【感想】「ドイツ帝国」が世界を破滅させる 日本人への警告

エマニュエル・トッド, 堀茂樹・訳 / 文春新書
(80件のレビュー)

総合評価:

平均 3.4
7
24
30
6
1
  • 論理建てと翻訳が良くて読みやすい情況論

    「ヨーロッパはドイツのリーダーシップの下で定期的に自殺する大陸なのでは」という人類学者のインタビュー集。日本とドイツは直系の家族構造から権威主義的なメンタリティが似るなどの指摘が興味深い。一方、地政学的には置かれている立場が全く違い、それがもたらしている状況の違いもうまく捉えられているように感じた。続きを読む

    投稿日:2015.07.08

  • ヨーロッパやアメリカ、ひいては全世界が恐れるべきなのは、ロシアよりドイツだ!

    パリでのテロを受け、これまで「ドイツ副首相」とまで揶揄され、埋没しがちだった指導力を急速に回復させつつあるオランド大統領。
    本書で展開される主張もこの事件を受けて多少変更されるかもしれないが、著者の根強い「ドイツ嫌い」は揺るがないだろう。

    ドイツは、権威主義的で不平等な文化の国であり、給与水準抑制策をたいした抵抗にも遭わず実施できる国であり、政権交代よりも好んで国民一致を実践する、途轍もない政治的非合理性のポテンシャルが潜んでいる国だとする。

    普通の人であれば、たとえ隣国に不満があっても、その国の長所、たとえば規律の高さや優れた工業力などがあれば、それを渋々ながらも認めるものだが、著者にかかるとその長所の源泉が自国の文化と相容れないと激しい拒絶を示すのだから、まるで取り付く島がない。
    ちなみに、著者の警戒すべき対象国には日本も含まれていて、この他にスウェーデンや、ユダヤ、バスク、カタロニアなどが、驚異的なエネルギーを生み出し得る社会文化として挙げられている。

    著者とすれば、「EUの優等国 = ドイツ」という評価がまず我慢がならないのだろう。
    ふつうヨーロッパの人々が恐れてるのは、ロシアの膨張主義の方だけど、著者はそれを「安定化」と肯定的に評価している。
    クリミアやウクライナをめぐる紛争で擡頭してきているのは、ロシアではなく間違いなくドイツだと考える。

    さらに昨今のドイツの、軍事的コストを負担せず、政治的な発言力を強め、裏切りととられるような反米的でアグレッシブな態度にも違和感を表明する。
    アメリカが真に恐れるべきなのは、ウクライナでの勝利による、ドイツシステムの拡大とロシアの崩壊なのだ、と。

    ドイツの民主主義に対する徹底した不和をどう評価するか意見が別れるところだが、ユーロ危機の実態やEU域内の各国の思惑とパワーバランスの変化など、傾聴に値する指摘も多い。
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    投稿日:2015.11.24

ブクログレビュー

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  • Mkengar

    Mkengar

    内容以前に最初の数ページで日本語のひどさにストレスが溜まりました。断言できますが、この翻訳、時間をかけずに翻訳し、誰も内容をチェックせずそのまま出版したものに違いありません。皮肉なことに日本語が一番しっかりしていたのが「編集後記」で、編集後記を読んでいる時だけは心が落ち着きました。訳者の略歴を見ると「フランス文学の名訳者」と書かれていますが、これが正しいとしたら、別人が翻訳しているのでは?という疑念も湧いてきました。学生が翻訳しているとか。

    その意味では非常に惜しい。トッド氏の主張はかなりユニークで偏っている感も拭えませんが、もし日本語訳がうまければ、星4つくらいの作品ではなかったかと想像します。正しい、正しくないという次元ではなく、こういうレンズでドイツを見ることもできる、という問題提示としては極めて興味深く読みましたが、いかんせん、「迷」訳のためトッド氏の言いたいことの数パーセントくらいしか理解ができませんでした。残念です。
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    投稿日:2023.04.27

  • echigonojizake

    echigonojizake

    フランスの知識人にドイツ嫌いが多い理由がよくわかった。彼の主張にももっともな部分はある。日本人向けに書いたという点も多少割り引いた方がよいかと。

    投稿日:2023.02.02

  • tomo112

    tomo112

    平和な日本にいると、ロシアによるウクライナ侵攻は
    社会主義専制国家によるヨーロッパ民主主義国家への
    暴走行為のように見えてしまう。

    著者のエマニュエル・トッドはフランスの人口学者。
    経済と人口動態から世界の力関係を見ると、
    ロシアの脅威よりもEU、ドイツを利するシステムこそ
    ヨーロッパひいては世界の脅威になり得る。

    前提としてヨーロッパ主要国の最近の情勢が分かっていないと、なかなか理解できない点も多いが、
    人口動態や人類学的な観察にもとづく論説であり、
    ものの見方としてためになる。
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    投稿日:2023.01.15

  • ライオン

    ライオン

    ドイツがEU圏内で歴然とした力を持つのはよくわかった。永遠のライバルである祖国フランスを卑下しつつも。日本人への警告はあまり多くなかったかも。知識量が豊富で、氏の主張は説得力があることばかり。でも前作で読んだとおり、ドイツ帝国よりアメリカの方が世界の不安定化に貢献してる気はする、実感として。続きを読む

    投稿日:2022.12.28

  • 横

    こういう見方もあるのかと感心しました。

    ドイツについて、EU内の位置、ロシア、そして、アメリカや、日本との対比を語っています。

    ドイツは、すでに二度にわたってヨーロッパ大陸を決定的な危機に晒した国であり、人間の非合理性の集積地の一つだ。
    ドイツというのは、計り知れないほどに巨大な文化だが、人間存在の複雑さを視野から失いがちで、アンバランスであるがゆえに、恐ろしい文化である。
    ヨーロッパは、20世紀の初め以来、ドイツのリーダシップの下で定期的に自殺する大陸なのではないか。
    ドイツはグローバリゼーションに対して、特殊なやり方で適応しました。部品製造を部分的にユーロ圏の外の東ヨーロッパへ移転して、非常に安い労働力を利用したのです。
    ユーロのせいで、スペイン、フランス、イタリア、その他のEU諸国は、平価切下げを構造的に妨げられ、ユーロ圏はどいつからの輸出だけが一方的に伸びる空間となりました。
    ヨーロッパのリアルな問題は、ユーロ圏の内部の貿易赤字です。

    エマニュアル・ドット氏は、ドイツが再びヨーロッパを自殺に追い込むのではないかと危惧をしているのです。

    気になったことは、以下です。

    ・EUはもともと、ソ連に対抗して生まれた。ロシアというライバルなしでは済まないのだ。
    ・ごく単純に、紛争が起こっているのは昔からドイツとロシアが衝突してきたゾーンだということに気付く。
    ・ドイツが台頭してきたプロセスは驚異的だ。東西再統一の頃の経済的困難を克服し、そして、ここ五年間でヨーロッパ大陸のコントロール権を握った。
    ・ドイツが持つ組織力と経済的規律の途轍もない質の高さを、そしてそれにも劣らないくらいに、途轍もない政治的非合理のポテンシアルがドイツにはひそんでいることをわれわれは認めなければならない。
    ・もし、ロシアが崩れたら、あるいは譲歩しただけでも、ウクライナまで広がるドイツシステムとアメリカとの間の人口と産業の上での力の不均衡が拡大して、おそらく西洋世界の重心の大きな変更に、そしてアメリカシステムの崩壊に行き着くだろう。アメリカが最も恐れなければいけないのは、今日ロシアの崩壊なのである。

    ・果たして、ワシントンの連中は覚えているだろうか。1930年代のドイツが長い間、中国との同盟か、日本との同盟かで迷い、ヒットラーは蒋介石に軍備を与えて彼の軍隊を育成し始めた事があったということを。

    ・イギリス人は、ある種のフランス人とは違い、ドイツ人に従う習慣を持っていないのだ。「英語圏」つまり、アメリカや、カナダや旧イギリス植民地に属している。
    ・エネルギー的、軍事的観点から見て、日本にとって、ロシアとの接近はまったく論理的なのであって、安倍首相が選択した政治方針の重要な要素でもある。

    ・乳児死亡率の再上昇は、社会システムの一般的劣化の証拠なのです。ソビエト体制の崩壊が間近だという結論をひきだしたのです。人口学的データはきわめて捏造しにくいのです。

    ・ロシアでは、ソ連時代から、継承された高い教育水準が保たれていて、男子よりも女子のほうが多く大学に進学しています。また、人口流出よりも、流入のほうが多いことからも、ロシア社会とその文化が、周辺の国にとって魅力的なのだということが分かります。

    ・KGBとその現代版である、FSBはロシアのエリート育成機関なのです。

    ・日本社会とドイツ社会は元来の家族構造も似ており、経済面でも非常に類似しています。産業力が逞しく、貿易収支が黒字だということですね、差異もあります。この二国は、世界でも最も高齢化した人口の国です。人口構成の中央値が44歳なのです。

    ・ビスマルクに関して言えば、私はここで告白しておかなくちゃなりません。あれは実に見上げた人物だと思っているのです。いったんドイツ統一を成し遂げたとき彼はそこで止まりましたね。限定的な目標を達成して、そこで止まる器量のあった稀有の征服者です。

    ・EUの喫緊の問題は、ユーロではなく、債務危機です。明晰になろうではありませんか。主権国家の政府債務が返済されることは絶対にないのです。

    ・今日大陸全体にひろがる怒りのタネである単一通貨は、初めからヨーロッパなるものの否定だったのです。だから私は、はじめから単一通貨に反対でした。ユーロを救う必要が欧州レベルの保護主義を促すだろうと考えたのです。ですから、現段階で、私の選択は、ヨーロッパ保護主義によるユーロの救出ということになります。

    ・社会構造がすでに個人単位となり、いわば原子化sれているため、集団行動にブレーキがかかるのです。集団的な異議申し立ての持つパワーを私は信じません。

    目次は次の通りです。

    1.ドイツがヨーロッパ大陸を牛耳る

      自ら進んでドイツに隷属するようになったフランス
      ウクライナ問題の原因はロシアでなくドイツ
      ドイツがヨーロッパ大陸を牛耳る
      アメリカとEUの産業上の不均衡
      アメリカと「ドイツ帝国」の衝突

    2 ロシアを見くびってはいけない

    3 ウクライナと戦争の誘惑

    4 ユーロを打ち砕くことができる唯一の国、フランス

    5 オランドよ、さらば! 銀行に支配されるフランス国家

    6 ドイツとは何か

    7 富裕層に仕える国家

    8 ユーロが陥落する日

    編集後記
    続きを読む

    投稿日:2022.10.11

  • minusion

    minusion

    「問題は英国ではない、EUなのだ」とよく似た内容ではあったが、EUの主導権を握っているのがドイツであり、EU自体が一枚岩になっていないことが理解できた。
    他民族が一緒に暮らすコンビビアリティの難しさを実感し、これから世界はどの方向に向かっていけばいいのかわからなくなった。続きを読む

    投稿日:2022.08.17

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