロセッサを載せた小型ボード)で並列システムを組む女性ハッカー、宇宙に憧れるインドネシア人ら米軍関係者、現象を発見するアマチュアの資産家、中韓国語を自在に操る凄腕のJAXA職員、巧妙にITを駆使する工作員などなど、ほぼ全員が極めて個人的動機で行動を決めている。そういった個性/個人が、衝突/合従し合うドラマなのだ。宇宙人とのコンタクトの夢は、まだまだ叶いそうにないが、ここでは巨大システム=国家抜きで、目の前の“近い宇宙”に挑もうとする実現可能な夢が描かれている。(岡本俊弥)
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バーチャルリアリティ技術と遺伝子組換作物が浸透した近未来、謎の塩基配列を持つ稲に秘められた陰謀に迫る、本格SFサスペンス。



