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すべては等価交換? いいや等価交換など不可能なものがある(鋼の錬金術師)

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今回は『鋼の錬金術師』(荒川 弘 著)を取り上げます。

※ネタバレあり

すべては等価交換? いいや等価交換など不可能なものがある

鋼の錬金術師1巻

兄・エドワード・エルリック、弟・アルフォンス。2人の若き天才錬金術師は、幼いころ、病気で失った母を甦らせるため禁断の人体錬成を試みる。しかしその代償はあまりにも高すぎた…。錬成は失敗、エドワードはみずからの左足と、ただ一人の肉親・アルフォンスを失ってしまう。かけがえのない弟をこの世に呼び戻すため、エドワードは自身の右腕を代価とすることで、弟の魂を錬成し、鎧に定着させることに成功。そして兄弟は、すべてを取り戻すための長い旅に出る…。

弟の体を取り戻すために、真理にたどり着くために。旅をする錬金術師兄弟の物語。

漫画を読まない人でもタイトルくらいは聞いたことがあることでしょう。アニメ化・映画化もされた超有名作品です。


これだけ長いストーリーで、たくさんの伏線をすべてキレイに回収したことに拍手喝采です。

最終決戦の迫力と、そこで命を賭した人々と。そして最後にはすべてがおさまるべきところにおさまった。

連載とともに思いっきりハマっていたので、様々なものがみごとに組み上げられた最終回では思わず涙、涙でした。


この世界の『錬金術』は、魔法としてではなく科学知識の結晶として描かれています。陣を描いて術を発動というのはファンタジーそのものですが、現実の物質の構成や化学反応ありきの術なので。

私は化学系の知識には疎いのですが、詳しい人ならまた違う楽しみ方もできるのかもしれません。もっと理科の勉強しておけば良かったな。


一方、ストーリーはとてもとても哲学的。子供でも抵抗なく読める哲学書、くらいに言ってもいいのかもしれません。

『鋼の錬金術師』を入り口に化学・哲学・神話伝承といったものに興味を持つ子どももいたことでしょう。そういう意味でも素晴らしい作品です。


作中において、人体錬成は禁忌であり、いまだかつて成功した者はいないとされています。

しかし、母を喪って禁忌に手を出した兄弟は、『真理』を見ます。人体錬成の代償として大切なものを「持っていかれる」ことを、身をもって知ることになるのです。

これはつまり、「命と等価交換できるものなど存在しない」ということに他なりません。

人体錬成というものを逆にしてみれば、「『人を構成する物質一式』を買って揃えてきたので、あなたのお母さんと交換してください」と頼んでいるということだからです。


そんなこと言われて、エドワードとアルフォンスが「いいよー等価交換だもんね、お母さんあげるね」なんて言うだろうか?

我が子を生き返らせようとしたイズミ師匠が、「オッケーじゃあ私の子持って行きな☆」なんて言うだろうか?


そんな訳ないんですよね。

人体錬成を試みるということは、生き返らせようとした対象が「そこらへんで買って揃えられる物質」と同等のものだ、と認めたことになってしまうということ。

その人が死んで嘆き悲しんで、禁忌に手を染めてしまうほどに大切な存在であったはずなのに、それ自体を自ら「否定」してしまうということ。

そんなことは『禁忌』であり、手を出してはいけない。

だから成功するはずがない。だから人体錬成をしようとした者は、体の一部を奪われてもう二度と「大切なもの」を得られない体になってしまう。


大切なものを自ら「否定」してしまったしっぺがえしは強烈です。


と、ここまで書いたこれは表面だけさっと撫でたようなもので、深掘りすればもっともっと哲学の要素がたくさん出てきます。

「人の命はかけがえのないものなんだよ!」などという言葉を使わずに「人の命と等価になるものなど存在しない」ことを大きな大きなテーマにした作品。

しかも完成度が高く、画力も高く、子供でも読める。

こんな作品はなかなか生まれるものではありません。ぜひすべての学校の図書館に置いていただきたいところ。(春雪)

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