
【Reader Store 10周年祭り特別企画】Reader Store 10年間で最も読まれた小説『火花』の著者 又吉直樹さん スペシャル・インタビュー
Reader Storeのこの10年。小説ジャンルで売り上げナンバーワンを記録したのは、2015年の第153回芥川龍之介賞受賞作であり、現役芸人・ピースの又吉直樹さんの小説処女作でもあった超話題作『火花』でした。出版から約5年。改めて『火花』を振り返るとともに、タレント活動と精力的な創作活動を両立されている又吉直樹さんに、作家としての今と作品に寄せる想いを伺いました。

『火花』で芥川賞を受賞してからは……しんどかった。その理由は?
――Reader Storeではこの10年たくさんの小説作品を提供してきました。その中でもダントツの人気を博し、小説ジャンルでの売り上げナンバーワンを記録したのが、又吉さんの第153回芥川龍之介賞受賞作『火花』です。
ありがたいですね。始めは文芸雑誌(『文學界』2015年2月号)に書いて、単行本になったのは2015年の3月やったんですけど、当時も芥川賞受賞作で一番売れた本になったとか、そんな話もよく聞きました。それだけ話題にしてくれてたんやなと、改めて思いますね。
――今でこそ、又吉さんの作家活動は当然のこととして受け入れられていますが、当時は現役お笑い芸人の方が芥川賞作家となる快挙を成し遂げられたということもあり、大きな話題を呼びました。又吉さんご自身もブームの渦中にいらっしゃったと思います。ご本人はどのように感じられていましたか?
割と客観的に見てましたね。作品と自分とは切り離して考えるんで、「そうなんやなぁ」みたいな感じで。舞い上がるというよりは……芥川賞を受賞してからの何年かは、どっちかと言うとしんどかったです。
――しんどかったですか。
そうですね。僕に限らず、先輩の作家さんに聞いても受賞した後の何年間かは、けっこうきついと皆さんおっしゃいます。「又吉くんなんか、あんなに話題になってるから大変やろ?」と。めっちゃ注目されるし、次どうすんねんと、同じ経験してきた方には言われましたね。
――次回作へのプレッシャーがすごいと。
それだけでもないですかね。僕はもともと小説を書こうとは思っていなくて、小説が大好きな読者であり、作家に対するリスペクトもある中で、書くことを始めたんです。もちろん小説が好きな人に対する仲間意識みたいなものもある程度あるんですが、自分が書く方に回った時、「1作目が話題になっているけど、2作目はどうなのか?」と、1作目を読んでない人によく言われたんですよ。
ということは、本の内容どうこうじゃなく、「その本がどういうふうに広がっていったか?」というのが、見世物にもなりうるんやと。僕は「本が読みたい」「本を書きたい」という「本」本来の機能を純粋に信じて書き始めましたけど、もうちょっと商業的なものにも結びついているんやなと。カッコいいと思ってた作家さんが、意外とミーハーやったり(笑)。そういうことも、一気に確認してしまったなぁという感じですかね。

――“好きが仕事になってしまったあるある”かも知れないですね。
そうですね。下手したら……今の僕の経験があって5、6年前に戻ったら、「書かない」という選択肢もあるかと思うくらい、削られるものは大きいですね。お笑いもそうなんですけど、子供の頃は何を観ても「おもろいな~」と思って笑っていましたけど、自分がその世界に入ると、若い頃は同世代で活躍している人を観ても、悔しくて絶対笑われへんかったし、なんやったらチャンネル変えるくらいでしたから(苦笑)。
僕にとって異ジャンルの心の糧……音楽、文学、漫画、演劇、映画という数本しかない柱の中の巨大な大黒柱(=文学)が仕事になってしまったというのは、日常とか生活に関わる重大な問題でしたね。だから『火花』以降はマンガを読むほうがちょっと増えたり、小説じゃなくエッセイや海外文学のほうが手に取りやすくなりました。やっぱり僕も人間なんで、「小説読もうかな、これ面白そうやな」と思っても、「そういえばこの人、なんか俺のこと言うてたな」と思ったら、なんか読む気がしないですし。
『火花』『劇場』『人間』の主役達はどう生まれたか
――そういう人間味にあふれた人物は、又吉さんの小説の主人公としてもよく登場されていますね。
そうですね。
――売れない先輩・神谷と神谷を師と仰ぐ後輩芸人・徳永の漫才に掛ける日々を描いた『火花』も、又吉さんご自身が生きてきたお笑い芸人の世界が舞台。又吉さんご自身が芸人であることを含めて、登場人物の設定や描写には、ご自分の分身のようなものを反映されているのですか?
『火花』は、自分がモデルではないんですけど、自分が見てきたこと、自分が体験したことや風景を書き込んではいるので、反映しているものはあります。ただ……例えばそれが小説ではなく、同時期の僕自身の自伝を書くんだとしたら、『火花』の登場人物の考え方も、文章として編集する場面やポイントも大分違うものになったでしょうね。相方との関係性を書くこともできるでしょうし、子供の頃から好きやった芸人さんとの関係性で書くこともできる。でも、あくまで『火花』は先輩と後輩との関係性を書こうと思った小説なので、そういう意味では、主人公は僕自身ではないですね。
――小説2作目の『劇場』は、プライドは高いが作品を生み出せない小劇場の劇作家・永田と大学生の沙希との恋愛と青春の日々を描いた作品ですが、そこには又吉さんの経験も書き込まれたのでしょうか。
『劇場』は、「恋愛小説を書いてみないか?」というお話を編集者さんからいただいて書き始めたものなんですけど……恋愛は書けないと思ってたんですよ。人と真剣に付き合った経験がなさすぎて。自分の体験談で書くと、かなり偏ったものになるか、自分の話そのものになってしまいそうだから、「書けないです」と言ってました。
――それでも挑戦された。
そうですね、いろいろ考えつつ。だから自分と距離を取るために、あえて演劇というものを持ち込んで、一定の距離を保っていきましたね。でもそんな中でも、これはとても自分に近いなと思うところもある。なので、芸人を描いた『火花』よりも『劇場』のほうが、もしかしたら私小説と言われるものに近いかもしれないです。……なんですけど、むしろ世間では『火花』のほうが僕本人の話として読まれてしまって、そこでもまた「そうなんやなぁ」と気付きました。
なので3作目の『人間』は、あえて僕自身を意識して書いたんです。話としては、『火花』や『劇場』みたいな語り手を置いたんですが、それをみんなは又吉やと思って読むわけじゃないですか。僕がそのつもりではなくても。で、途中で“完全に僕みたいなヤツ”が出てきたら、「みんなはどうやってこの本を読むんかな?」と思って、意識的に登場人物を設定しましたね。
――なるほど! 『人間』は、絵や文章での表現を志してきた38歳の永山が、芸術家志望の若者が集まる「ハウス」での苦い共同生活を回顧しながら、当時からわだかまりを抱えていた仲野と作家として成功した影島とのトラブルを目にして……と、物語が展開していきますね。たしかに影島は、又吉さんを彷彿とさせる人物なので、ついご本人を投影しながら読んでしまいますね。
やはり、そうなるもんなんでしょうかね。

『人間』で挑戦した新聞小説というライブの場
――又吉さんの小説は毎作品、新しいことに挑んでいらっしゃる印象がとても強いです。『劇場』では恋愛小説を書くこと自体が又吉さんにとっての大きなチャレンジになりましたが、『人間』では初の新聞小説(2018年9月~2019年5月まで『毎日新聞』夕刊に連載)に挑戦されました。『人間』は登場人物同士の苦いやり取りも、とても生々しく感じられますね。
最初から出口、結末を設けず割とライブっぽく作っていたから、というのもあるかもしれないですね。『火花』も最後の最後は書きながらに任せていったんですけど、それでも8割くらいは「こうなるやろな」と思いながら書いていった。でも『人間』はそうではなかったですね。
――あえて決め込まずに書いていった理由は?
僕は芸人なので、ずっとライブをやってきたんですね。ライブは内容を作り込んで上手くいく場合もありますが、必ずしも上手くいくというものでもない。ほぼアドリブの時に、「アドリブでやってなかったら、これは絶対に自分では思いつかないな」ということがトラブル的に起こって、それが結果的に面白くなることがあるんです。作り込むのも面白いし、“ザ・ライブ”みたいにその場で作っていくのも面白いし……というのを、20年やってきている。
もしかしたら、僕くらいのキャリアで小説を書くときに、プロットをあらかじめ書かないのはどうなんかな? とも思ったんですが……新聞でやるんやったら、それがいいんじゃないかと。新聞というのは、その日に起こったことが載っている。そういう媒体で、日々の空気感みたいなものを感じ取りながら書けるというのは、ライブとしてはうってつけの場所なんですよ。

――確かにそうですね。新聞はライブです。
作家としては、新聞小説を書くなんてまだ早いよなぁと思いながらも、1回、そっち側のやり方でやってみようと思いましたね。実際は、上手くいったところ、上手くいかなかったところ、両方ありましたけど。締め切りにも追われながらでしたけど……でも書けない! ってことはなかったですね。締め切りに間に合わない! とか、面白くない! とかはありましたけど(笑)。
『火花』も詰まらずに書けましたね。ほぼ3ヵ月ぐらいで書いて、1ヵ月半くらいで直したり、文章を削ったりして仕上げたんです。筆が結構止まったのは『劇場』ですね。覚えているだけでも3回くらい中断して、「ちょっと無理です……」みたいな。辛いわ、書いてて! みたいなことはありましたね。
小説の糧となる人間観察には、人に意見を聞きまくる
――ちなみに、又吉さんはどういう環境でいつも執筆されているんですか?
ほぼ24時間態勢ですね。書きつつ、しんどいなと思ったら休んで、また書いて……をつなげている感じですね。小説だと、最初にノートに書いてから、パソコンで仕上げることが多いです。
――毎日ですか?
毎日ですね。家のベッドの布団で寝るのは、週のうち半分ぐらいじゃないですかね。大体、何かを書きながらソファーで寝て、起きて、また書いてみたいな感じになってしまってます。でも、このやり方は我ながら良くないと思ってるんですよ。疲れが取れへんから結局、休憩する数が多くなりますし、トータルすると普通に寝るよりも寝てるんちゃうか? と(笑)。自分でも早く、締め切りに追われるんじゃなく、攻めの姿勢で執筆を前向きに終わらせていけるサイクルに入りたいんですけどね。
――先ほど、小説の登場人物にはご自身を反映することがあるとおっしゃっていました。日頃から街中で人間観察をしたり、周囲の方を反映した人物を登場させる作家さんもいらっしゃいますが、又吉さんはいかがですか?
人間観察というか、人にすごく質問したりはしますね。小説を書いてる時に、「この先どうしようかな?」とか「自分はこう思うけど、他の人はどう思うんやろ?」という時は、飲みの席とかで小説の話だとは言わずに「こういう時どう思います?」みたいな感じで話を振ってみたり。知らん人から話しかけられた時も、こっちから質問しまくって、いろんな人の考え方を普段から集めているところはありますね。登場人物も、僕の場合は、ちょっとどこかにモデルみたいな人がいます。ただそれは一人じゃなく、複数人で一人の人物を作る感覚ですね。
――以前、松任谷由実さんが歌詞を書くのに、ファミレスで人の話に耳を傾けていたというエピソードを聞いたことがありますが、又吉さんもそういうことをされたり?
あ、僕もそれに近いですね。人物の台詞も、「いかにも物語の中やな、ちょっと整いすぎてるなぁ」という台詞より、「ちょっと変やな」と引っ掛かるほうがいい。しかもその辺に転がっている、日常、街で耳にしたような台詞を使いたい。そういう言葉はなかなか自分の頭だけで考えるのは難しいんで、よそに探しに行ったりしますね。
――そういう日々の努力があってこそ、あの繊細で端整な表現が生まれてくるんでしょうね。
いえいえ。日々修行ですよね。日々修行しながらも、自分の才能や能力で、自分が思ってるところまで行けんのかな? 無理ちゃうか? と思ったりもしますけど……常にチャレンジはしていたいですね。

「語るより行動」する人物は、自分への言い聞かせでもある
――そのチャレンジもそうですが、『火花』『劇場』『人間』と、又吉さんの小説には必ずといっていいほど、“頭で考えていてもダメ、自分が動かなきゃ何も始まらない”と行動を起こす人間と、言葉ばかり達者で何も動かない人間との対比が描かれ続けていると感じます。やはり又吉さんにとって、「動くこと」は大切でしょうか。
なんか、気を抜くとさぼっちゃうんですよ、僕。何もしないことが結構得意なんですね。だらだら寝て、起きて、ボーッとしたり、本を読んだり、メシを食うて散歩したり……。それを続けろと言われたら、なんの苦もなくできちゃうんです。だから僕は、間にいる人間なんですね。何でも思いついたらすぐ動いて、行動して、失敗して経験を積んで乗り越えていく人はとても素敵やなと思うし、なんもせーへんヤツの気持ちも、両方分かるんですよ。ただ、嫌なんは、何もしてへんのに「俺、凄いで!」って言ってるヤツ。「やってたら俺もできてたで」とかね。そういうダッサイのだけは嫌で、せめて自分でチャレンジしてボコボコにされて、「すんません! できませんでした!」って言ってるほうがマシやなと思うんです。だから「動いた方がいいで!」って、自分に言い聞かせてるんですね。
――『火花』の神谷先輩がまさに、ガムシャラに動く人でしたね。
報われてないですけどね(苦笑)。でもそっちのほうがええでしょう。あと、それで分かったことがあるんですけど、口で「俺凄い!」と言ってる時……まぁそこまではっきりと人前では言わずとも、人に認められたくて、「俺は誰々にこう褒められたんだ」とか、「俺は今まで3冊の小説を書いたんやぞ」とか、自分のことを人に良く説明してる時って、自分が調子悪い時なんやろなぁと思うんですね。
――あっ! そうかも知れません(笑)。
調子がいい時は、そんなことも言わずにもう小説を書いてるか、書いたものを読んでもらってる時なんです。停滞している時こそ、そういうことをしちゃう。「俺は昔、悪かった」とか、「昔はモテてた」というのも同じことなんですよ。女の子と後輩と一緒に飲んでて、僕も「中学校の時、引っ越したら女の子に告白されたことがあんねん」って、言いたくなる時あるんですよ。でも、それは調子が悪い時。今モテてる時に、わざわざそんなこと言わない。不安やから言ってしまう。だから語るより行動なんです。自分で自分が凄いと言える何かを作るための行動をしているほうが、僕は虚しくないなぁと。
――それが、又吉さんが毎日、小説に向き合う理由であり、モチベーションの高さを裏付けるものなのかもしれないですね。そして『火花』以降は特に、小説執筆のオファーも続々舞い込んでいるのではないかと思いますが?
新しいオファーというよりも、以前からお付き合いのある編集者の方との約束を頑張らないとという感じです。『火花』も『劇場』も『人間』も、僕が20代、30代前半に、「芸人じゃなく作家として小説を書かないか?」と言ってくださった方と約束した本だったんです。当時はさすがに、芸人としてまず世に出ないと相方(ピース・綾部祐二さん)に申し訳ないんで、「ちょっと待っといてください」と言って、やっと実現したものでした。あと何人か、そういう編集者さんがいらっしゃるので、あと何年間かかけて、その約束はマストで果たしていきたいです。
――新作も楽しみです! この記事を読んでくれている方の中には、『火花』や『劇場』を実写映画やドラマ、コミカライズで知った方もいらっしゃるかも知れません。そういう方には、ぜひ原作小説もReader Storeで読んでいただきたいですね。
そうですね。そうなってくれたらいいんですけどね。映像化も、こんなにたくさんやってもらってありがたいことです。原作を手に取ってもらえる機会も増えますし。映像になった作品も、今のところ僕の作品をちゃんと理解してくださったうえで作品にしていただいてますしね。そのうえで、書き手の視点ではないところから……例えば『劇場』の主人公・永田は、「コイツ、ややこしいヤツやなぁ。でも可愛げもあって笑えるヤツやな」と僕は思いながら書いていたんですけど、映画で観ると……結構酷いヤツで(笑)。小説の場合やと一人称で進んでいくので、そいつの迷いも全て言葉になっているんですが、映像作品は客観的に描かれるので、それも一つの真実。ぜひ小説のほうの真実も、楽しんでもらえたらいいですね。
撮影/荻原大志
取材・文/阿部美香
【profile】
又吉直樹(またよし・なおき)

1980年、大阪府寝屋川市生まれ。吉本興業所属のお笑い芸人。コンビ「ピース」として活動中。2015年、『火花』で第153回芥川龍之介賞を受賞。他の小説に『劇場』『人間』、エッセイに『第2図書係補佐』『東京百景』などがある。また、NHK Eテレ『又吉直樹のヘウレーカ!』を始め、数々のレギュラー番組にも出演している。
【又吉直樹さんの小説作品】
【又吉直樹さん関連作品】
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●プレゼント内容
・直筆サイン色紙 (1名様)
・電子版・小説『火花』 (10名様)
●応募期間
2020年12月15日(火)0:00~2020年12月28日(月)23:59
●応募条件
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当選者の方へは、登録されているメールアドレス宛に2021年1月15日(金)にご連絡いたします。
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