【感想】しんがりの思想 反リーダーシップ論

鷲田清一 / 角川新書
(18件のレビュー)

総合評価:

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  • たまたま「鹿の王」のあとに読みました

    グローバリズムと膨張国家の狭間でコミュニティが縮んでいく勢いが収まらないなか、いかに生きやすくあれるかをめぐる様々な思考の現在地。現状を言い表す「押しつけとお任せの合わせ鏡」という言葉がじわじわくる。期せずして上橋菜穂子著「鹿の王」とテーマが近く、そういう時代認識が生活感覚ともフィットしていて興味深かった。続きを読む

    投稿日:2015.06.12

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  • つー

    つー

    社会は変わり人も変わり生き方も時代も変わった。かつて戦後復興から奇跡的に世界のトップにまで上り詰めた高度成長。何をするにも働き手が不足し「24時間働けますか?」の掛け声の元、土日返上寝るのも惜しんで人は働き続けた。実際私の父も土曜日は当たり前の様に働き、日曜に仕事に行く事も何度もあった。今考えたら一体いつ休んでいたのだろう。家にはテレビ、冷蔵庫、エアコンは当たり前、何不自由なく生活できた上に、小学生の時には家も建て替えられ、自分の部屋を持って自分専用の本棚、一人で占有するベッド。何もかもがあった。パソコンだって今では考えられないハードディスク装置(今はFlash、SSDが当たり前だが)すら無い、ペラペラの5インチフロッピーディスクに全てが詰まっていた時代だ。家に50万円以上するパソコンで遊ぶ(勉強ではない)ために、学校から友達が集まってきた。
    そんな時代は人口も増え経済は確実に拡大していた。だから今日より明日、明日より明後日と毎日便利に裕福になっていたようだ。
    今はどうだろう。平成20年(2008年)からはいよいよ日本も人口減少時代に入った。人口が減るということは、当たり前だが、二人の親が二人以上の子供をもうけない社会だ。当たり前ではあるが、年月が過ぎれば人は確実に死に向かうから、現在の様な出生率1.2%程度では確実に減少に向かう。
    かつての人口増加、経済拡大の時代は何をやっても明るい未来しか想像できなかったが、バブルが弾け、経済が急激に萎み、更には人口減少と続く社会に於いては、これ迄とは違った戦略とものの考え方が必要になる。
    本書はそんな縮小傾向に向かう日本においてはどの様な考えで生きていく必要があるかを説いている。タイトルにある「しんがり」とは、軍隊で言えば撤退する際に、味方を逃し最後尾で戦う部隊だ。山登りの一番最後尾は最も山を知り尽くし、隊の誰かに大事があれば真っ先に手を差し伸べる役割を担っている(よって隊を先導する先頭には実力2番目の隊員が立つ)。今、人口減少、経済縮小に向かう日本を「撤退戦」と見たてて、そこに必要な人材に迫る。それはグイグイみんなを引っ張るリーダーシップではなく、後ろから支えるフォロワーシップになる。
    本書は最初にそうしたリーダーシップ本が多いことに苦言を呈しているが、確かに会社にリーダーシップばかりの人材が溢れたら、それは単なる我の強い個人戦になりかねない。誰かが倒れても誰かが代わりになれるのは良いが、果たしてその様なチームに纏まりはあるだろうか。寧ろ静かに黙々と仕事をこなすメンバーがいてこそチームは成り立つ。全員が我よ我よと我を全面に押し出していたら纏まりはないだろう。メンバーの個を生かしチームとして後ろから支える様な力が必要だ。
    またメンバーが自分くらい良いやと無責任になれば、物事は成し遂げられない。一人一人が自分の領域に責任感をもって熱心に取り組む必要がある。本書はそうした状態を、選挙で選ばれた政治家と民衆の関係に例える。選んだ方は、無責任に政治家に「押し付け」るし、選んだんだからやってくれと「おまかせ」してしまう。これはかつての日本が子供を地域で育てた時代とは明らかに違う。昭和の子供は近所中にお母さんがいた。どこに行っても可愛がられたし、その逆に怒られもした。社会全体が子供を育てることに対して責任を持っていた。
    本書はこうした例を次々と挙げて、各自が責任を持つことの重要性と、縮小に向かう日本における戦い方を示す。
    経済は中国語の「経世済民」からきた言葉だ。政治が世の人々を勝手に救い続ける時代では無い。そのうち医療や教育に携わる人間も減っていく。その一方で何もかも頼りきりの人間だけが増え続ければ何は破綻するのは目に見えている。私は自分を自分で責任もって生かしていけるだろうか。少なくとも、食べて暮らしていけるだけの元気な体と体力を責任もって維持していきたい。
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    投稿日:2023.07.04

  • きゃん

    きゃん

    しんがりの思想
    2023年1月28日読了

    本書では一貫して、誰かに責任を「押し付け」るこの国のリーダーたちと、政治や行政に対しクレームという形でした参画できず、「消費」する存在として「おまかせ」している市民のあり方を「これで本当に社会はよくなるのだろうか?」と批判している。

    2015年に初版が発行され、すでに8年の月日が流れているワケだが、社会はあまり変わっていないように思う。むしろ、コロナ禍となったことで益々分断が加速し、人々はどんどん孤立していっているのではないだろうか。一番手近な社会参画のあり方である選挙においても、その投票率の低さに変化はなく、一種の諦めさえ感じられる。
    また作夏、安倍前首相が射殺されるという大変遺憾な事件が起こり、その余波として加害者を持ち上げるような声もある。

    わたしたちはいまだに「強いリーダー」を切望し、自分たちで変革を起こそうとはしない。あくまで受け身でしかないのだ。だからこそ、人を殺めるという形でしか変化を生み出せなかった加害者に対してでさえも、変革を生み出すリーダーとして崇める動きが生まれてしまうのだろう。「押しつけ」と「おまかせ」は現在でも幅を利かせているのだ。

    しかし、かく言うわたしもそんな社会の「顧客」「観客」の一員であり、「当事者」としてどうしていいかがわからないのだ。

    そんな路頭に迷う子羊たちに筆者は「押し返し」という提案をする。
    それは買い物として「選ぶ」ことであり、他者に対して“Can I help you?”と声掛けができるということである。そんな日常の小さなことから始めてみようという、ささやかな提案。暮らしこそ基本であり、最初はそれでいいのだと救われた気がした。
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    投稿日:2023.02.08

  • もえたろう

    もえたろう

    私たちは『いのちの世話の能力を失っている』という言葉にとても納得した。
     指一本で何でも動かせて便利になって幸せ〜って思ってたけど、実はそうではない。
     自分で自分の世話ができてない。お風呂も洗濯もお皿洗いも買い物も全部人間がやらなくなってきている。

     時代の流れもあるし、人に頼ることは必要だけど、いい意味のものではなく、悪い意味で頼りすぎているのかも。


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    投稿日:2022.10.14

  • ゆき

    ゆき

    大学の推薦図書で読みました。題名と内容が一致する部分は少ないが、現代社会の問題、といってももっと根本的な考え方の問題に触れている。なるほどなと思った。しんがりという言葉が好きになったし石工みたいになりたいと思った。続きを読む

    投稿日:2022.02.03

  • kamitako

    kamitako

    右肩下がりの今であるからこそ、一人ひとりが自立を考え、慎ましやかな人生を選択する必要かあるのだ、と共感しました。
    インターディペンデンスのくだりは頻出過ぎてクドイ印象だが、主張は肯定に値するものです。

    投稿日:2018.12.21

  • y_doka

    y_doka

    各論には反対、というかとうていついていけないようなところがあるけれど、現在の市民はあらゆることに「おまかせ」になっているという批判については同意。
    最近の著者は、だから草の根でも何かやろうよ、という立場で、実際にそれを実践していたりするのね。続きを読む

    投稿日:2017.08.15

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