マルティン☆ティモリさんのレビュー
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79
このユーザーのレビュー
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偽証するオウム
E・S・ガードナー, 宇野利泰 / グーテンベルク21
これからも何度も、メイスンに会い続けたい!
9
昔、まだ学生だった頃、書店に行くと、ハヤカワミステリ文庫の置かれている棚の一角には、ペリーメイスンシリーズの黄色い背表紙がずらりと並んでいたものだった。だがそのころの自分はメイスンよりもエラリイ・ポワ…ロ・マープルだったから、そんな黄色い背表紙を眺め、いつかは読むんだろうなと思いながらもそちらへと手を伸ばすことはなかった。
それから経ること幾年月、いざ読もうと思った時にはもうペリーメイスンシリーズは書店の棚から消えていたのだ(なぜこれほど有名なシリーズが一挙に出版されなくなったのか?謎だ)。
だがご安心あれ。電子書籍に弁護士メイスンは生き残っている。
しかも、この「偽証するオウム」など何冊かがさらに後から追加されもしている!
オウムが法廷で証言!?
一件落着と思いきやさらに驚きの展開が…!?
いや~やっぱり面白い。でも面白いのはこの一冊に限った事じゃない。
実は最近、それまで愛用していたReader端末機が壊れてしまった。それでこれをきっかけに紙の本に戻ろうかとも考えたのだが、そうなるともうメイスンものが読めなくなる!思ったとたん迷わず新しい端末機を購入したのだった。
結局、僕は、常に思い切った策に打って出て依頼人を勝利に導く好漢ペリーメイスンと、有能な秘書のデラ…いい雰囲気の二人が大好きなのだ。本を購入する動機もまた二人に会いたいからなのだ。
大トリックで読者をうならせるというのではないけれど、一作一作、作者の工夫が楽しいペリーメイスンシリーズ。ペリーメイスンシリーズは宝の山です。これからも電子書籍化が進むことを切に望みます。
続きを読む投稿日:2015.09.04
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三つの棺〔新訳版〕
ジョン・ディクスン・カー, 加賀山卓朗 / ハヤカワ・ミステリ文庫
怪奇趣味あふれる古典的名作
8
余りにも有名な作品。
かなり以前の事、旧訳を購入して読み始めたのだが、文章が読みづらくて途中で挫折した。後で知ったところによると、あれは箸にも棒にもかからないほどの悪訳だったらしい。この新訳は読みやす…くて、カーの名人芸が堪能できる。
読者に死人が墓から蘇ったかのような印象を植え付ける奇怪な冒頭から始まって、仮面をつけた男の訪問と、その男の姿が消失してしまう密室での殺人、死に際のとぎれとぎれの言葉、さらにあるべき足跡がない雪道の密室、探偵役のフェル博士による有名な密室講義(この部分は有名な割にそれほど大したものではなかったけれど小説の中の一部なんだからこんなものですね)、そして最後にすべてを合理的に説明づける驚愕のトリック!
ミステリ好きにはたまらない状況の連続で謎の解明まで飽きさせない。
最後のフェル博士による真相の説明の部分はちょっと切れ味に乏しく冗長だったが、あれだけ複雑な謎に辻褄を合わせなければならなかったんだから、こうなってしまうのも仕方ない。トリック自体は素晴らしいものだったし真相の意外性も申し分ない。ミステリの謎とき部分と言えばまあ他の作品でもこんなものだと思う。そこに至るまでの道程が素晴らしいのだ。
未読の皆さん、読み進める際には是非ともメモをお取りになって、提示された謎が様々に変化しながら深まっていく過程を楽しんで下さい!
続きを読む投稿日:2015.05.30
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毒入りチョコレート事件
アンソニー・バークレー, 加島祥造 / グーテンベルク21
アシモフ「黒後家」の好きな人は是非。
7
一所に集まった複数の、知性ある人物たちによるリレー形式の推理合戦。
はじめに問題が提示された後は、もうほぼ全編が推理・推理・推理。
「黒後家」の原点はここにあったのか!
文句なく楽しめます。
(もうひ…とつ、別の出版社からの電子版もあるけど、両方サンプルダウンロードして読み比べた結果、訳文のこなれ具合からこちらのグーテンベルク21の方に軍配を上げたい) 続きを読む投稿日:2014.01.08
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他人を攻撃せずにはいられない人
片田珠美 / PHP新書
スリリングなひと時
7
ひきこまれて一気に読んでしまった。
この本を手に取るのは自分を『攻撃される側の人間』と感じている人だと思う。自分もそうだった。当然、本の内容もそちら側の人間に向けて書かれている。そして、かなり深刻な例…もいくつか挙げられている。
昔に一度、職場でここに挙げられているものとよく似た経験をしたことがあった。自分の性格の傾向も、その時に自分が感じたこともぴったりと当てはまる。そして、その時の相手(攻撃する者)の心理がここに見事に言い当てられていた。うーん、なるほど、そういうことだったのか。
だが読んでいくうち、例に挙げられているものほどに極端な言葉や振る舞いではないにせよ、日ごろのちょっとしたやり取りの中でも、ここに書かれているような攻撃・被攻撃の関係が築かれることはあるなと感じはじめた。『義理』やら『情』やら『善』やら『ジョーシキ』やら、そんな言葉が飛び交う時、それもまた相手への攻撃であるなと。そして自分の中にも攻撃性は確実に存在しているなと。そんな風に感じながら読み進めたせいか、とてもスリリングな読書となった。
結局、人は一枚皮を剥げば、実に図々しくて狡い存在なのだ。
最終章には、攻撃されて苦しんでいる人(即ち気が弱くて自信がなく愛情欲求が強い人…いや、自分も含めてそういう人が意外と無意識的に小狡い人だったりすることがあるようにも思ったのだけれど)に向けての心の持ちようが書かれている。参考になりました。
あ、最後に一つだけ、浮気された奥さんが旦那さんの職場に押し掛けたという話も攻撃性の例のひとつとして挙がっていたけれど、そりゃ浮気されたら攻撃的になってしまっても仕方ないんじゃないでしょうか。ここは違和感がありました。
続きを読む投稿日:2015.05.01
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不安と後悔を捨てる生き方 心が変わる般若心経と脳科学
高田明和 / PHP新書
「苦しみ」がもつ本当の意味とは?
6
同じ高田明和氏によるPHP新書=『他人と比べずに生きるには』の続編と言って良いと思う。よって、氏の著作に初めて接するという方はそちらを先に読まれた方がよいかも。
『他人と…』と重なる部分があって全く同…じ話も出てきたりするが、こちらでは仏教(禅)的な色が濃くなっており、内容はさらに深化している。
僕の場合、日常生活に於いてちょっとした辛さを感じたのが切っ掛けとなり、久しぶりに『他人と…』を再読、とても励まされたので氏の他の本も読みたくなって購入した。
前作とよく似た内容ながら、仏教思想を土台として氏が感じ、また考えを重ねてこられた真実の言葉による語りかけの何と心強いこと。
避けたい『苦しみ』と、つい求めてしまう『楽』がもっている本当の意味に気づかされ、結果、苦しみの泥沼から抜け出すヒントまで与えてもらうこととなった。
続きを読む投稿日:2015.03.14
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主役はダーク 宇宙の究極の謎に迫る
須藤靖 / 毎日新聞出版
自分のレヴェルにはピッタリだった。
6
僕は科学の本が大好き。だから相対論、宇宙論、量子力学系の本を手にすることは多い。そして大抵は途中で挫折する、それでも買ってしまう。よって正確な理解には程遠いものの、僕の頭の中には「ダークマター」やら「…クォーク」やら、とにかくそれ系の単語だけはたくさん詰まっている。
本書はそんな僕(くらいのレヴェルの人で、且つ冗談の好きな人)にはもうぴったりの本だと言って良い。
とにかく面白い!
と言っても、それらの理論が上手く説明されていて知的興奮を覚えるという面白さではなく(いやもちろんそれも無いわけではないのだが、僕の場合そのあたりは他の本で既に興奮済み)、現代物理を語りながらも文章のあちこちに(いやほぼ全編にわたって)くすぐりや脱線があり、それがまた冴えに冴えているのだ。
しかし、語られていることは決してふざけた内容ではないし、むしろ第一線の物理学者さんらしい厳しささえ感じさせる(いや第一線の物理学者なる方々とはお付き合いが無いのでこう軽々しく言ってしまってよいのか分からないが)。
とにかくこんなに楽しく読めた物理の本は都筑卓司さん以来です。都筑さんほどの味わいや品格は望むべくもないが、それを補って余りあるギャグの冴え!
ムチャクチャ楽しんで読みました。現代物理が身近になるよ! 続きを読む投稿日:2016.12.20