【感想】黒牢城

米澤穂信 / 角川書店単行本
(613件のレビュー)

総合評価:

平均 3.9
166
236
150
19
7
  • "羊たちの沈黙"より、"オセロ"を思い出す

    問答無用、弁解不要で人を殺めても許され、何なら常に凶器を帯刀している武人中心の世界で、ミステリが成立しうるのか、解き明かすべき謎が果たしてあるのか?
    本書は舞台を単に戦国時代に移しただけのミステリとは異なり、武士としてのあるべき振る舞いという、この時代設定でなければ通用しないロジックで物語を成立させ、最後の最後に、序盤から丁寧に張られていたすべての伏線が回収され、連鎖的にコンポが決まるように、物語全体を通底する見事な構図が浮かび上がる。
    一連の犯行の動機と史実が結実するラストは、まさに歴史ミステリの金字塔。

    ミステリ的な側面とは異なり、歴史小説としてみると傑作になり損ねている。
    自らの野心のために謀反を企て、立て篭る城に妻や近習、家臣を残して単身脱出し、親しき者たちや配下の者たちが揃って反逆者として成敗される中、ひとり畳の上で大往生を迎えた荒木村重には、これまでも何度か動機の解釈が試みられてきた。
    卑近な例では、漫画『へうげもの』で数々の名物の茶器を風呂敷に抱えて逃げる村重に、「これがわしの生き様や」という名台詞を吐かせて、身内を犠牲にしても、批判上等で、生に対する尽きせぬ執着と飽くなき強欲ぶりを描いていた。

    本書では荒木村重の城脱出の裏に黒田官兵衛の策謀があったとする面白い解釈が試みられているが、その後の結末の付け方が中途半端で、『へうげもの』のような新しい荒木像を生み出したとは言いがたい。
    長引く篭城と毛利の援軍が期待できぬと気づき始めた城内で連発する不穏な事件に城主・村重は謀反人の存在を疑うが、実は城の守り人は他にいたという展開と、夜な夜な地下牢で交わされる官兵衛との語らい、そして単身城を出る決断が、もっと有機的に連関して、史実に対する新しい解釈を呈示してくれれば、大傑作となっていただろうに本当に残念。
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    投稿日:2021.10.29

ブクログレビュー

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  • kozakura

    kozakura

    戦国時代ミステリ。なるほどとは思ったし読み応えはあったが意外と目新しさがなかったというか米澤穂信じゃなくてもという感じ。それと主人公は主人公で書ききってもらったほうが好みだった。

    投稿日:2024.05.04

  • 七海

    七海

    このレビューはネタバレを含みます

    戦国時代を舞台としたミステリー小説。
    閉ざされた有岡城の内で冬、春、夏に起こる事件の真相と、城の地下に囚われた官兵衛の企み、有岡城と荒木村重の行末が気になって読み進められた。
    ミステリーのトリックに関しては単純で個人的には読んでいる中でなんとなく犯人が想像できたり先が想像できたけれども、モチーフが戦国時代なので新鮮に感じた。
    登場人物が多いのでメモを取りながら読んだ。

    レビューの続きを読む

    投稿日:2024.04.29

  • tonari0701

    tonari0701

    時代小説ということで、これまで読んだ米澤穂信作品の中では一番読むのに苦労したかもしれません。荒木村重のことは名前くらいしか知らず。信長に謀反を起こして有岡城に籠城した荒木村重が、そこに幽閉した黒田官兵衛の助言によって城内で起きた事件を解決する連作短編ミステリ。
    戦国時代なので、兎に角めちゃくちゃ人が死ぬ。そして、命の軽いこと、軽いこと…武士が己の名誉を重んじて死ぬのは現在の価値観だと全然理解できないし、何より子どもや関係ない庶民たちが容赦なく殺されるのが辛い。やっぱり戦国時代は苦手。
    でも、最後まで読むとさすが米澤さんだなぁという展開で。黒田官兵衛の復讐の見事さに感嘆する。しかし、時代の流れの中で因果は複雑に絡み合って何が原因なのかも分からなくなる…。
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    投稿日:2024.04.27

  • kakane

    kakane

    着眼点が素晴らしい。荒木村重と黒田官兵衛を「羊たちの沈黙」のクラリスとレクターとして舞台設定を整え、籠城の緊張感の中、謎を解いていく。しかし、その対応には村重の望み?が、官兵衛の思惑が反映していく。
    特に村重の追い込まれていく胸中が、非常にうまく描かれていて、舌を巻く思いだった。史実での村重は、直情型の武人と感じ、なぜ謀叛を犯したのか?官兵衛を土牢に監禁したのか?謎の部分もあったが、それも村重の揺れ動く心の内から納得いく返答をもらったように感じた。続きを読む

    投稿日:2024.04.21

  • みい

    みい

    前評判に飛びついて予約して読みました。
    戦国時代大好き、ミステリ大好き、主人公黒田官兵衛の盟友「竹中半兵衛」推しの私は、ちょっと期待し過ぎていました。

    投稿日:2024.04.16

  • roi-ronin

    roi-ronin

    直木賞受賞作品、米澤穂信さんということで読んでみました。
    日本史は全く詳しくないので、荒木村重が有岡城に篭城、黒田官兵衛を拘束して土牢に監禁していたことを知らない状態から読み始めました。
    言葉遣いが当時のものになっているので、読みづらかったが、知らない言葉が多分にあり、勉強になった。

    武士の時代の話を読むと、命の軽さを感じる。
    自分はこの時代に生まれなくてよかったと毎度感じる。

    ミステリ要素が強く、発生する事件的なものの解決を村重が進める中でつまずき、官兵衛に助けを乞う流れ。
    官兵衛かっこいいと思いつつ、なぞの状況(有能であると認め、恨みがあるわけでもない官兵衛を劣悪な環境に監禁しながら助けを求める)だと、思うが、これもまた武士の世界か。
    ミステリだけでなく、武士の上下関係、色々と注意して発言する必要があること、城内政治があり、これもまた勉強になった。
    村重の孤独がすごい

    めちゃくちゃおもしろかった!でもないのですが、なかなか楽しめたのと、勉強になったということで星4
    続きを読む

    投稿日:2024.04.07

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