【感想】マチネの終わりに(文庫版)

平野啓一郎 / コルク
(543件のレビュー)

総合評価:

平均 3.9
170
163
115
27
9
  • 人生はわからないことばかり

    おすすめに表示されるまま試し読みをして、吸い込まれるようにそのまま購入していた。「マチネ」の意味などわからないまま。

    恋愛小説とあるが、トレンディドラマの様な恋愛描写ばかりの単純なエンタメではなく、芸術に見入られた人が直面する残酷な才能の差、身もだえするような嫉妬、戦争と震災という人知を越えた暴力、自由意思と運命を巡る理不尽なままならなさ、といった人生そのものがその下地に濃密にあり、まさに(渡辺淳一的なエロティックな意味ではない)大人の恋愛小説。

    とりわけ主人公のギタリスト蒔野の演奏の描写は、文字でこれほど音楽に心捕まれる瞬間を描ききれるものかと作者の力量に、それこそ嫉妬しそうになる。

    書誌説明だけ読むと、大人の許されない恋、凡庸な不倫でも描いたように思えるが、この本は人の魂を揺さぶる怨念のような、これぞ文学、と思える迫力がある。

    出会えてよかった。
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    投稿日:2016.04.14

  • 不完全なところも見たかった。

    40代の恋愛がテーマ。
    主人公の二人とほぼ同世代なので、パートナーへの愛は冷めても子供への愛情は冷めない、とか、心というかメンタルが思わしくないときは、刺激よりも癒しのほうが必要なのはそうだろうな、とか、やっぱり人生で一番好きだった人のことは忘れることはできないなぁ、等々、理解できるところは思った以上にあった。
    でも、この主人公の二人、美しくて才媛な女と、天才ギタリストの男という、あまりにも完全すぎて嘘っぽいというか、一昔前の話っぽく感じてしまった。
    まぁ、そのせいでいらぬ嫉妬を受けるわけだし、つまらぬ横やりが入って遠回りをするわけですが。
    二人が完全なので、ギタリストの妻になった女のした行為にあんまり苛立たなかった。
    この二人が感情的に怒ったり、苛立ったりしている様子が見たかったかもしれません。
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    投稿日:2016.08.28

  • 過去は変えられる

    音楽を言葉にすることの難しさはしばしば言われることだが、言葉の世界だから存在し得る音楽というものも確かにある。現実にそこまで完璧で美しい演奏にはそう容易く出会えるものでもなく、出会ったとしても自分の耳がその美しさを、その一音の持つ意味を聴き取ることができるか。書き手の優れた耳と言葉を借りて仮想体験することでしか味わえない音楽というものもあるのだ。
    ストーリーの本筋ではない部分で(でも極めて重要な要素として)この本から強く感じたことである。

    ある程度の年月を生きていれば、過去を振り返って「あの時こうだったら」等と思い、変えられない過去を悔やんだりすることもあるだろう。しかし、主人公であるギタリスト・蒔野聡史は言う。
    「人は、変えられるのは未来だけだと思い込んでいる。だけど、実際は、未来は常に過去を変えてるんです。変えられるとも言えるし、変わってしまうとも言える。過去は、それくらい繊細で、感じやすいものじゃないですか?」

    蒔野と、彼が出会った小峰洋子との関係もまた、その距離を都度変えながら絶えず過去を問い、過去の持つ意味を再定義しつつ進む。二人とも40歳を過ぎ、一日に例えれば午後に差し掛かった辺り。そのラストシーンの美しさに打たれる。
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    投稿日:2017.05.22

  • ページがなくなっていくことがとても悲しかった

    実写映画化されるということで最近よく予告がやっていて、作品を知りました。
    予告をみて映画まで待てず尚且、原作が気になり読みました。
    物語の背景、人物の表情がすごくわかりやすくかかれており、
    人物の言葉が沢山心に突き刺さりました。

    ページ数がどんどん減っていくことに悲しみを覚えながら読みすすめました。終わってほしくなかったです。
    二人のことをもっとみていたかった。と、そう思いました。

    映画ももちろん観に行こうとおもいました。
    素敵な作品でした。何度も読みたいと思えるほどに。
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    投稿日:2019.06.29

  • 全く新しい恋愛小説

    大変なボリュームの情報量と描写で描く国際的ラブストーリーに震える。
    月並みだが極めて大人のラブストーリーだ。
    こういうのもっと読みたい。

    投稿日:2019.09.29

  • その後はあえて書かなかったのか

    主人公の男女の行動や感情のすれ違いが、もどかしくも興味深かった。
    文章もエピソードも思慮深さを感じさせた。
    正に二人が再開しようとするところで終わっているけど、その後については書くと野暮になったのかなぁ。続きを読む

    投稿日:2019.12.01

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ブクログレビュー

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  • naru

    naru

    40代を目前にした男女の物語。

    複雑でいて美しい。そして儚く苦しい。
    情緒の揺さぶられる作品です。

    お互い分別のつく年齢だからこそ、慮って行動のできなかったこと。取り巻く環境で度々訪れる様々な選択肢。決断した先に待ち受けている未来。

    気持ちに折り合いをつける難しさとやるせなさ。幸せとの向き合い方を、彼らを通じて考えさせられました。
    続きを読む

    投稿日:2024.03.20

  •  arata

    arata

    このレビューはネタバレを含みます

    夜に薄明かりで、ジャズでもかけながら静かに読書をするのがこんなにハマる本は初めてです。大人の恋愛小説といったところ。教養がない私が「教養のある文章」とこの本を評するのは畏れ多いので「上品な文章」と言いたいです。

    三谷が蒔野の携帯から洋子にメッセージを送ってしまいます。「別れてくれ」、と。
    携帯電話が恋愛にもたらした功績は偉大です。ちょっとなくしただけで平成なのに昭和かよというくらい見事にすれ違ってしまう蒔野と洋子。
    それがもう読んでて辛くて、いっとき読むのをストップしてしまいました。図書館に返す期日が迫ってきたので再開しましたが、そこからは一気に読みました。

    「人は、変えられるのは未来だけだと思い込んでる。だけど、実際は、未来は常に過去を変えてるんです。」
    序盤で蒔野が言ったセリフです。「あ、本書のテーマなのかな」というくらい胸にストンと小気味よく刺さってくる言葉でした。そのダーツの矢のようなセリフはやはり後半じわじわ効いてきましたね。

    ずべての真相を知った二人が、その悪夢のような過去を葛藤しながらも受け入れ、そしてまた引き寄せられるラストもぐっときましたが、いちばんぐっと来たのは、洋子が映画監督である父の過去にあった出来事を質問する場面。
    家族を守るために離婚をした父。結果愛する人は今も平和に暮らせている。だけど洋子は「でも、お父さんとは暮らせなかった」と涙を流します。私も号泣。静かに洋子の過去が変わった瞬間でした。

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    投稿日:2024.02.24

  • はなちゃん

    はなちゃん

    天才ギタリストとジャーナリストとの大人の恋愛を描く一方で、芸術や音楽や映画、政治情勢や思想といった見聞が幅広く扱われていて、まさに大人向けの極上の恋愛をしっとりと、そして丁寧かつ緻密に表現した小説だった。

    たった3度しか会った事のない2人…
    運命という言葉で片付けるには手に余るほどの、男女の情愛が美しくて切なくて、その分危うさすら感じた。

    最後の第9章 マチネの終わりに 
    2人が初めて出会い、交わしたあの夜の笑顔から、5年半の歳月が流れていた。

    ここに辿り着くまでが本当に苦しかった。
    其々の登場人物との出会いに、新しい家族や仕事、
    そこに内在した苦悩や葛藤…
    その分、漸く辿り着けた出会いに涙がじんわりと溢れた。

    以下、作中で幾度となく登場する蒔野の台詞
    「人は、変えられるのは未来だけだと思い込んでいる。だけど、実際は、未来は常に過去を変えてるんです。」

    私も過去の経験が時を経て趣を変えていることに気付くことがある。本作でこの台詞がストンと胸に響いた。そしてこの2人に起こったほんの些細なかけ違いも、きっと気付かないだけで私たち誰にでも起こっている事なのだと感じた。
    それも含めて人生だなぁなんて少し達観しながら、やはりそれでも歳を重ねる毎に一年という月日の速さに驚かされる。

    読後に一人とっぷりと余韻に浸るのが心地よい作品で、極上の食事を堪能した様な読後感だった。



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    投稿日:2023.09.04

  • すあま

    すあま

    このレビューはネタバレを含みます

    恋愛を描いた小説が読みたいと思い手に取った本。

    読み切るのに少し時間がかかったので、あまり話に入り込めなかったというのが正直なところ。
    独特な言葉の表現方法が私にはなかなか難しく、ことばのひとつひとつを心の中にスッと溶け込ませることができなかったので、物語への没入感は少なめでした。

    内容は恋愛小説ではおなじみのすれ違いが二人の運命を狂わせてしまうというもの。
    しかし、最後のシーンはついウルっときてしまいました。

    高貴な(私にとっては高貴な存在です)2人が最後に公園でフッと笑い合えたらそれは素敵な結末なのかもしれないなと思いました。

    この話のキーワードとなる以下のセリフは、私もなんだか心に響くものがありました。
    メモとして残します。

    →本を読んだ後映画も鑑賞しました。
    だいぶ内容が変えられていましたが、私は小説の方が好みです。
    ただ、石田ゆり子さんはキャストにぴったりだなと^ ^

    ________

    人は変えられるのは未来だけだと思い込んでる。だけど、実際は、未来は過去を常に変えてるんです。変えられるとも言えるし、変わってしまうとも言える。過去は、それくらい繊細で、感じやすいものじゃないですか?

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    投稿日:2023.08.28

  • hibu

    hibu

    あー、切ない…。
    運命の出会いとなったアラフォー男女の恋の物語です。

    運命の悪戯や嫉妬による妨害で会えず。また40歳前後という分別のある大人然と振る舞うために、誤解を解くタイミングを逃したりして、すれ違うのがもどかしく、9割方読んでてツラいのですよ…。

    最後万々歳とは言えないがじんわり暖かいラストに救われました。

    恋愛だけでなく、第二次世界大戦やユーゴスラビア紛争、イラク問題などの社会情勢なども絡み、深く考えさせられた作品でした。
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    投稿日:2023.08.25

  • モモマサ

    モモマサ

    運命…さだめ…必ずあると私は思う!いや、あってほしい…とおもわせる本です。

    二人はこれからどんな人生を歩むのかな〜 

    二人の幸せを願って…


    ぜひ〜

    投稿日:2023.08.05

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