海図の世界史―「海上の道」が歴史を変えた―(新潮選書)
宮崎正勝(著)
/新潮選書
この作品のレビュー
平均 3.5 (9件のレビュー)
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もっと海図の復元があれば
地中海とエリュトラー海を含むプトレマイオスの海図にはアレキサンドリアに集積された地図や海図の集大成であり1世紀にはモロッコから中国までの俯瞰的な世界を描き出していた。ここで言うエラトリュー海=赤い海は…紅海、アラビア海、ベンガル湾、インド洋までをひとまとまりの海とした言葉である。モンゴルの海上航路や明の鄭和の大艦隊など東方世界の方が進んでいた時期はあるが明の海禁策によって古代の海図が失われたために、この本では地中海世界から拡がっていく世界史と海図という捉え方をしている。ミクロネシアでもイースター島までの航路が実はあったらしいのだが海図のない世界はほとんど触れられていない。
始まりはマケドニア王アレクサンドロスの東方遠征、これにより商業はギリシア人が主導し、二つの海を結ぶ要所のアレクサンドロスは海上路の起点となった。ローマ時代には地中海は内海の航路が発達したが沿岸のガレー船が主流となり、一方エラトリュー海ではモンスーンを利用した沖合航法がとられた。プトレマイオスの海図は円錐投影法を用いており当時の知識でも緯度や地球の半径はかなり正確に測れたが経度については18世紀まで正確な測定が出来なかった。これが後にヨーロッパで西回り航路を探すモチベーションになっていた。アメリカ大陸をアジアの一部と思うほど近い所だと考えられていたのだ。
プトレマイオスの海図はイスラーム世界を経て、元にも伝えられている。モンゴル帝国は外国商人を登用し、明に引き継がれるまでこの影響は見て取れる。1378年の大明混一図には伝統的な中華世界にインド洋、アラビア半島からアフリカまでが描かれている。アフリカ遠征をした明の鄭和もイスラーム商人の宦官でありここで中国の伝統的なコンパスを使う海域とイスラームの天体航法を使う海域を書き分けた海図が用いられていた。しかし明は宦官を敵視した官僚により海禁政策をとり海図を焼き払い、勘合貿易の世界に閉じこもる。
十字軍の時期から少しずつヨーロッパにイスラーム文明、中国文明が流れ込む。地中海交易の制海権がイタリアに戻ったことからヴェネチア、ジェノバ、ピサなどの商人が台頭していく。逆風で走れる三角帆はダウ船から、コンパスは中国から測天儀はイスラーム世界からもたらされ火薬や大砲、印刷術などが伝わり大航海時代の下地が徐々に出来上がる。コンパスと沖合航法により新たな海図が生まれた。ポルトラーノ海図は複数のコンパス・ローズが書き込まれており主要航路が固定されていった。
マルコポーロのジパング伝説に踊らされ、イスラーム商人を避けてアジアとの交易をめざし大航海時代が始まった。まずポルトガルのエンリケ航海王子がアフリカ沖のカナリア諸島の航路定め、ついで喜望峰へ到達する。バスコ・ダ・ガマのインド洋航海の海図はポルトガル王家により秘匿され次にカブラル船団がカナリア諸島から北東モンスーンを背にブラジルへ向かう航路を開拓した。そのまま南に下り今度は偏西風を背に受け喜望峰をこせばインド洋に出られる。16世紀にはインド航路が固まった。
海図は徐々にスペイン、オランダ、イギリスにも拡がっていく。リスボンからカナリア海流と偏西風によって東大西洋を周回する航路が出来たことが後にコロンブスのカリブ海進出のベースとなったのだが、その海上交通の要所となったカナリア諸島の征圧に成功したのがカスティリャにやとわれたフランス人だった。ポルトガルが砂糖の生産で大きな利益を上げており砂糖貿易をするジェノバ商人に雇われたのがコロンブスだったが、カナリア諸島をベースにすれば簡単にアジアに到達できると信じるようになっていた。しかし実際にはコロンブスは実際には海図のないリスクだらけの航海をし幸運にも大西洋の対岸にたどり着いたのだった。コロンブスが作ったとされる海図は、現在ほとんど残されていない。財産として管理され、航海と探検が進む中で時代遅れの海図として廃棄されてしまったのだろうと考えられている。
マゼラン、キャプテン・クックなどが新たな航路を開拓していくがアメリカ大陸とアジアの交易はなかなか進まなかった。アジアからアメリカに戻る航路がウルダーネタにより発見されたのが16世紀で、その時既に知られていたメキシコ湾流にのってヨーロッパに戻るのと同じような航路が太平洋にもあると考えたのだ。ウルダーネタは黒潮に乗って日本列島東岸を北上し偏西風にのってカリフォルニアに戻る航路を発見した。コロンブスに匹敵するウルダーネタの偉業だがあまりにも知られていないように思える。
せっかくの面白いテーマなのに肝心の海図が通常のものしかないのがやや残念。復元した海図を載せてくれれば当時の世界観がイメージとしてつかみやすいのに。続きを読む投稿日:2015.03.24
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このレビューはネタバレを含みます
紀元前から現代までの人類史を海図の励起を通して、振り返った本、
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庁舎は高校の教師を経て大学の教授となった宮崎正勝氏、2000年以上にわたる人類の通史を海図を通してえがくという視点が面白かった。
地図…は自国を大きく捉えがちであったり、あるいは逆に未知の大陸が(未知故に)大きく描画されたりいろいろと本当の地形図を知る我々からは面白く歪められてきた。
そのなかでプトレマイオスの世界地図は正確なところも不正確なところも含めて後世に与えた影響が甚大であったことがわかる。
大航海時代に欧米はアジアに進出してきたが、あくまでの財をなすためであったことがよくわかる。
イスラム勢力が貿易を担っていたときは非人間的なことはあまりおこらなかったのに、スペイン、ポルトガル、オランダ、イギリス、フランス、アメリカが影響力を持つと。大虐殺、植民地化、奴隷、支配、などパンドラの箱が開かれたようにこの世の災厄が人類に降りかかる。
これは香辛料、貴金属、砂糖などの商品が換金制が高く、保存性があり、比較的軽いという理由によるのだろう。
話は面白いのだが、掲載されている地図が不鮮明でいまひとつ。本の値段が高くなっても大きな地図を載せてもらいたかった。続きを読む投稿日:2022.05.24
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