食いしん坊花子さんのレビュー
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このユーザーのレビュー
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君を愛したひとりの僕へ
乙野四方字 / ハヤカワ文庫JA
SFの、切ないラブストーリー
7
こちらの本と『僕が愛したすべての君へ』とは対になっています。
どちらから先に読んでもいいけれど、絶対、両方読んでくだださい!と、懇願したくなってしまうほど、
両方読むことで見えてくる、広がる感動は他…のものではなかなか味わうことのできないものです。
どちらも人を一生懸命愛し、どちらも一生懸命生きている。
そして、平行世界の面白さ、タイムリープの仕組みなどが非常に丁寧にかかれているので
やはりSFとしても、しっかりと楽しめます。
表紙の雰囲気から、若年層を対象にしているのかな?
と読み始めましたが、確かに読みやすいものの、読み応えは本物です。 続きを読む投稿日:2017.04.01
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うつヌケ うつトンネルを抜けた人たち 【電子書籍限定 フルカラーバージョン】
田中圭一 / 角川書店単行本
“うつは心のガン”
7
“うつ”については一度、ちゃんと読んでおこうと思っていて
そのまま読まずにきてしまっていたので「読みやすそうだな」と思った本書を。
“うつ”は、目に見えるケガやなどとは違い、判断が難しいところ。
そ…れをどう判断するか、というよりも
「どう対応していったらよくなったか」というのが体験談で描かれてるので
そこからわかってくることもあります。
自分が“うつ”かどうかということによって読み方も変わってくるかもしれませんが
(とはいえ、体験者の「うつヌケ」は辛いときにこう考えればいいのか!という参考にもなります)、身近な人の“うつ”への対応や、それに悩む人にもヒントになるかと思います。
“うつ”は最近、よく見かける言葉になり、かえってそれが軽く扱われているような場面もありますが本書にある“うつは心のガン”ということを、もっと多くの人が意識できると
“うつヌケ”できる人が多くなるのかもしれない……そんな考えが頭をよぎりました。
ライトなタッチで描かれていますが、
とても親切で理解しやすく、そして真摯な本です。
できるだけ多くの人に読んでほしいなと思います。 続きを読む投稿日:2017.02.24
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制裁
アンデシュ・ルースルンド, ベリエ・ヘルストレム, ヘレンハルメ美穂 / ハヤカワ・ミステリ文庫
傑作です。衝撃も、感動も。そして深い思考を要求される。
7
『熊と踊れ』の著者のデヴュー作の新訳ということで……、
文字どおり「イッキヨミ」でした。今年読んだ本の中で一番の読み応えです。
幼女ばかりを襲う殺人鬼。
その幼女の父親がおこした行動……!
著者は…テレビ局に勤務するジャーナリストと刑務所での服役経験のある男性、二人による共著。
著者たちの議論を下敷きにしているということで、
司法制度や刑務所の問題をえぐりだす社会派小説。
書き出しの女児暴行殺害犯から
娘を失った親の苦しみ。そして暴力の連鎖。
他人の命を奪うことで、子どもの命を守れるとしたら……。
けれど、人の生き死にを決める権利を誰にもないはず。
決して答えはでることはないのだろう問題を投げかけられます。
テーマは確かに重いのですが、この社会で生きていくうえで誰もが考えなくてはならない問題です。
ちょっとおまけですが。
「仕事が自分のすべてになってしまうなんて、ちっぽけで無意味なことだ。なぜって仕事はある日突然終わるのだから。
そうしたら自分もおわっちまうんだろうな」ここの箇所、結構大事だと思います。
当たり前ですがこういうことが書ける人だから、こういうリベラルな思想が礎にあるから
こういうスゴイ小説が書けるのだとしみじみ思いました。
北欧ミステリー人気を支えているのは、
世界的にも水準が高いといわれるリベラルな北欧社会の思想なのかもしれません。
続きを読む投稿日:2017.03.02
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一○一教室
似鳥鶏 / 河出書房新社
怖すぎるから、早く結末にたどりつきたい……
6
とにかく怖くて、怖くて、本当に怖くて、しょうがない。
………、でも、読むのをやめることができない。スゴイ小説でした。
教育の怖さ、も然りですが、
大人たちの勝手さが、猛烈に恐ろしく……。
「怖すぎ…るから、早く結末にたどりつきたい」と、慌てふためき逃げるように読み進めました。
←じゃあ、読むのやめれば?と、思われそうですが、そんなことはできないぐらい、読み応えある、
スゴイ小説です!
教育や大人の勝手さが恐ろしさを煽りますが、
社会の歪みを端的に抉り出す筆はさすがです。
「軍国主義に全体主義。減私奉公と殉死。そういったものにロマンを感じる人間がいるのは知っている。だが、そういう人たちの「ロマン」はあくまで他人の減私奉公であり、他人の殉死なのだ。かくあれかしと叫ぶ人間ほど、自分が苦労する気はない。自らが前線に行くなどとは全く思っておらず、後ろで号令をかけるだけのつもりでいる」
読み応え、抜群です。
続きを読む投稿日:2017.04.11
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母の記憶に
ケン・リュウ, 古沢嘉通 / 新☆ハヤカワ・SF・シリーズ
その佇まいの美しさは、もはや奇跡。
6
前作『紙の動物園』で衝撃を受けたケン・リュウの短編集第二弾。
表題作「母の記憶に」の柔らかな筆致と卓越した抒情性に
拝み倒したくなるような感動を受けました。
素晴らしいです。
繊細すぎるとさえ思え…る美しい佇まい。
もはや奇跡、とすら感じました。
すごいです。 続きを読む投稿日:2017.04.30
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「死ぬくらいなら会社辞めれば」ができない理由(ワケ)
汐街コナ, ゆうきゆう / あさ出版
残業自慢がいつか、恥になりますように。
6
最近、何かと話題になる「過重労働」
比較的強めなタイトルでキャッチですが、中はかわいらしいイラストで
ブラック企業の労働状況と心理状態を淡々とソフトに描いています。
日本人特有なのか、真面目な人特…有なのか
「がんばった自慢」「自己犠牲奨励」の意味不明さをサックリ切り込んでます。
仕事を頑張ることは偉いですよね。
でも、なんのために働いているのか、それを忘れてしまう状態を蔓延らせている今の社会は恐ろしいです。
どうか、こういった本がもっともっと読まれて、
我慢大会な社会が少しでも緩和されますように、と願います。
残業自慢=恥という概念がいつか日本にうまれますように。 続きを読む投稿日:2017.04.23