【感想】夏の終り(新潮文庫)

瀬戸内寂聴 / 新潮文庫
(71件のレビュー)

総合評価:

平均 3.5
13
15
24
8
1
  • 「雉子」が一番好かった

    作者の小説は初めて。連作を含む5篇の短編私小説集。私小説というだけあって、男女の感情の機微、特に主人公である女性の感情が繊細に綴られている印象を持ったけど、最後の「雉子」が子供に対する感情が胸に迫ってきて一番好かった。続きを読む

    投稿日:2024.04.29

ブクログレビュー

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  • らむきー

    らむきー

    習慣になった不倫は断ち切ることが難しい。

    という言葉に度肝を抜かれた。
    不倫が習慣だと? 私たちが普段特に何も考えず、ただ体に染み付いたルーティンのように行っているもの。例えば歯磨き、靴を履く、ご飯を食べる、スマホを触る。
    そんな、とくべつ頭で何も考えなくても自然にできるような習慣化したものの1つに、不倫だとは。

    瀬戸内寂聴はアッパレです。
    感情の言語化が非常に巧みだな。

    そして、本の中で妻子持ちの慎吾と付き合いながら、同じく同時進行で関係を持っている涼太から
    「僕はあなたにとってどんな存在か?」
    と問われたとき、
    主人公の言った
    「憐憫よ」
    という返しにも驚愕した。「P77」
    その時は、へぇ〜憐れみ、可哀想っていう自惚れのような気持ちで付き合っているんだなぁと斜に構えて解釈してしまったのだが、
    改めて考えると、自分にもそんな憐れみの気持ちで付き合っている存在がいなくも、ない、な。
    始めは愛があり、好きなんだけど、本命に気持ちが傾くにつれ2人へ注ぐ愛情は等しくなくなっていく訳で、いつの間にか平行だった天秤はどちらかへ大きく傾き、軽さに上へ上がった方への扱いがぞんざいになってしまう。
    インスタントでキープのような愛人。
    それに比べて、肉体関係を持たなくとも、ただ2人でいるだけで幸せを感じる。浄福という。それが不倫相手だとしても。いや、不倫相手だからこそなのかな。
    2人でいる時間が8年も続けば、それは習慣となるだろう。十何年と毎日行ってきた食後の歯磨きを、今日から止めなさいと言われたら嫌だし違和感感じまくるもの。
    それが恋愛相手ならより一層、断ち切るのは容易ではないのだろう。

    そして、この物語が瀬戸内寂聴の経験に基づいた私小説だということだから、更にリアリティは増す。人生は経験だよ、と身に染みて感じる。
    不倫したことないのに、あたかも自分がしているように思えてしまうから、文章力はさすがだと感じた。

    印象的な文章↓

    P39 愛は抽象的な聖心の貴族であり、肉欲はその前では無様な道化にすぎなかった。

    P117 歳月に綯いからまれた習慣は、裁ち切る努力をするよりも、そのまま巻き込まれていく方が、はるかに安易で楽なのだ。心も安堵の倦怠感になかば満たされかけていることに気づいてぎょっとした。
    ↓慎吾と別れる決断をする主人公のシーン
    P164 別れという土壇場にのぞんでも、知子は新語に切りつける刃があるのなら、それで時分を傷つける方がやさしかった。
    (好きな相手、愛することが習慣化した相手を傷つけるなんてできないもの。)

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    投稿日:2024.05.21

  • り

    短編五つから成る。最後以外の四つは登場人物も同じ連作な感じで、最後のみ異なっている。
    著者の本はおそらく初めて読んだけど、これは私小説ということでちょっとびっくりした。私が知っている著者は、既に出家されお年を召してからの活動で信奉者が多数いるように見受けられる方だったので。出家前の氏については全然知らなかった。
    なんというか、情熱的かつ衝動的な方だったのだなぁという印象。
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    投稿日:2023.07.10

  • Anne

    Anne

    いかにも、瀬戸内寂聴さんの本です!という題名の、『寂聴 九十七歳の遺言』、『愛に始まり、愛に終わる 瀬戸内寂聴108の言葉』などの本よりも、この本や、『あちらにいる鬼』、あと少し毛色が違うかもしれないが『おちゃめに100歳! 寂聴さん』などの方が、インパクトがあって寂聴さんを身近に感じられるような気がする。
    解説にもあるように、「悪魔と愉しみを分つ部分」が拡大されていても、それが深められ、「普遍性を獲得し」ているからなのだろうか。
    『和泉式部日記』も読んでみたくなった。
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    投稿日:2023.05.25

  • Chisa

    Chisa

     5つの短編からなる連作集。1〜4作目がひとつの物語、5作目だけそれとは独立した物語になっている。とはいえ、どちらも著者の私小説的な内容であることに変わりはない。前半は長年の不倫相手だった井上光春氏との間で揺れ動く心境を、後半は前夫との間に生まれた娘との別れと、それに伴う苦悩をテーマにしてそれぞれ描いたものと思われる。

     この本の前に井上荒野さんの『あちらにいる鬼』、同『ひどい感じーー父・井上光春』を読んでだいたいの関係性は把握していたから、それを寂聴さんの視点からトレースし直したような感じ。必要以上にこねくり回すようなまどろっこしい文体で、読んでいて疲れた。内容もああそうですかという印象で途中で飽きてしまった。同じ題材を扱うにしても、井上荒野さんのようにドライな文章ならまだしも、こういうねっとりした文章で読むのはなかなかしんどい。内容も相当ねっとりしているし。

     寂聴さんの本は初めて読んだけれど、もういいかな。
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    投稿日:2022.12.15

  • kuma0504

    kuma0504

    映画「あちらにいる鬼」がとても面白かったので、面白かったのに、本書を紐解いた。映画は、中年を過ぎて男と確かに別れるために尼になるまでの、男と瀬戸内寂聴とその妻の不思議な三角関係を、淡々と描いたものだった。

    本書も、著者と不倫男とその家庭との不思議な三角関係が出てくるが、映画の不倫男と本書の不倫男は現実でも別人である。むしろ、映画の前日譚だった。知っていて紐解いた。

    1960年代。未だ不倫が不貞と言われていた時代だ。刊行年は昭和38年(1963年)。瀬戸内晴美(寂聴)が、新進の小説家として台頭していた頃。もしかして未だ井上光晴(「あちらにいる鬼」での不倫男)にも会っていないのかもしれない。晴美(もちろん、小説内では別名になっている。職業も違う)は、経済的に男に依存していない事を誇りにしている。現代ならば当たり前だが、当時としては娼婦以外では画期的だったのか。その他、女性から別れを切り出すとか、新しい不倫の形を描いたとして、当時は意義のある小説だったのかもしれない。

    連作短編で前四篇は登場人物は同じで、むしろ長編の雰囲気。知子(晴美)は、売れない小説家の小杉と8年間付かず離れずの関係を持っていたが、昔の男と寝てしまった事をキッカケとして別れを切り出す。現代になって読んで驚くのは、あまり知られていなかった井上光晴との不倫の構造とあまりにも似ていたことである。

    ・知子は小杉と不倫の終わりかけに、やはり若い男とも関係を持ってしまう。
    ・小杉の妻は、長い間小杉の不倫を知りながら、知子を非難したり小杉を非難したりする事なく、淡々と過ごしていた。
    ・知子は小杉との関係を精算するためには、小杉が通ってくる自宅を畳んで他所に引越しをしなければならないと思い込む。男はそれを淡々と受け入れる。

    コレは井上光晴の娘・井上荒野が書いた「あちらにいる鬼」と同じ経過だ。引越しの代わりに、もっと徹底的な「尼になる」ことを晴美が選んだに過ぎない。瀬戸内晴美は、全く同じ事を井上光晴との関係で繰り返したのだろうか。詳しい人はいるかもしれないが、今回そこまで調べることができなかった。

    短編集の最後の1篇「雉子」だけは、登場人物の名前を変え、彼女の最初の不倫から子供を捨て、次の不倫の顛末までざっと振り返っている。そこで、以下のように「まとめ」のような記述がある(牧子とは瀬戸内晴美のこと)。

    男に溺れこむ牧子の情緒は、いつの場合も、とめどもない無償の愛にみたされていた。それは娼婦の、無知で犠牲的な愛のかたちに似ていた。(略)牧子の愛は充たされるより充したかった。たいていの男は、おびただしい牧子の愛をうけとめかね、あふれさせ、その波に足をさらわれてしまう。結果的にみて、牧子に愛された男はみんな不幸になった。

    ←決定的な不幸を招く直前に、晴美は寂聴になったのだろうか?
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    投稿日:2022.12.13

  • 小林晶

    小林晶

    このレビューはネタバレを含みます

    「あふれるもの」から「花冷え」までは連作の短編。はじまりから終わりまで、丁寧な心情描写が続く。紆余曲折を経た二人の境地は。
    道を外れて、人として終わりなのだとしたら、終わりの先、さらに終わりの先まで行き…、それでもまだ二人は生きていて。
    文章が綺麗で、深く、良い小説だと思いました。
    「不倫」と「出家」という壁が立ちはだかり、なかなか読めずにいた。読んでよかった。

    短編「雉子」は心重い。

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    投稿日:2022.11.18

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