
Serendipity ~偶発的な出会い~ vol.16 アインシュタインと宇宙と書道

書道家という枠を超え、テレビやラジオ、講演やトークショーに引っ張りだこの武田双雲さん。そんな武田さんの本棚には、宇宙や分子、細胞にまつわる本がぎっしり。科学者になりたかったという理系少年が書道家になったきっかけや、書道家としてこれから伝えていきたいことなど、意外な素顔に迫りました。
書を通して、眠っている好奇心に火をつけたい
空の色はどうして変わるのか、葉っぱが落ちるのはなぜか、など小さいころから質問魔だったんです。毎日目にするすべての現象が不思議で、小学校では授業中、手を挙げて先生を質問攻めにしていました。だから、先生からも友達からも完全に浮いた存在でしたね。中学生のときにアインシュタインの相対性理論にハマって、宇宙とか量子とか次元とか、僕の“知りたい熱”はさらにエスカレート。興奮し過ぎて友達に「次元とか量子とか波長とか原子とか、超、すげーんだよっ!マジで感動的なんだ!」と熱く語るヘンな理系少年でした。当然、周囲はみんなドン引き(笑)。今思えば、中学・高校・大学時代の男子なんて、好きなコの話やオシャレの話で盛り上がるお年頃。なのに、「ちょっと待って。今、水たまりに葉っぱが落ちたんだけどさぁ」なんて語るヤツ、いちいちめんどくさいですよね。誘ってくれる友達も少ない、僕にとっての暗黒時代でした。
見慣れたはずの母の書に、心から感動した瞬間

将来は、漠然と科学者になりたいと思っていましたが、大学卒業後はNTTに入社。当時は、営業マンとして仕事をしながら、インターネットの仕組みやインターネットがもたらす社会への影響など、膨大な量の本を読みました。すると、そもそも社会変革って何?社会って何?と、またまた知りたい熱に火がついて…。偉人伝から歴史、宗教、ビジネス、政治、心理学、ありとあらゆるジャンルの本を読み漁りました。
知れば知るほど「世界は興奮に満ちている!」と、感動の塊に。小さくてもいい、僕にも何かできないだろうか?この感動や興奮を伝えることはできないだろうか?と考えるようになりました。そんな中、実家に帰ったとき、見慣れているはずの母親の書をふと見た瞬間、激しく心動かされました。心に迫ってくるものを感じたんです。そのとき、3歳から叩きこまれた“書”で、僕なりに何か発信していこうと決めました。
言葉を超えて伝わる、“書”のもつチカラ
会社を辞め書の道を模索する中、ストリートで書を書いているとき、失恋をしたばかりだという女の子がやってきました。何も言わず“愛”と書いたら、「いい字だね」って彼女は号泣。もちろん、僕も号泣(笑)。たくさんの言葉を尽くすより、たったひと文字の書で伝わるんだ、と初めて痛感した瞬間でした。書く側の想いと、受け取る側の想いが交差して、何万倍にもなって伝わり合うんだと。
“書”には、圧倒的な情報量があります。人間は、会話や歌など、伝えたい想いや情報を言葉にします。中でも文字は、言葉の力を目に見える形で具現化したもの。ときどき、ノートの切れ端に書いた文字や手紙の字など、「文字を見られるのって恥ずかしい」という人がいますよね?それってきっと、文字にはその人の“人となり”が現れるからだと思うんです。その人の生き方が、裸のまんま、出てしまうから。だからこそ、書道をやっていると、どんどん「人間」について深く考えるようになるんです。
ウザがられた理系少年は、ひるむことなくこれからも感動を伝え続ける

僕は今、ものすごく幸せです。あの暗黒時代、ウザがられた“感動や発見を伝えたい衝動”を、僕の書や本やブログを通して受け止めてくれるたくさんの人に出会えたから。
僕には、まだまだ伝えたいことがあります。とにかく、朝起きてから眠るまで、感動の嵐なんですよ。水道すげー、パスタすげー、夕焼けすげーって。ウザいでしょ(笑)。ただ歩いているだけで、空を見上げるだけで、空気を吸うだけで、驚きとか発見にぶちあたってしまう。毎日が楽しくて仕方ない。そのきっかけは、きっと幼少時代からの人並みはずれた好奇心。それを増進させたのはアインシュタインや宇宙や分子や細胞について書かれたたくさんの書物でした。宇宙も世界も人間の体も、想像をはるかに超えた神秘に満ち溢れてる。まさに発見と感動のオンパレードなんです。
でもね、誰だって、本来、感動したりワクワクしたりするチカラをもっているはずなんです。僕の書や言葉が、そんな“感動魂”に火をつけ、日常生活の中で新たな発見や興奮、好奇心を呼び覚ますきっかけとなれば、このうえなくうれしく思います。
武田双雲さんの紙で味わう一冊
『新・細胞を読む 「超」顕微鏡で見る生命の姿 』/山科正平(著)/講談社

出合った瞬間、鳥肌が立ったという一冊。「人間の根源や神秘が詰まってるんです。卵子に精子が突き刺さった瞬間、つまり受精の瞬間の写真は僕の人生を変えました。一億個の精子のうち最後まで勝ち抜いた、たった1匹の精子が卵子に到達して僕らは生まれたわけです。つまり、1位を勝ち取ったヤツから生まれたんです。そう考えると、もっと自信をもっていい、小さなことでクヨクヨするな、と思えた感動の一冊です」。最先端の電子顕微鏡を駆使し、細胞の動きを追った迫力の写真が満載。
Profile
武田双雲(たけだそううん) 書道家

1975年熊本県生まれ。3歳から母である書家・武田双葉(そうよう)に師事。東京理科大学理工学部卒業後、NTTに入社、約3年の勤務後、書道家として独立。湘南で多くの門下生を抱える書道教室「ふたばの森」を主宰する一方で、数多くのアーティストとコラボレーションしたパフォーマンス書道が話題に。NHK大河ドラマ『天地人』、映画『北の零年』などの題字を手がけるほか、『世界一受けたい授業』(日本テレビ)など各種メディアに出演。著書に『武田双雲にダマされろ』(主婦の友社)、『水で書けるはじめてのお習字』(幻冬舎)など多数。ブログ「書の力」は1日5万アクセスを超える。






