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才能より情熱。(羊と鋼の森)

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今回は『羊と鋼の森』(宮下 奈都 著)を取り上げます。

才能より情熱。

羊と鋼の森

ゆるされている。世界と調和している。それがどんなに素晴らしいことか。言葉で伝えきれないなら、音で表せるようになればいい。「才能があるから生きていくんじゃない。そんなもの、あったって、なくたって、生きていくんだ。あるのかないのかわからない、そんなものにふりまわされるのはごめんだ。もっと確かなものを、この手で探り当てていくしかない。(本文より)」ピアノの調律に魅せられた一人の青年。彼が調律師として、人として成長する姿を温かく静謐な筆致で綴った、祝福に満ちた長編小説。

何かをプロの域まで極めようとすることは、大変です。

私は、ずっとライターになりたかったのですが、どうすれば良いか全然わからなかった。

だから手始めに、ブログを書きました。そして、ライターの専門学校に行って、本もたくさん読んで、編集部に就職をしようとしたけど全滅して(笑)。

それから、ライターとはかけ離れた職種に2つほど就いて、それでもあきらめきれず、「フリーライター募集」のwebサイトに応募して、運よく拾ってもらって……なんてことを経験しました。

自分の書く原稿にお金が発生するようになってからも、不安は尽きることがなかったです。

文章力の高い人はたくさんいます。上を見たらキリがない。

しかもフリーなんて、いつ契約が切られるかわからない。

そもそも、自分の書く原稿がおもしろいのかどうか……。困ったことに、今でも自信は全然ない。

ですが、誰に頼まれたわけでもないのに、気がついたらいつもパソコンに向かっています。

何かを書いている時間が、とても好きです。

だから、細々とでも、続けているのだろうなと思います。


2016年に本屋大賞を受賞した宮下奈都作『羊と鋼の森』(文藝春秋)は、ピアノの調律に魅せられた、20歳の青年・外村(とむら)くんの物語です。

高校時代、体育館で板鳥さんという天才調律師が調律したピアノの音に憧れて。それから2年ほど調律師の専門学校に通って、板鳥さんの勤務する、楽器店に就職して2年の青年のお話です。


本書は、ピアノが奏でる優しい音が聞こえて来るような、とても静謐で、美しい物語でした。

「美しい」と感じるものに、本を読んでいる間中、ずっと守られているような気がしました。


外村くんは、山の集落で生まれ育ちました。そこには中学までしかなくて、義務教育を終えると、みんな山を降ります。山育ちのため、彼は木や花の名前をよく知っています。

「森に育ててもらった」ことは、彼の調律師としての人生に、大きな影響を与えることになるのです。


彼は、毎日たくさん悩みながら、時には挫折を繰り返しながら、ピアノの調律の仕事にコツコツと、真剣に向かい合います。

ピアノは、鍵盤を叩くとハンマーが連動して垂直に張られた弦を打ち、音が鳴る仕組みになっているそうです。

ハンマーは羊毛を固めたフェルトでできていて、これが硬すぎてもやわらかすぎても良くないらしく、調律はとても細かい作業の連続のようでした。

ですが、柳さんという、優しい先輩に見守られながら……!

お客さんがどんなピアノの「音」を希望しているか、自分はどんなピアノの音を目指しているのか、メモをとりながら、勤務時間外も事務所のピアノを必死で調律し直していました。また、何冊も調律の本を読んで、家では毎晩ピアノ曲集を聴き込んで……。思いつく限りの努力はしていました。


それでも外村くんは、「自分には才能がないのではないか」と怖がっていました。

そんな彼に、柳先輩が言った言葉がとても印象的でした。

「才能っていうのはさ、ものすごく好きだっていう気持ちなんじゃないか。どんなことがあっても、そこから離れられない執念とか、闘志とか、そういうものと似ている何か。俺はそう思うことにしてるよ」(125P)

外村くんは、ピアノは「どこかに溶けている美しいものを取り出して耳に届く形にできる奇跡」かもしれない、と思います。

その美しさを届けるために、あきらめずに前を向き続けた姿勢は格好良かった。

時には、恋をしたり、一見イジワルな先輩に責められたり、ピアノのコンサートに行ったりしながら。

才能というより「好き」という気持ちや、抑えきれない情熱を、何よりも大切に、自分もコツコツと頑張り続けたい、と勇気づけられる物語です。(さゆ)

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