
Serendipity ~偶発的な出会い~ vol.38 たかが言葉、されど言葉

一世を風靡した番組『チノパン』の愛称で親しまれた、元フジテレビアナウンサーの千野志麻さん。現在、フリーとして多方面で活躍しながら、3人の子供の子育てに奮闘する日々。そんな千野さんが、今あらためて気づいた「言葉」のチカラ。アナウンサー時代のエピソードも交え、「言葉」について語っていただきました。
言葉って何だろう?

アナウンサーは言葉を操る仕事です。フジテレビでアナウンサーとして勤務した6年間で、話し方の技術はもちろん、人前で話をするときの心構えから、美しい話し方、突き詰めて言えば「言葉とは何か?」ということまで、たくさんの大切なことを学びました。
私は静岡県の沼津市出身。小学校6年生のとき、地元を離れ、東京でクラシックバレエのレッスンを受けていた時期がありました。「~でしょ?」という語尾を、沼津では「~だら?」と言うのですが、東京の友達に「それ、どういう意味?」と聞かれたことがあって、そのとき初めて、「え、これって普通じゃないの? 方言なんだ!」と気づいたんです。日ごろ、当たり前のように使っている言葉遣いやイントネーションを、当然“標準語”だと思い込んでいた私にとって、言葉を意識した最初の経験でした。
情報を、きちんと正しく美しく伝えること
大学生時代、あるテレビ番組のアシスタントをしていたことがあります。それまで、大勢の人の前で話すことはもちろん、カメラの前で話をした経験なんてゼロ、完全にシロウトだった私は、毎回怒られてばかりでした。最初は、緊張しすぎてヘンな抑揚になったり、聞きとりにくかったり、棒読みだったり…。やっとしゃべることに慣れてきたと思っても、言わなければいけない内容に集中しすぎてしまうと、今度はしぐさや表情がぎこちなくなる。情報を、きちんと正しく伝えることの難しさを痛感する日々でした。
アナウンサーになってからは、多くの現場を経験することで、伝わりやすい発声や発音、声のトーンやベストな笑顔、表情など、話し方のテクニックを身につけることができたと思います。こればかりは、本当に場数を踏むしかないんですよね。それから、“見られている”という意識。カメラの先には何万人という人がいます。表情やしぐさはもちろんですが、意外と皆さん、ふだん耳慣れない発音やイントネーションに敏感なんです。アナウンス室では先輩方がいつも細かくチェックしてくださり、ずいぶんと鍛えられました。
聞き上手こそ話し上手
同時に、聞く力も鍛えられました。アナウンサーと言うと、話す仕事が中心だと思われがちですが、実際は話すことと聞くことの割合は半々くらい。相手が気持ちよく話し、会話を盛り上げるようなあいづちやリアクションは、先輩たちから学びました。特にトーク番組やバラエティー番組は、台本があるようでないんです。くるくると変化するその場の空気や相手の状況に合わせて、こちらも対応しなくてはいけない。入社1年目でいきなり担当した『チノパン』では、緊張のあまりこちらばかり話してしまって、どちらがゲストだかわからない状況になったり、うまく会話が続かなくて質問攻めにしてしまったり。自分がしゃべりすぎてしまうのではなくゲストの方から自然と多くの話を引き出す、聞き上手こそ話し上手なんですよね。
そんなふうに、話すこと、聞くことに日々集中していると、どうしても「言葉」に対して敏感になってしまいます。電車の中やお店などで、人々が話す口調や強さ、語尾やイントネーションetc. 日々暮らしている中でも、ついつい気になってしまう。どんなにキレイにメークをしても、精一杯オシャレをしても、その人が発する残念な言葉ひとつで、魅力は半減してしまうものなんです。
鏡のように、伝染する言葉

先日、ドキリとしたことがありました。うちの子が「なんか~」と言うのを聞いて、「私、“なんか”ってよく言ってる?」と夫に聞いたら、「よく言ってるよ」と。私自身、それが自分の口癖だと言うことに気づいていなかったんですよね。びっくりすると同時にこれは本気で気をつけないと、と思ったんです。それ以来、子供に真似をされてもいい言葉を意識するようになりました。子供と過ごすオフの時間、気持ち的にもちょっと油断しているときについ口にしてしまう「チョー」や「マジで?」「~じゃん」といった言葉は、まるで鏡のように、そのまんま子供たちに伝染します。気をつけなくては…。
親の口癖が子供たちに伝染するように、美しい言葉遣いや気持ちのよい話し方も周囲に伝染します。実際、アナウンサー時代に学んだ話し方の技術や言葉に対する心構えは、コミュニケーションという域を越えて、私のその後の人生に、素敵な出会いやたくさんの幸せをもたらしてくれました。実際、私の周囲にいる人たちは自然と言葉を大切にする人たちばかり。挨拶ひとつとっても、とても気持ちいいんです。
ただ伝えるだけではなく、心の奥まで届くように
そんな中、あらためて言葉について考えさせられる出来事がありました。今、子供たちに絵本を読み聞かせるボランティア活動をしているのですが、子供たちは大人以上に言葉に敏感なんです。正しくわかりやすく読むだけではダメ。子供たちが本気でワクワクし、ドキドキするように、心を込めないといけません。つまり、情報をただ伝えるだけでなく、心の奥にまでしっかり届くように話すこと。そのためには、その場の状況や雰囲気を把握し、相手の気持ちに寄り添い、言葉を選び、自分が何を伝えたいのかを明確にすることが必要なんだと実感しました。
それにしても、言葉って本当に奥が深い。言葉が自分をつくり、言葉が出会いを引き寄せます。だからこそ、ときどき立ち止まって、自分の発している言葉や話し方を見つめ直してみてほしい。当たり前過ぎてつい忘れがちな言葉について、もっと興味をもってもらいたい。よき話し方は、よき人生まで運んできてくれる――。私はそう信じています。
Text/Miho Tanaka(staffon)
千野さんの著書紹介
『幸せをつかむ言葉の習慣』
千野 志麻(著)/メディアファクトリー

話し方が変わると、多くのチャンスが巡ってくる――。元フジテレビアナウンサーの千野さんが自身の経験をふまえ、聞いて美しい、見ても美しい話し方の作法を伝授。発音・発声法から使えるあいづちのフレーズ、笑顔の作法まで具体的なアドバイスはもちろん、言葉が人をつくるといった千野さんの哲学まで、余すことなく綴った1冊。
千野さんの素顔を拝見!
大好きな1冊
『華麗なる一族』/ 山崎 豊子(著)/新潮社

「子育てに忙しく、なかなかじっくり小説を読む時間がないのですが、今夢中になっているのは、山崎豊子さんの小説。リアリティがあって骨太なところが好き。特に『華麗なる一族』に登場する女性は、控えめなようでいて芯が強いんです。そんなところにも惹かれます」
気になる三冊
『くじけないで』/ 柴田 トヨ(著)/飛鳥新社
『母になったあなたに贈る言葉』/ 浜 文子(著)/清流出版
『世界一ぜいたくな子育て』/ 長坂 道子(著)/光文社

「最近気になるのは、やっぱり子育て系の本ですね。ママ友達に勧められたり、タイトルに惹かれて購入したり。『くじけないで』『母になったあなたに贈る言葉』は、子育てでちょっと疲れ気味のときに読んで号泣…。言葉のひとつひとつが心に染み込みました。『世界一ぜいたくな子育て』は、世界の子育て事情がわかって、これでいいんだ! と自分の子育てに自信がもてた本です」
Profile
千野志麻(ちの・しお) アナウンサー

1977年静岡県生まれ。2000年フジテレビに入社、1年目にトーク番組『チノパン』に抜擢され話題に。2005年に退社後、フリーとして雑誌やテレビ、ラジオなどで幅広く活躍中。著書に『30代からのしあわせ子育てノート』(アスコム)がある。現在、小児科病棟などで子供たちに絵本を読み聞かせるボランティアチーム『VOiCE』のメンバーとしても活動中。
※今回撮影したカフェは、千野さんのお気に入りの読書スポットでもある「ARK HiLLS CAFE」。「テラス席でのんびりひとりで読書するのもよし、子供たちと一緒にママ友たちとランチするのもよし。広々とした空間が気に入っています」と千野さん。





