あっくんさんのレビュー
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このユーザーのレビュー
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ロシア紅茶の謎
有栖川有栖 / 講談社文庫
有栖川有栖による国名シリーズ第1弾
5
有栖川有栖による国名シリーズ第1弾。
本作は長編ではなく短編なので、隙間時間などを使って気軽に読むことができるが、屈指のミステリ作家である有栖川有栖が手がけているだけのことはあり、いずれも非常によくで…きている。
ラストに据えられた「八角系の罠」には例の「読者への挑戦」も用意され、小粒ながらもピリッとした佳作となっている。
トリックはいささか非現実的と思えるものがなくはないし、解決編で初めて明かされる事実があったりとフェアで無い感がないわけではないが、それも気にならない面白さが本書にはある。 続きを読む投稿日:2013.09.28
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軍師の門 上
火坂雅志 / 角川文庫
火坂雅志による、秀吉の両腕といわれた軍師を描く歴史小説。
5
前半にあたる上巻では主に竹中半兵衛の活躍が描かれる。この、半兵衛の体は弱いが異常なまでに先見性があり、すべての戦の先の先に布石を打っていく様子が、史実だとするとあまりにもすごいし、フィクションだとする…とやり過ぎといえるほどのレベルで、もはや超人の域に達している。しかし、いずれ病に倒れてしまうことや、実際に秀吉の片腕として数々の戦を勝利に導いていることなどから、なんとなく許せてしまうところも作者の計算のうちか。
歴史小説にありがちな凝った文体でもなく、非常に読みやすくテンポも良いので、どんどん読み進めてしまう中毒性も有している。上巻で幽閉されてしまった官兵衛のその後の活躍を描く下巻に向けて一気読みしてしまう。 続きを読む投稿日:2014.04.07
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ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女(上・下合本版)
スティーグ・ラーソン, ヘレンハルメ美穂, 岩澤雅利 / 早川書房
北欧ミステリの火付け役
4
ハリウッド映画化も話題になった、スウェーデン発大河ミステリの第1部。
文庫化にあわせて発売された電子書籍版が上下合冊で安価だったので、購入して読んでみた。確かに冒頭から中盤あたりまでの人間関係を延々と…探る描写は一面、長いなあと思わせるものではあるが、遅々とではあるものの物語が進展し、やがて一つの手がかりを見つけたあたりから徐々に加速して終盤のたたみかけるような流れは圧巻である。
しかも、ある面では解決したと思っていた物語が実は振り出しに戻っただけであったり、大きなどんでん返しが用意されていたり、それがきちんと整然と、ピースがはまるべく片付けられていく様子はミステリならでは。
所々強引に話が進んでいるように感じる部分がないわけではないが、デビュー作でこれだけの完成度はすごい。惜しむらくは作者スティーグ・ラーソン氏はすでに鬼籍に入っていること。禁句ではあるが、もし生きていたらこの3部作以外にどんな作品を書いていただろうかと思ってしまう。 続きを読む投稿日:2013.10.10
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特等添乗員αの難事件 V
松岡圭祐, 清原紘 / 角川文庫
松岡圭祐による、「閃きの小悪魔」が活躍する特等添乗員αシリーズ第5弾!
4
ラテラル・シンキングを武器にいろいろな難題に直面してもうまく切り抜けてきた絢奈も、本作では職場の険悪な空気に凹んでしまう。このあたりは同作者の岬美由紀のようなスーパーウーマンとは一線を画している。最終…的には開き直りにも近い思考の転換でその状況を脱するが、それに至る過程で「絢奈っていい娘だなあ」と思わせられてしまう。
物語は絢奈を中心とした職場の問題と暴力団関係者を中心とした裏ビジネスの問題が絡み合いながら進行するが、いずれも絢奈の手にかかると最終的にうまい具合に解決してしまう。うまく行き過ぎな感は否めないが、相変わらずテンポ良く物語が進行し、ついつい引き込まれてしまうあたり、さすがだなあといつも感心させられる。
次作は万能鑑定士シリーズということで、復活した莉子がどんな活躍をするのか、こちらも楽しみだ。 続きを読む投稿日:2014.03.05
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はなちゃんのみそ汁
安武信吾, 安武千恵, 安武はな / 文春文庫
家族の大切さが身にしみる一冊!
4
がんによって若くして亡くなることを余儀なくされた女性と、がんを患った後で授かったはなちゃんたち一家の足跡を辿る一冊。
著者の一人、千恵さんは20代の若さで乳がんを発症、闘病しながらその日々の様々なこと…をブログに記録していた。発症後、抗がん剤治療などを経て一旦はがんが消え、その間に最愛の娘・はなちゃんを授かる。がんの再発や免疫を抑えるために別の病気を発症するリスクなどとたたかい、ギリギリまで葛藤して産むことを決意。その心の揺れる様も赤裸々に綴られている。
千恵さんはいずれがんが再発し、幼いはなちゃんを置いて死んでしまっても、はなちゃんが生きていくことができるように、まだ幼い時からはなちゃんの身の回りのことは自分でできるように接し、やがては料理も自ら作れるように教えていく。しかも、みそ汁は出汁からとり、具材は極力全てを使うホールフードを実践。米は有機玄米と、食べることが自分の体を健康にし、守ってくれるのだということを身を以て教えていく。
千恵さんは本当に強い人だ。もちろん、くじけそうになったこともあるだろう。でも、愛する家族のために最後まで生きることを願い、でももしもの時には憂いを残さずに行けるようにしていた。こんなことは並大抵の覚悟ではできない。母親になったことが彼女にその強さを与えたのだろうか。
千恵さんが亡くなった後のぽっかりと空いたような二人の生活。愛する人の不在から立ち直っていく様子も描かれている。
家族の大切さ、生きることの意味、食べること、あきらめない姿勢、、、、本書からたくさんのことを教えられた気がする。
家族といつまでも一緒に居られるわけではない、なんて普段は考えもしないが、病気だけでなくいつ事故や事件に巻き込まれて命を絶たれるかわからない。だからこそ今を大切に生きていきたいと素直に思えた。 続きを読む投稿日:2016.01.02
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はやく名探偵になりたい
東川篤哉 / 光文社文庫
迷探偵・鵜飼が活躍する、烏賊川市シリーズの短編集!
4
相変わらず読者を煙に巻くようなユーモア溢れる文体に短編ならではのコンパクトな展開、奇抜なトリックなど、烏賊川市シリーズのみならず、作者の持ち味が存分に生きている。
さらにいえば、短編であるが故に鵜飼探…偵がものすごく「名探偵」に見えてくる。これは、長編での紆余曲折の部分や枝葉末節の部分をそぎ落とした結果、自然とそうなったともいえる。
ラストの「宝石泥棒と母の悲しみ」は「僕」がなにものなのかが鍵を握っているが、そう来たか、と思わせられる。自分的にはややヒネリ過ぎな感を受けた。 続きを読む投稿日:2014.06.30