老人支配国家 日本の危機
エマニュエル・トッド(著)
/文春新書
作品情報
本当の脅威は、「コロナ」でも「経済」でも「中国」でもない。
「日本型家族」だ!
核武装から皇室までを語り尽くすトッドの日本論!
磯田道史氏、本郷和人氏とも対談。
若者の生活を犠牲にして老人のコロナ死亡率を抑えた日本だが、社会の存続に重要なのは高齢者の死亡率より出生率だ。
「家族」が日本社会の基礎だが、「家族」の過剰な重視は「非婚化」「少子化」を招き、かえって「家族」を殺す。
(目次)
日本の読者へ――同盟は不可欠でも「米国の危うさ」に注意せよ
I 老人支配と日本の危機
1 コロナで犠牲になったのは誰か
――「老人」の健康を守るために「現役世代」の活動を犠牲にした
「シルバー民主主義」
2 日本は核を持つべきだ
――「米国の傘」は実はフィクションにすぎない
3 「日本人になりたい外国人」は受け入れよ
――日本に必要なのは「多文化主義」ではなく「同化主義」だ
II アングロサクソンのダイナミクス
4 トランプ以後の世界史を語ろう
――黒人を“疎外”したのはトランプではなく民主党だ
5 それでも米国が世界史をリードする
――民主主義の“失地回復”は常に「右」で起きる
6 それでも私はトランプ再選を望んでいた
――「高学歴の左派」は「低学歴の労働者」の味方ではない
7 それでもトランプは歴史的大統領だった
――トランプの“政策転換”が今後30年の米国を方向づける
III 「ドイツ帝国」と化したEU
8 ユーロが欧州のデモクラシーを破壊する
――ユーロ創設は仏政治家が犯した史上最悪の失敗だ
9 トッドが読む、ピケティ『21世紀の資本』
――貧しい人々には「資本の相続人」よりも
「学歴があるだけのバカ」の方が有害かもしれない
IV 「家族」という日本の病
10 「直系家族病」としての少子化(磯田道史氏との対談)
――日本人は規律正しい民族だが“自然人”としての奔放な面もある
11 トッドが語る、日本の天皇・女性・歴史(本郷和人氏との対談)
――女性天皇の登場は、中国の父系文化への反発でもあった
エマニュエル・トッド(Emmanuel Todd)
1951年生まれ。フランスの歴史人口学者・家族人類学者。国・地域ごとの家族システムの違いや人口動態に着目する方法論により、『最後の転落』(76年)で「ソ連崩壊」を、『帝国以後』(2002年)で「米国発の金融危機」を、『文明の接近』(07年)で「アラブの春」を、さらにはトランプ勝利、英国EU離脱なども次々に"予言"。著書に『エマニュエル・トッドの思考地図』(筑摩書房)、『「ドイツ帝国」が世界を破滅させる』『シャルリとは誰か?』『問題は英国ではない、EUなのだ』(いずれも文春新書)など。
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商品情報
- シリーズ
- 老人支配国家 日本の危機
- 著者
- エマニュエル・トッド
- 出版社
- 文藝春秋
- 掲載誌・レーベル
- 文春新書
- 書籍発売日
- 2021.11.18
- Reader Store発売日
- 2021.11.18
- ファイルサイズ
- 4.5MB
- ページ数
- 256ページ
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この作品のレビュー
平均 3.7 (27件のレビュー)
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日本のネバー・エンディング・ストーリー
「ロシアの対外政策は、拡張的ではなく、理性的な戦略に基づいています。米国とは対照的に一定の抑制が利いていて、軍事大国ロシアの存在は、今日、世界の均衡に寄与しています」
まさか、出版(発言は201…8年)の翌年に、一笑に付していた"ロシア脅威論"が現実のものとなるとは思わなかったんだろうが、それでも本書は短い中に多くの含蓄が含まれていて、やはり勉強になる。
まず、次の覇権国になるのではと恐れられている中国の力については、本書の中でも変遷がある。
人口学的視点から言えば、その出生率の低さと絶望的な男女比(118:100)から、将来に帝国になるなんて予想はありえない、と。
と思ったら、いやいや待て待て、この人口規模はそうは言っても破格すぎて、普通の物差しじゃ測れんぞ、ボリュームがありすぎて何にでも特化できるから、経済発展を続けて、「中国封じ込め」は長期化しそうだぞ、とトーンダウンする。
ただ、米中対立はそれほど悪いものではなく、アメリカにしたら中国という存在が、国内で一体感を生むメカニズムとして働いてくれているし、中国にとっても、このまま外需依存を続けて、"グローバリズムの囚人"であるより、内需依存に転換するチャンスだとも指摘している。
そもそも著者は、ある種の不和や対立を肯定的にとらえることが多い。
曰く、冷戦も悪くなったよな、共産主義との競合があったおかげで、西側は「完全雇用をめざすケインズ政策を実施し、社会福祉を充実させ、リベラリズムを野放しにせず」、黒人も解放されたし、歴史上「最も良い時代」を謳歌することができたのだ、と。
ソ連崩壊後は、アメリカは国内に行き過ぎた不平等的個人主義だけが残され、新自由主義に邁進していくことになったことを考えれば、敵対関係はむしろ有益な効果をもっていた。
そもそも民主主義は、コスモポリタンな普遍的な思想から発生するのではなく、その土台には、エスニックな自民族中心主義的価値観がある。
その意味で、レイシズムは社会の基盤であり、黒人差別は米国の「民主主義の原点」でもあるのだ。
だからというか、ゆえにと言うべきか、現在のアメリカは、本来の原点に戻りつつあるのであり、英国のEU離脱やトランプ現象などの「民主主義の失地回復」が左からではなく、右で起きている理由もわかろうというものだ。
一方で、左の民主党は、とにかく人種差別に反対と繰り返すだけで、平等を促すために過度に能力至上主義に偏重している。
"左派"と"学歴"が密接に結びつき、"高等教育"が"格差是認"、"体制順応"に陥るというのだから、恐ろしく皮肉な事態になっている。
行き過ぎたグローバル化、産業空洞化がもたらした帰結は、コロナ禍でもいかんなく発揮されていて、マスクなどの必須な医療資源でさえ他国に頼らなければ立ちいかなかった惨状は、仏独の死亡率の違いだけでなく、フランス内でもシェルターに保護された地域とそうでない地域とで歴然としていた。
このように、人口動態は経済学よりもずっと信頼でき、乳児死亡率の増加からソ連崩壊を、中年白人の死亡率の高さからトランプ当選を予測した著者は、今回もその知的直観により、コロナによる影響の大きさは、死亡率より出生率に着目すべしと看破する。
もっとも読み飛ばされがちだが、一番重要な指摘は著者の次の記述。
「30年ほど前、初訪日した際、日本ではすでに人口問題が議論されていて、私はその先見性に感心したものでした。当時、ヨーロッパでも少子化は進んでいましたが、とくに問題視されていなかったからです。ただ後に、あれも"議論のための議論"にすぎなかったのだと感じるようになりました。というのも、訪日の度に意見を求められる一方で、結局、この30年間、日本は少子化対策も移民政策も、ほとんど何の手も打ってこなかったからです」
日本における最大の問題の「人口減少」と「少子化」の背景には、家族制度、とりわけ「直系家族的な価値観」が根底にあるだとか、美徳であり長所でもある「完璧さ」が災いしているとか、著者はいろいろと分析してくださっているが、問題はそこじゃないよ。
人手不足があまりにも深刻になって、最近になって、ようやく移民受け入れに舵を切り始めたけど、日本人が問題を解決できないのは、別に「少子化・高齢化」だけじゃないからね。
多分、あと10年、20年経っても「どうしましょうかね?」って言っていると思う。続きを読む投稿日:2022.06.05
-
いくつかのメッセージをまとめた本だから首尾一貫している訳ではなく、本の題名に合ってないようなものも含まれている。しかしながら特に前半は示唆に富むメッセージが多く、少子化への対応については本当に急がない…とこの国はどんどん衰退していくのだろう。
移民の受入れ、同化、教育などは国が先導してやらなくちゃいけないこと。カネを配るよりも先に、である。目指すべきは自国通貨が高くなるような施策であり、それだけお金を払ってでも行きたい、そこで働きたい、と思わせる国づくりだろう。簡単ではないだろうが、目指すべきだ。続きを読む投稿日:2024.01.25
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