この作品のレビュー
平均 4.4 (42件のレビュー)
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ミルグラムの社会実験とそれにおける分析をまとめたもの。実験概要は、被験者は先生役を与えられ、実験者である指導役に、学習者が問題を間違えるごとに電流を流すよう指示される。また間違える度に一段階ずつ電流…のボルトを上げるよう指示され、電流のショックに呻く学習者にどこまで強い電流を流し続けるか?というもの。
実験は色々なパターンを変えて行われたが、概ねの結果としては多くの人は実験者の指示に逆らえず最高レベルまで電流を流してしまうということだった。被験者は特別サディスティックな性質を持っているわけではなく、至って普通の人たちである。それでも指示されると服従してしまう、という怖い結果だった。
そもそも服従とは個が権威システムへ組み込まれることによりエージェント(代理人)状態へ移行することだという。権威システム自体は家族、学校、会社、どこにでもあるし、その組織を安定させ秩序を保つためにはある程度必要かと思うが、その権威システムがイデオロギーを持って本来なら許されない物事にまで正当性を与えてしまうと、エージェント状態へ移行した際に暴走してしまう。そこには責任感の喪失、守るべきルールの変更があり、善良で平凡だったはずの人たちはその新たなルールのもとで感覚が麻痺していく。
またどれだけ自分の行為は許されないことだと思ったとしても、それを途中でやめることは今までの自分の非を認めることであり、集団の和を乱すことでもあり、その集団から報復される危険性があることでもある。なのでやめられない。エスカレートするしかなくなる。
そうした上記の一連はある種の"緊張状態"であるが、その緊張を解消する手段は大まかに2通り、1つは責任を回避する(命令に従っただけ、学習者が間違えるのが悪いetc)、もしくは学習者=被害者から徹底的に目をそらす、見ないようにすること。2つ目は、いよいよ非服従の選択をとることである。ただし後者はかなり精神的コストが高い。もうここまでくると服従する方が楽だ。服従する快楽はここにあるのだなと思う。とにかく"思考停止"の状態、権威者の言われた通りにしただけ、自分では何も考えない、これがその場を切り抜ける最もコストの低い選択なのだと思う。
そういう意味では、ミルグラムの実験にあるように、とある権威のもとで服従の態度を見せ残虐なことをしてしまう危険性をどんな人間も孕んでいるということだ。では、どうすればできるだけそのような事態を避けられるのか、と考えると、「自分がそういう危険性を孕んでいる」ということを「知っている」ということではないか。この実験で比較的早い段階で非服従した被験者やその際に責任転嫁せず自分の非を全面的に認めた被験者がいたが、彼らは欧州出身でファシズム政権を目の当たりにした人であった。
ただやはり、人間がある環境下において残虐な命令に服従してしまうことについては、その権威システムの強さだけではなく、生来からの「弱いものいじめ」欲がその権威のもとで正当化されて爆発している、という側面もあるのではないかと思う。歴史を遡ると弥生時代以降、いわゆる貧富の差が生まれて以降ずっと階級システムがあって、人は自分よりも下の者がいることで自らを保ってきた、と言うと露悪的だろうか。その気持ちが強大な権威システムによって正当性を与えられ最大利用されたのがファシズムでは…?なので「服従」という心理の一側面だけではないのではないか、とは思った。続きを読む投稿日:2021.01.16
ミルグラム実験については名前しか知らなかったが、近所の書店のフェアで表に出ていて気になったので購入して読んでみた。気持ちの良い話ではないが、とても興味深くて自分の場合はどうだろうかと考えさせられる本だ…った。
権威に服従するモードに入ると普段のその人がするとは思えないような残酷な行為でも命令に従って実行できてしまうという心理学実験。権威に服従するというとナチスなどを思い浮かべやすいが、学校で起きるいじめとかでも同じようなことが起きていると思うと、明確な命令がなくても容易に服従してしまうのではないかという気がする。訳者あとがきの批判にあったように人間は残虐性を社会規範という権威によって抑えるようにしているだけなのかもしれない。
集団を作って生きていく上では服従の全てが悪というわけでもないが、会社でも、社会でも、自分が自律して行動できているのかどうか、服従モードに入っていないか、自分に問うていきたいと思った。続きを読む投稿日:2022.06.29
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